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―純血の絆―②その6
「ほらかさん……、き、て」
性的な衝動に駆られながらも、頭の片隅に残っていた理性で考えついたこと。
穂高の父が告げた『食事』という言葉の意味が、現在自分がされている行為そのものだっていうことと、それをしなければ吸血鬼である恋人の力が戻らないことが分かった。
一方的なそれは穂高が生きるための食事であり、自分はただの食材という立場で愛情を感じられないけれど、それでも受け入れてあげたいと思った。自ら差し出すもので愛する人が生きられるのなら、喜んで提供しようと自然に考えついたから――。
「千秋、愛してる」
甘いささやきとともに皮膚を貫く痛みと快感が入り混じり、奥歯を噛みしめながら躰を強張らせた。血を吸われていく内に下半身がふたたび硬度を増して、精気が充填されていく。
「はあぁあっ! やっ、舐めないでっ」
じゅるじゅると吸い上げながら蠢く舌に感じて、足をジタバタさせてしまった。
さっきまで苦しげだった表情が一転して生気に満ち溢れた姿になった穂高さんが、突き立てていた牙を抜き取り、じっと自分を見下す。
「甘露な味のする、君の血を味わいたかったんだ。感じさせるのに舐めていたわけじゃない」
「うっ……」
「でも今はこの手で、感じさせたいと思ってる。ただ精気を吸うだけじゃない。千秋を愛したいから」
目を閉じた穂高さんが近づいてきたので、自然と瞳を閉じた。重ねられるくちびるから差し込まれた舌を伝って自分の血の味を感じたけれど、それもほんの一瞬の出来事だった。今まで味わったことのない甘美なものが欲しくて、穂高さんの首に自分の両腕を絡ませる。
貪るように深く舌を絡ませて、自然と流れてくる唾液を飲み込んだ。
「んっ、も、もっと欲しい」
更に飲み込もうとしたら、逃げるように顔を外されてしまった。
「今の俺の唾液には催淫剤が含まれているから、あまりあげられないんだ。これ以上あげると千秋が壊れてしまうからね」
切なげに瞳を細めながら躰を起こして、俺の上半身を両手で弄りはじめた。
「いじわる、しないで……。っ、んぅ……あっ、穂高さんがほしいよ」
「それならココに唾液をあげようか。千秋、覚悟しなきゃいけないよ」
穂高さんが自分の口に人差し指と中指を突っ込み、たっぷりと唾液を滴らせてそれを後孔の入り口に塗ったくった。
「ぁ……っ、ひゃんっ、あっ、もっと……もっと激しくして! んあっ! んっ、んっんっ」
触れられた瞬間からそこがじんじんしてきて、淫らな気持ちに拍車がかかっていく。そのせいで普段言えないことが、次々と口から飛び出してしまった。
「激しくするのは、俺のを挿れたときにしてあげるからね。まずはきちんと馴らさないと」
「はっ、早くほらかさん服を脱いで。俺の中に挿いってよ」
自分は全裸でいるというのに、吸血鬼の穂高さんは普段着のままでいた。
「……服を着たまま、しちゃ駄目かい?」
「へっ!?」
「ヴァンパイアでいる俺の躰は、とても冷たいから……。千秋が風邪を引いてしまうかもしれない」
俺のことを思いやる言葉に、涙が出そうになった。
「穂高さん、俺は大丈夫。貴方の躰が冷たいのなら、直に触れ合ってあたためてあげるよ」
躰の脇にぶら下がったままでいる穂高さんの手を握りしめて、自分の胸元に導いてみた。
「こうしてあたためてあげる。だから心配しないで」
「千秋……」
真っ赤な瞳を潤ませながら勇んで着ていた服を脱ぎ捨てて、ふたたび俺に跨ってきた。
「優しい君を激しく抱いてあげる。たくさん感じてくれ」
俺の両膝を持ち上げて足を開かせると、猛っている穂高さん自身がゆっくり挿入されていった。躰は冷たいのに挿れられている硬い杭は、とても大きくて熱いモノだった。
「やあっあっ、あんっアッ」
外に声が漏れてしまっているだろうけど、抑えることができない。それくらい気持ちよくて、愛おしさを感じてしまったんだ。
激しくすると言ったくせに、俺の顔色を窺いながら腰を押し進める優しい穂高さん。その優しさに縋りつくしかない。
「穂高さん、愛してる。どんな姿の貴方でも、俺の気持ちは変わらないから」
「千秋、ありがとう。俺もずっと君を愛していく」
そんな愛を語らいながら、ひとしきり俺たちは抱き合った。
気がついたら日はとっぷり落ちていて、部屋の中は暗闇に包まれていた。
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