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―純血の絆―②その4

「二階の一番奥の部屋を用意しました、そこで食事をしてください。千秋、すみませんが穂高を頼みましたよ」  お手伝いさんがお辞儀をしてから、螺旋階段を先になって上がっていく。  穂高さんの踏み出した足がぐらついたのを見て、慌てて躰を抱き留めながら慎重に階段を上がった。ほどなくして二階に到着し、薄暗がりの廊下を突き進むと、お手伝いさんが扉を開けて中に入るように促してくれた。  イタリア語のありがとうという言葉が分からなかったので、小さくぺこりとお辞儀をしたら、同じようなお辞儀をしてその場から立ち去っていった。 「あれ?」  食事をしてくださいとお父さんは言っていたのに、食べ物らしきものはなくて、天蓋付きの大きなベッドがあるだけの部屋が謎すぎて、首を捻るしかない。もしかして、あとから食べ物が運ばれてくるんだろうか? 「すまない千秋……。俺をこのままベッドまで運んでくれ」 「分かった、大丈夫?」 「ん……。躰の力が底を尽きかけているだけなんだ」  手に持っていた漆黒のマントを床に直置きして、俺にしなだれかかってきた穂高さん。相当疲れているんだろうな。  穂高さんをベッドに寝かしたらマントを畳んで、どこかに置いてあげなくちゃ。 「よいしょっと!」  大柄な穂高さんの躰を、何とかベッドに横たえさせた。すかさず靴を脱がせてから身を翻して、マントを拾おうとしたときだった。 「千秋、服を全部脱いでくれ……」 「えっ?」  背中にかけられた言葉を聞いて、眉根を寄せながら振り返った。力のない掠れたものだったから、聞き間違えたのだろうか。穂高さんが服を脱ぐんじゃなく、どうして俺が脱がなきゃならないんだろう?  手にしたマントを拾い上げて、手早く畳んで傍にあるソファの上に置いた。 「早くしてくれ……。喉が焼けて乾ききってしまいそうだ」  珍しく急かしてくる声に慌ててベッドに駆け寄ると、穂高さんがふたたび金髪になっていて、苦しそうに顔を歪ませていた。変化はそれだけじゃなく、くちびるの隙間から鋭い牙が出ているではないか。 「な、何、これ……」  目の前で苦しむ穂高さんの姿に、呆然と立ちつくしてしまった。さっき言われたことが頭の中にあるものの、それをすることができない。恐怖で躰が竦んでしまって、喉をかきむしるように身悶えてる穂高さんを見るだけで、いっぱいいっぱいだった。

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