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たくさんの好き――(穂高目線)
「そろそろ風呂、入ろうか」
どこかぼんやりしながらテレビを見ていた千秋に唐突に提案すると、意味ありな上目遣いでじっと俺を見てから。
「……うん」
ワザとらしく視線を逸らせて、返事をしてきた。
一緒に入りたくない理由が、何かあるんだろうか? 知らぬ間に怒らせるような何かを、俺がやってしまった?
などと、いろんな不安に駆られたのも束の間――
仕掛けてくれたのは千秋から。キスしようと屈みかけた俺の首に両腕を回し、触れるだけのとても優しいキスをしてきた。
その珍しい行為にされるがままでいたのだが、もどかしさが手伝ってしまい、自分から舌を絡めてしまった。
(――もしかして、ぼんやりと考え事をしていたのは、このためだったのか!?)
嬉しいハプニングに、否応なしに身体が疼いてしまう。
いつもより大胆な千秋に対し、容赦なく求めるように深くくちびるを押し付けながら、少しだけ顔の角度を変えて、普段責められない場所に刺激を与え続けてやる。
「っ……んっ」
千秋から発せられる甘い声をもっと聞きたくて更に身体を引き寄せ、貪るようなキスをしてみた。
――弱ったな、翻弄するつもりが俺が翻弄されてる……。
こんなに何度も抱き合っていれば、飽きてきてもおかしくないはずのに、見たことのない新しい君を次々と魅せつけられるから、どうしようもなく堪らなくなってしまうんだ。
薄目を開けて、感じているであろう千秋の顔を間近で見る。俺しか見ることの出来ない、愛おしいその顔を胸の中へと焼き付けた。
守りたい人が出来た、寂しかった冬。
そして――
ふたり揃って、はじめて過ごしているこの夏を、俺は絶対に忘れない……忘れたくはない。君がいなかった時間は、まるで永遠のように感じられたけど、一緒にいる時間が、ほんの一瞬に感じてしまうから。
だから、たくさんの好きの気持ちを込めて、君に愛を贈ってあげるよ――
おしまい
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