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―純血の絆―③ヴァンパイアとしての愛し方4

「穂高さん、あの……」 「わかってる。今の君の血を吸っても、無意味なものになるね。だが――」  柔らかい唇が俺の肌を甘噛みした。牙が当たらないように何度も噛む、優しいその行為に、自然と息があがってしまう。 「大好きな君を愛したい。愛させてくれ千秋」  穂高さんの低い声色を聞いただけで、どうにかなってしまいそうだった。 「ここに来てくれて、すごく嬉しいです」 「つらいときは、遠慮なく呼んでほしい。能力を使って、すぐに飛んでいくよ」 「お仕事、忙しいのに……」  感じて掠れてしまった俺の言葉を聞いて、穂高さんがやっと顔をあげる。見下ろしてくる視線は、とても優しさを感じさせるものだった。 「確かに仕事は忙しいが、数日間俺がいなくても支障はない。それに仕事には労働者の代えがきくが、千秋はこの世にひとりしかいない、俺のとって大切な存在だ。かけがえのない君が、ここで苦しんでいるのが分かっているというのに、傍に駆けつけない恋人がいると思うかい?」 「それは、そのぅ」 「しかもその原因を作ったのは、この俺だ。今度からは、遠慮せずに言ってほしい。つらいって、傍に来てくれって。お願いだから、もっと我儘を言ってくれ」  切々と語った穂高さんは、俺をぎゅっと抱きしめた。息苦しさすら感じさせる抱擁なのに、今の自分にはそれすら、心地よく感じさせるもので――。 「穂高さん、俺ね……」 「ん?」 「貴方にこうして愛されるだけで、涙が出そうになる。嬉しくて、どうにかなってしまいそうなんですよ」  さきほどまで感じていた吸血衝動が、みるみるうちになくなっていくのを感じた。あれだけ喉の奥が干上がっていたのに、今は何かで満たされている。 「千秋、人間の姿に……」 「戻ってるみたいですね。穂高さんの想いを躰全部で感じていたら、自然と苦しさがなくなっていきました」  穂高さんの大きな背中に腕を回して、同じように抱きしめ返してみる。すると肺の全部を使ったような、深いため息をひとつついてから「よかった」と低い声で呟いた。 「きっと穂高さんの血で吸血鬼になったから、穂高さんの優しさで治まってしまうのかもしれませんね」 「だったらますます、俺が駆けつけなければならないね。まいった……」  俺のオデコにこつんと自身のオデコをぶつけて、困ったように笑う大好きな顔が目の前にある。薄暗がりだし、近すぎて焦点が合わなくてよく見えないけれど、笑ってる感じが言葉と一緒に伝わってきた。 「吸血衝動がなくても、俺が今すぐ来てって我儘を言ったら、駆けつけてくれますか?」  告げた途端に離れていく顔。鮮血のように赤い瞳が俺を射竦める。 「それはどういう意味で、俺を呼んでいるのだろうか?」 「どういう意味って、それはその……。寂しいとか顔を見たい、なんて」  俺を見下ろす穂高さんの真顔は、言葉を言い淀んでしまう迫力が、雰囲気でひしひしと伝わってきた。 「なんだ。てっきり、誘われているのかと思ったのだが」 「誘っ! そんなの違いますって」 「だって、ほら、ね?」  小さく笑いながら、下半身を俺のに擦りつけた。 「ンンっ!」 「吸血衝動がなくても、俺を呼んでくれ。こうして駆けつけて、すべてを楽にしてあげる。快感と一緒に――」  俺の首筋に穂高さんが牙を突き立てた瞬間、痛いくらいに自身が張り詰めた。 「ん、ふ、あぁ……」  俺の中にある欲を引き出す唾液の作用で、はしたないくらいに先走りが出たのが、下着の濡れ具合でわかった。 「んっ…は…ぁっ……!」  耳の傍で聞こえる血を飲む音や、穂高さんの小さな息遣いでさえ、俺を感じさせるものになる。 「……悔しいな。俺の唾液でそんなに淫らになるんじゃなく、千秋を感じさせることのできるこの手やその他のモノを使ったときに、淫らになってほしいのだが」 「ほ、ほらかさ、んっ」  俺に跨ったままの穂高さんが、服を脱ぎ捨てる。しなやかな上半身がカーテンの隙間から差し込む月明かりに反射して、神秘的に俺の目に映った。  それにドキンとして顔を逸らしかけたら、暗闇でもよく見える赤く光った瞳を切なげに細めたまま、仰向けで横たわる俺のシャツに手を伸ばす。 「んんっ……ぁっ」 「服を脱がしているだけなのに、そんなに感じてしまうとは。俺のがほしいのかい?」  意地悪そうに笑う彼の首に両腕をかけて、ぐいっと引き寄せた。 「確かに穂高さんがほしいけど、それだけじゃ足りないです」 「足りない?」 「穂高さんの全部を俺にください」  大好きな穂高さんを煽るように、自分から口づけた。牙の隙間から舌を差し込んで、彼の舌に絡めてみる。自分のやってる行為と唾液の作用で、全身が火照ってしょうがない。 「だったら、千秋の全部を俺がもらうよ。覚悟はいいかい?」  もっと責めようとした俺を一瞬引き離して、しっかり告げられた言葉。それに答える前に塞がれてしまう唇。  この夜は空が明けるまで、互いを貪り合った。これからもずっとこうしていこうという、約束を交わすように――。 おしまい

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