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蒼い炎9

 アキさんが逃げるように目の前を走って去っても、追いかける事が出来なかった。当然だ――下半身がこんな状態では、そこら辺すら歩けない。 『押し付けられる想いは、迷惑にしかならないよ。それに今みたいに抱きついたり嫌なことをするようなら、俺にも考えがあるから』  押し付けたくて告げているわけじゃない。少しでもいいから、自分の気持ちを分かってほしいだけなのに。俺以外の誰かのことを想ってる切なげなアキさんの顔でも、こんなに愛おしく想っているのだから。 (でもビックリだな、男相手に勃っちゃうなんて……。きっとアキさんも気がついているから、すごく慌てていたんだろう)  はーっと深いため息をつきながら、窓から見える外の景色を見た。どんよりとした曇り空は、まるで自分の心の内のようだ。 「あ~あ、講義はじまっちゃったな。どうしようか……」  呆れながら暫くその場に佇んでいたら、ある程度下半身が落ち着きを取り戻したので、カフェテリアに行こうと身を翻した。  気落ちしながら下を向いて歩くと、誰かの話し声が耳に聞こえてくる。辺りがしんと静まり返っているため、否が応でも聞き取れてしまった。  人の話なんて聞いてはいけないものだから、いつもならやり過ごすところなんだけど、ボソボソした声でも聞き覚えのあるそれに導かれるように、階段へ向かって歩を進める。 『ありがと。来てくれる日を、指折り数えて頑張るね』  靴音を立てないように注意深く近づいたら、階段の下にある窪みのところから聞こえてきたアキさんの声。それはとても可愛らしく弾んだもので、俺の聞いたことのない声色だった――それだけでも妬けるというのに……。 『愛してる、穂高さん』  少しだけ照れの混じった言葉が、ずしりと心に圧し掛かった。 「くっ……」  どんなに想っても彼からは告げられることのないその言葉に絶望感を覚えて、眩暈で頭がクラクラする。  胸が張り裂けそうなくらい、アキさんが好きなのに――俺は君の笑顔を曇らせる、忌まわしい存在でしかないんだよな。  ふらつく足取りでその場を離れ、一気に階段を上がった。空き教室を探してあちこちを彷徨い、2階上の階段傍にある教室に足を踏み入れる。  音を立てて扉を開け、壁にズルズルと寄りかかりながら、きゅっと下唇を噛み締めたとき、胸の奥底で何かが光り輝いた。開けっ放しにしている扉をそのままに目をつぶり、それをじっと見てみる。最初は白っぽかったのに徐々に蒼みを増していき、心の中でメラメラと燃えはじめた。 (これは……アキさんを想う俺の気持ちなのかな? どこか寂しげな色だけど、それでも――)  音を立てて煌くように燃え盛っているこの炎を使って、君を奪うことが出来るなら本望だよ。  蒼い炎のお陰で、グラつく心に決心がついた。アキさんに向かって真っ直ぐに、突き進む決心が――。

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