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蒼い炎17
***
全てを捨てて、隣町にある実家に戻った俺。準社員として運送会社に勤めて、半年が経とうとしていた。
ちょうどお中元シーズンでたくさんの荷物に囲まれつつ、配送の仕事に勤しんでいる。忙しさの中に身をおいていると、余計なことを考えなくて済むからとても助かるんだ――。
そう、あのときの出来事を……大好きな人を傷つけてしまった事実は、今でも思い出すとつらくて切ない。
大学を去る前に、ゆっきーにメールでさよならを告げた。大学でもコンビにでもお世話になりっぱなしだったから、どうしても挨拶しなきゃと思ったから。
『ゆっきーへ
突然だけど大学を辞める。コンビニのバイトも。
俺、アキさんをキズつけてしまったんだ。その罪滅ぼしにはならないだろうけど、ここから出る決心をしました。
ゆっきーにはバイトの相談や勉強の事で色々お世話になっていたのに、投げ出す形になってしまってゴメン。元気でね』
そんな簡潔すぎるメールを送信したら、いきなりスマホに着信があってディスプレイで確認したら、ゆっきーからだった。
「もしもし……」
喋りにくいなぁと思いながら、恐るおそる電話に出る。
「ううっ、竜馬ぁ~。ゴメンね、ゴメン……」
それは今まで聞いたことのない友人の大泣きしている声で、あまりの様子に焦るしかなく――。
「ゆっきー、ちょっと待って。いきなり謝られることなんか、俺はしてないし」
「ううん、そんなことないって。竜馬からのメールを読んで考えさせられたんだ。ひっく……だってさ、俺は千秋の話しか聞いてなくて、同じ友達のお前の話を……うぅっ。全然聞いてあげていないじゃないか。それって酷いヤツだって、批難してもいいくらいだと思うんだよ」
ヤバい、もらい泣きしそうだ――アキさんと同じく、ゆっきーもすっごく優しすぎるよ。
「竜馬、何も出来なくて本当にゴメンね。こんな俺だけどさ、ここからいなくなっても、友達でいてほしいんだけど」
「俺こそ……アキさんを傷つけちゃった俺だけど、友達でいてくれるの?」
「もっ、うっく……もちろんだって! だから転居先の連絡、ちゃんと教えてくれよ。遊びに行くし」
心優しい友達の提案のお陰でアキさんがその後、元気になったことを知った。
井上さんが面倒を見続けると言った潔い気持ちが届いたから、きっと正気に戻ったのか。あるいは、お互いに想い合ってる気持ちが通じているから、アキさんが目覚めたのか――俺には絶対に出来ないことを、やってくれた井上さんに感謝するしかない。
遠く離れているけどこの青空の下に、アキさんが元気で過ごしていると思っただけで、頑張れる自分がいる。もう二度と逢えないけれど。
「あれ? 同じ住所にたくさんの荷物があるな。うわぁ、5……6、7、8個!?」
次の配送の準備をすべく、トラックの中で荷物の整理をしていた。
「宛先は――っと、紺野茂秋……」
手にした荷物を持つ手に、自然と力が入ってしまう。アキさんと同じ苗字の人。名前にも同じ漢字が使われているせいで、意識せずにはいられなかった。
「親戚かなぁ。でも住んでるところが高級住宅街のど真ん中だからこそ、アキさんと繋がらないや」
それでもその荷物をいつもより丁寧に扱ってしまう自分は、バカみたいだと思う。ただ名前が似てるだけなのにな。
そんなくだらない小さな幸せを胸に噛み締めながら、今日も仕事に勤しんだ。アキさんに負けないように、元気でいるために――
【Fin】
※竜馬くんのその後のお話は、【残火―ZANKA―】に掲載しております。お暇な時にでもどうぞ!
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