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冷淡無情な心

 穂高と出逢ったのは、俺が中学生の時。  母が死んでまだ3ヶ月しか経っていなかったのに、愛人である穂高の母を家に入れた父が、どうしても許せなかった。 『今日から穂高は、お前の弟だよ。仲良くしなさい』  そう言われても納得なんて出来るわけがなく、話しかけられても無視してやったんだ。それでもアイツは俺と仲良くしようと、必死になって接触してきて、すっげぇウザかった。 ***  季節はずれの転校生だった穂高は、学校で目立っていた。染めてるワケじゃなく天然の栗色の髪の毛に、彫りの深い甘いマスクは、女子にモテモテだった。  突然沸いて出てきたイケメンな弟に、同じクラスの女子がこぞってやって来て、仲を取り持てだの煩くて、ますます頭にきたんだ。 『あんなヤツの、どこがいいんだよ。父親がフランス人だかイタリア人だか、よく分からない人種の血が混じってるだけなのに』  俺の言葉に女子たちは色めき立ったけど、面白く思ってなかったのは、俺だけではなかった。  やがて穂高は、自分のクラスにいる不良グループに因縁つけられ絡まれた挙句に、いじめられるようになった。その内クラスの連中にも無視され、時には暴力を振るわれていたらしいが、アイツは泣き言ひとつ言わず、ひとりで学校に行っていた。  誰にも何も言わず、ひたすら何でもない日常を上手く装っていた理由は、母親に心配をかけたくない一身だったからだろう。今まで親子ふたりで生活していたせいか、異常なまでの気遣いぶりは、度を越えたマザコンにしか見えなかった。  そんな気色悪い血の繋がらない義弟に対して、イライラが頂点に達した時、言ってやったんだ。 『お前のような混血の弟なんて、見てるだけで反吐が出るんだ。ここにいるなよ、ホントの父親のところに行けってんだ!』 「……行きたいけど、行けないんだ。向こうは、別の家族を持ってるから」 『ま、行ったところでお前すっげぇキモイから逢った瞬間、間違いなく拒否られるだろうな。母親もろとも』 「っ……母さんの悪口を言うなぁっ!!」  怒りに満ちた目で俺を見下ろしたと思ったら、傍にあったペン立てからボールペンを手に取り、顔目掛けて振り下ろされてしまい―― 『うあぁあぁっ! 痛いっ、痛いよぉ……』  右目尻から頬にかけて、皮膚を引き裂かれるような強い痛みが走る。顔を押さえて痛みにのたうち回る俺を、冷たい視線で見下ろした穂高が怖かった。  だが、怖かったのはその時だけ――顔のキズのお陰で、アイツは俺に逆らえなくなったから。整形すればキズはなくなるけれど、あえて残しておき、穂高を縛り付ける材料にしてやった。  縛り付けたのはキズだけじゃなく、母親が国の指定する難病に冒され、治療を余儀なくされたんだ。親父は製薬会社を丸ごと買い取り、新薬の開発に取り掛からせて、儚い命を繋ぎとめる。  そんな恩に報いるため、穂高は会社にその身を捧げた。  実の息子じゃない穂高を系列の会社に上手く潜り込ませ、不正がないかチェックをさせる仕事。系列の会社の仕事をしながら、親父の命令をきちんとこなす義理の息子に、更なる試練が与えられる――  親父とは母親が死んでから一層折り合いが悪くなり、仕事で顔を合わせるのがイヤになるレベルまで達した時、ホストクラブを経営するからと、会社の金を借りて家を飛び出した。  やった事のない風俗店営業に四苦八苦しながら、それでも持ち前の経営のノウハウを生かし、1年足らずで会社に借金を返済。地方にも店を構えることになった俺と真逆に、父親の会社はムダに枝葉を広げすぎた結果、経営が傾いてしまったんだ。  そこで俺に借金すべく穂高を寄こして頭を下げさせる親父に、快くお金を貸してやった。その代わり、夜は店で働くことを条件にしてやる。  こうして穂高は俺たち親子にいいようにこき使われる、便利な人間として生きてきた。

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