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トロけるようなキスをして(穂高目線)

 街に色彩を与えていた紅葉が、冷たい秋風にその身を任せて、アスファルトの上をカラカラと乾いた音を立てて転がっていく様を、煙草を咥えたまま、ぼんやりと眺めていた。  千秋と出逢った時には、色付き始めていた頃だと記憶しているのだが、いかんせん曖昧だ。それだけ彼のことに、夢中になっていたから――  店員と客以上の関係になるべく親しげに話しかけて、何とかキッカケを作り、騙した形で車に乗せたっけ。 「今となっては、懐かしい思い出だ」  ぼそっとごちながら、燻らせていた煙草の火を消すべく、車の中にある灰皿に押し付けた。あと少しで、コンビニの仕事を終えた千秋が出てくる。  今夜、ホストの仕事がいきなり休みになったので彼を驚かせるべく、隠れて出待ちをしているのだが。外の寒さよりも、ワクワクした気持ちでいるため、寒さを全く感じずにいた。  寒がりな自分が、寒さが平気なんて可笑しな話だなと、笑いを噛み締めたとき、ドアを開ける金属音が耳に聞こえる。  コンビニの影から、顔だけそっと覗かせて様子を窺うと、両手を擦り合わせ肩を竦めた細身の身体が、そこにあった。 「ひとりで見るよりもふたりで見た方が、もっとキレイなんだろうな……」  小さな声で呟きながら、夜空を見上げる千秋に、愛しさが募ってしまう。俺のことを想ってくれる千秋が、どんどん好きになってしまうじゃないか。  嬉しさを口元に湛えつつ、足音を立てないように、ゆっくりと近づく。両手に息を吹きかけて、温めながら歩き出す身体を、さらう様に後ろから、ぎゅっと抱きしめた。  その瞬間、千秋の髪の香りが鼻腔をくすぐる。俺の大好きな匂い―― 「お帰り千秋。今日もお疲れ様」 「……穂高、さんっ!?」  それはそれは、驚いた声をあげ振り返ると、大きな瞳を更に大きくして、俺の顔をじっと見上げた。その視線からは嬉しさが滲んでいるのが分かり、微笑まずにはいられない。 「今夜は冷えるせいかな。やけに千秋の身体が、あったかく感じるよ」  率直な感想を言うと、身体に回してる腕をぎゅっと掴み、照れた表情を浮かべ視線を外して、ふわりとはにかんだ。  俺と付き合ってから、いろんな顔を見せてくれる千秋に、ずっと目が離せない。 「穂高さんの身体も、すっごくあたたかいですよ。まるで背中に、毛布をかけられているみたい」  嬉しいことを言ってくれるな。――君の身体の方が、俺よりもずっとあたたかいというのに。  避けられた視線を、追いかけるように合わせてみると、腕を掴んでいる片手を放し、俺の左手にそっと触れる。 「ねぇ、いつからここにいたんですか? 車が見当たらなかったんだけど」  浮かべていた微笑みを消し去り、眉根を寄せる。そんな顔しなくても、君がいれば寒さなんて、へっちゃらなのに。 「千秋を驚かせようと、コンビニの影に隠しておいた。今夜はお店が、臨時休業になってね」 「そうなんだ。ビックリしちゃいました」 「ふっ、驚いてくれて何より。ホストの仕事も順調で、めでたくナンバーになれたよ」 「もう、ナンバーになったんですか!?」  千秋が驚くのも無理はない。――だってホストとして働き出して、1ヶ月しか経っていないのだから。  メンズキャバクラ・Shangri-La(シャングリラ)オーナーの義兄さんが手を焼く、ホストたちの働く場所。  店長の大倉さんは、売り上げが横ばいなのに企業努力を全くせず、どこ吹く風状態。店長がその様子なので、従業員も残念な接客しか出来ずにいた。  そんな店に、バイトとして派遣された俺。千秋には一緒に暮らすための、資金を調達する為に働いてると言っていたが実際は、義父の会社の資金を調達する為に働いているのである。  そのお金は先払いで、義兄さんから頂戴しているので、必然的に頑張らなければならないんだ。  千秋に言えないような暗躍をし、従業員を調教しつつ、ナンバーを目指した結果、実にすんなりとその地位を勝ち取ってしまったのだが。  大好きな彼に、隠し事をしなければならない事情が、かなり辛い―― 「ん……、いろいろあってね。それに前に勤めていた時のお客さんを呼んだりして、お店に貢献してるから」  俺の手を温めようと、撫で擦っている手を取り、車へと引っ張って歩いた。 「明日、大学は?」  ホストの話は、どうも答えにくいものがあるし何より、千秋の顔色が冴えない。故にさっさと、話題転換をしてあげた。 「えっと、午前10時から講義が……」  ちょっとだけ困った顔をしながら助手席に乗り込み、たどたどしく答える。 「それなら、お泊り決定だな。覚悟しろよ」  朝一だろうが午後一だろうが、どっちにしろお泊り決定だったけどね。  クスクス笑いながらエンジンをスタートし、マンションに向けて、闇夜に車を走り出した。 ***  遠慮がちに家に足を踏み入れる千秋の肩を抱き寄せて、やや強引に自宅に招き入れてあげた。恐々とした表情を浮かべる理由は明確だ。――以前ここに、ホスト時代にお世話になったお客様と、鉢合わせをしたことがあったから。  また誰かがいるのではないかと不安げな様子でキョロキョロしている、千秋の背後から腕を回して、ブルゾンのファスナーに手をかけながら、こめかみにキスを落してやる。 (大丈夫だよ。俺たち以外、誰もいないから――)  そんな気持ちを込めて微笑んでみせると、浮かべていた不安げな表情が幾分和らいだので、手にした上着を脱がせてさっさと自分もコートを脱ぎ、キッチンに足を運ぶ。 「夜中だけど、コーヒー飲むかい?」 「あ、スミマセン。前と同じく、カフェオレでお願いします」  千秋の華やいだ声に顔だけで振り返ると、口元に嬉しげな笑みを湛えた姿があって。その表情で、俺が淹れたカフェオレを初めて飲んだことでも、きっと思い出しているんだろうなと、容易に想像ついてしまった。 「分った、甘めにしておくよ」 「ありがとう、ございます……」  その笑みにつられて、微笑み返しながら答える。  千秋と一緒にコーヒーを飲むだけで、こんなにも気持ちがフワフワしてしまう。その後のことを考えたら、どうにも落ち着かなくて、とんだドジをしそうだ。  ケトルに水を入れコンロにかけながら、何とか気を引き締めた。付き合う前に思いきり、恥ずかしいところばかりを見せてしまった自分。  千秋に連日付きまとったせいで風邪を引き、無様な姿を晒して彼の家でお世話になったり、その礼をすべくキスして抱きしめた途端に、お腹を鳴らしてしまったり。  挙句の果ては、俺の風邪を貰って千秋が寝込んだ時に、早く良くなってもらおうと考え、栄養ドリンク12本全部を飲ませようとしたミスは、今となっては穴があったら入りたいレベルである。  これ以上バカなことをして嫌われないようにせねばと、背後にいる千秋をチラリと見たら、ぼんやりした顔して、俺をじっと見つめていた。  もっともっと、俺を好きになってほしい―― 「……あの、穂高さん?」 「そんな顔して、俺のことを誘ってる?」  ――君をもっと魅了して、求められる存在になりたい。 「さ、誘ってませんっ、全然そんなつもりなくって」  顔全部を真っ赤にしながら、首を横にぶんぶんと振りまくった。 「悪い。俺が誘われた錯覚に、つい襲われただけ。でもたまには誘われてみたいかも」  可愛い仕草をする千秋に俺の願望をほんのり伝えてみたら、俯いて照れた顔を隠しながら、後ろからぎゅっと抱きついてくる。素直に行動にうつしてきた彼の身体から、火照った熱が伝わってきて、胸の奥が疼いてしまった。 「……おっと、随分と今夜は大胆だね。誘った甲斐があったようだが、タイミングが悪い」 「(。´・д・)エッ!?」  苦笑いを浮かべ、千秋に見えるように手元を見せてやる。コーヒーフィルターに、粉砕されたコーヒー豆を入れようとしていた瞬間だったためタイミング悪く、それがキッチンの上にこぼれてしまったのだ。 「わっ、ゴメンなさいっ」  布巾でこぼれてしまったコーヒーの粉を拭いていると、大きな瞳を揺らしながら、何度も謝る千秋。 「抱きつかれるのも謝られるのも千秋にされることは、何もかも新鮮に感じるな。胸の中が、じわっと満たされていくよ」  キッチンを綺麗にしつつ、横目で謝り倒す千秋を見ていたせいで、ガマンが出来なくなってしまった。本当はもっと、後にしようと思っていたんだが――  まっすぐな黒髪をまとう後頭部に手を伸ばして引き寄せ、強引にくちづけた。 「ん……っ」  久しぶりの千秋とのキス――。柔らかいくちびるに触れただけなのに、身体の中心に熱を持ってしまう。  甘い吐息をあげる千秋に呼吸を奪うようなキスをしかけたら、沸騰を知らせる音が耳に聞こえてきた。 「これからって時に、空気の読めないケトルだ」  千秋のくちびるをもう少し堪能したかったのになと思いながら、目の前にあるキレイなカーブを描いている頬に、ちゅっとしてあげる。 「ふたりきりでいる時間が限られているからこその、貴重な抱擁タイムを……」  名残惜しげに身体を手放し、ブツブツ文句を言いながらコンロの火を止めた。 「ソファに座って、待っていてくれ。すぐに行くから」 「はい……」  途端に寂しそうな表情を浮かべ、顔色を曇らせる千秋。離れていた分、傍にいたいという気持ちが表情から手に取るように分かり、 「……そんな顔しないで。すぐに、傍に行くよ千秋」  宥めるべく、頭をくちゃくちゃと撫でると途端にくちびるを尖らせ、面白くなさそうな顔をして、ぷいっと背中を向けリビングに向かってしまった。 (少しでも傍にいたい気持ちは、俺だって同じなのにな)  ただコーヒーを淹れるだけ。そんな作業でも傍に千秋が傍にいると、無駄にイチャイチャしてしまうので、倍の時間がかかってしまうんだ。だからこそ、離れてもらったのだが。  苦笑しながらコーヒーを淹れて千秋用のカフェオレも素早く作り、マグカップを手にしてソファに向かった。  そんな俺の姿を見、嬉しそうな表情を浮かべる瞳と目が合った途端、ふと思い出す。 「あ……」 「どうしたんですか?」 「ビンテージ物、忘れるトコだった」  とりあえずテーブルに、マグカップを置いた。  千秋が来た時に食べようと冷蔵庫に入れてある物を取りに戻り、ニコニコしながら千秋の隣に、隙間を空けず座り込む。布地越しだけど、伝わってくる体温(ぬくもり)が愛おしくて堪らない。 「一緒に働いてるコが、ボーナス使って北海道に行ったんだ。そのお土産なんだよ」  何だろうと見つめてくる視線に応えるべく、包装紙を破って箱を開けた。その瞬間に漂ってくるマスカットの香りに、ふたり揃って箱の中身をじっと眺めた。 「ホワイトチョコなのに、うっすらと緑がかってますね」  その言葉に箱の中にあったカードを手に取り、手早く読み取る。その内容に、成る程なと感心するしかない。 「ん……。何でも白ワインに使うナイアガラという葡萄を、100%使ったチョコレートらしい」  香料じゃない芳醇な香りは、そのせいだったんだ。 「白ワインって、アルコールが入ってるんですか?」 「いいや。造る工程で飛ぶみたいだが、これを食べるとせっかく作ったカフェオレの甘さが、見事に消し飛んでしまうかもね」  これだけ濃厚な香りを漂わせているチョコだから、尚更だろう。 「なら、こっちを先にっと」  テーブルに置いてあったマグカップを手に取り、口をつける千秋の優しさに、ほんわかと癒されてしまった。そういう優しい気遣い……君らしくて、すごくいいな―― 「このカフェオレの方が、俺にとってはビンテージ物かも」  そして俺が喜ぶであろう言葉を、満面の笑みを向けて言われてしまったら、どんな顔していいか分からなくなってしまう。  頬に溜まっていく熱を感じながら、ふと視線を逸らし、箱の中にあるチョコに手を伸ばした。 「嬉しいこと、言ってくれるね。そんな千秋に、はい、どうぞ」  手で摘んだそれを千秋の口元に持っていくと、何故だか恨めしげに俺の顔を、上目遣いで見つめる。何かを企んでるでしょ? っていう表情を浮かべた千秋が可笑しくて、笑いを噛み殺すのが大変だ。  実際は俺の照れ隠しなのに、ね――  何としてでも食べてほしかったので、チョコを何度かくちびるに当ててやると諦めた顔して、手にしたマグカップをテーブルに置き、素早くぱくっと口に含んだ。 「――美味しい」  大きな瞳を潤ませながら口をモゴモゴさせて、チョコを食べてる君の方が何倍も美味しそう。 「白ワインよりも、マスカットの味がすごく濃いよ。だけどホワイトチョコの程よいクリーミーさも、きちんと分るんだ。すっごく美味しい!」  興奮しながら美味しさを伝えてくれる、千秋の頬を両手で包み込んであげた。 「とても美味しそうだね、戴きます」 (口の中にあるチョコが溶けきらない内に、一緒に味わわせてもらおうか)  逃げる前にくちびるを押し付けて、さっさと舌を割り入れ、口の中にあるチョコを奪取した。マスカットの芳醇な香りと、ホワイトチョコの甘さを堪能しつつ、千秋の舌をかぷっと甘噛みしてやる。 「ぅっ……!?」 「ホントだ。マスカット味のチョコだね」  最後に軽く、ちゅっと触れるだけのキスをして顔を離すと、嫌そうに眉根を寄せ、怖い顔して睨んでくる瞳があった。 「穂高さん、ひどいです! 美味しかったのに、変な横取りして」 「そんな風に、怒ってる顔も可愛いね。食べちゃいたいくらいに」 「話を逸らさないでください。それに、食べられたくないですからね」  言いながら少しだけ身体を横に退けて、ぴたりと寄り添っていたところに隙間を空けられてしまった。だけど拳ひとつ分の距離。ソファにはまだまだ余裕があるというのに、このほんの少しという距離が千秋の気持ちを示していて、微笑まずにはいられない。 「またまた……無理して。そんな可愛い千秋には、トロけるキスをプレゼントしてあげる」  怒ってるであろう、千秋の頬を左手人差し指でつんつんと突いてから、箱に入ってるチョコをひとつ口に放り込んだ。横目で俺の動きを見、不思議そうに首を傾げる隙だらけの身体を、勢いよくソファの上へと押し倒す。 「わぁっ!?」  驚いた表情を浮かべ、固まる千秋の身体に素早く跨り、息つく暇を与えないように、くちびるを重ねる。ちょっとだけ溶けてしまったチョコを、つるりと移してやると、嬉しそうな顔して俺の首に両腕をかけてきた。 (チョコを移すだけのハズが、そんなことをされたら、キスが止められないじゃないか――)  顔の角度を変え、ゆっくりと味わうように千秋のくちびるをちゅっと食む。ふわりと香ってくるカカオの香りに導かれ、舌を割り入れて千秋と一緒に美味しさを味わってみた。 「んっ……」  自分で言っておいてなんだが、本当にトロけそうなキスだ。頭の芯が、ドロドロに溶かされていくようだよ。  俺の首に絡まってる千秋の両腕に力が入り、貪るように俺を求めてくる。求められるのは大変あり難いのだがソファの上だと狭くて、思うような動きが出来ない。  それを残念に思いながら、右手で肩をぽんぽん叩いてキスを中断してもらった。 「っ……、どうしたの?」 「千秋、チョコまだ欲しいのかい?」 「あ、はい」 「チョコよりも甘いもの、君にあげたいんだけど」  千秋の右手首を掴んで、よいしょっと掛け声をかけながら引っ張り起こす。掴んだ手をそのままに、まっすぐ俺の下半身に導いてあげた。 「ちょっ、分ったからっ//// 穂高さんは、俺を食べたいんだね?」 「ん……」  俺の気持ちを悟った恋人に満面な笑顔を送ると、頬を染め上げ照れながら俯きつつ、掴んでる腕を力任せに振り解き、背中に隠してしまった。  アレコレと感情を隠そうとする君を何とかしたくて、箱からひとつチョコを手にする。 「千秋、ほら」  その声に視線だけを向けてきたので千秋の目の前に、チョコをひらひらと見せびらかしてみた。するとモノ欲しそうに口を半開きにするなんて、どうしてそんなに可愛いコトをするのだろう!  ムラムラと沸き上がる自分の卑猥な気持ちを隠すべく、無理矢理に笑顔を作ってから、千秋の前からチョコを引き下げた。 「あ……」 「欲しければ、こっちにおいで、俺の愛しい人――」  意味深な流し目をして千秋をじっと見つめてから、手にしたチョコをぽいっと口に放り込み、追いかけてもらうべく寝室に消えてみる。  ベッドで横になり、待つこと暫し――  少しだけ口をモゴモゴさせた千秋が、ほくほくした顔して寝室に現れてきた。俺と目が合った途端、大きな瞳を嬉しげに細めるそれが憎いの何の。 「俺のを奪いに来ると思ったのに。箱の中にあるヤツ食べたな、千秋……」 「だって穂高さんが、イジワルするからだよ。大きいの食べたかったし」 (――ほほぅ、大きいのを食べたかった、ね)  ベッドに背を向けて座る千秋に抱きつき、細い背中に下半身をぎゅぅぎゅぅと押し付けてやる。 「大きいよ、ほら」 「んもぅ。俺が食べたいのは、チョコなんだってば。穂高さんのバ――」  抱きしめていた身体を強引に引き寄せベッドの上へと組み敷き、驚く千秋の顔を上から眺めた。 「チョコもひとつより、ふたつあった方が相乗効果で美味しいかもね」  呟くように言ってから、柔らかいくちびるに目がけてキスをした。口の中に入ってるチョコを、千秋の口の中へと滑らせてやる。 「う、ん……っ!?」  ちょっとだけ鼻にかかったような甘い声を聞いたせいで、もっとそれが聞きたくなり、チョコを追いかけるように自分の舌を挿入。チョコを溶かす勢いで舌に絡めつつ、千秋の足にも自身の足を絡め、大きくなった下半身を更に鼓舞させるように腰に押し付けた。 「ほ、だか……、さ……」  キスの合間に求めるように俺の名を呼び、両手をぎゅっと身体に巻きつけてくる千秋。切なげなその声に、自然と胸が絞られてしまう。 「……愛してる、千秋」  想いを口にするのは簡単だ。だけどそれをどうやって、君に見えるように示せばいいのだろうか。時々、不安げな表情を浮かべる姿を見るたびに、そんなことを思ってしまうんだ。  どうすればもっと、君の心を惹きつけておくことが出来るのだろうかと―― 「俺も愛してるよ、穂高さん」  何も考えず、千秋からの告白に酔いしれていたい。今だけは……  そんなことを思い、鼻腔をくすぐるマスカットの香りに包まれながら、互いの想いを確かめるように、俺たちは愛し合った。繋いだ手を放さぬよう、ぎゅっと握りしめながら―― 【了】 次回は、穂高が千秋と初めて出逢ったときのお話を掲載します。 お楽しみに!!

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