8 / 117

冷淡無情な心④

 しばらく呆然としていたけど、このままじゃいけないと思い、知り合いのホステスに電話した。 「もしも~し! おはよ~ございま~す。モーニングコールになっちゃった感じ?」 『何言ってんの、昇ちゃん。もうおやつの時間じゃないのさ。しっかり起きてるわよ、さっさと用件言ってくんない?』  おおっ、怖い。寝起きの様な声色なんだけど―― 「そんな不機嫌になってたら高いボトル、入れてあげないから」 『何なの、その脅し文句。一気にヤル気になるじゃない』 「でしょ。良かった、話が早くて。あのさ、ウチの支店のシャングリラに、新人が入ったんだ。アイツのことだから今夜働くと思うんだけど、早速チェックしに行ってほしいなって」  機嫌を持ち直すことに成功し、ほくそ笑みを浮かべながら用件を告げると、軽いため息をつかれた。 『新人くんのチェックか……つまらなかったら、苛めちゃうかも』 「逆に苛められないようにね。ハーフのイケメン新人だからさ。好きに、何でもしてやって」 『ちょっ、いい新人じゃないの! 萌えるわぁ(〃'▽'〃)』  予想通り、ハーフって言葉で、見事に食いついてきたね。 「結果は、俺がお店に顔を出した時でヨロシクお願い」 『一番高いボトル用意して、待っていますからね』 「はいはい。じゃあね」  時々こうして互いの店のチェックをし、品質向上を目指している。プロ目線から見る接客の仕方だからこそ、厳しく見てくれるお陰で、こっちの気づかない点が、多々浮き彫りにされるのだ。 「身内だと顔バレしてる時点で、警戒されるしねぇ」  とか言いつつ、ちゃっかりと逆営も兼ねていたりする。逆営とは、自分の店に来いという営業のこと。一般のお客が少ない時に、たまぁにお願いしたりするんだ。少しでも利益の足しになれば、とね。 「不景気な世の中ですから。持ちつ持たれつなんだよなぁ」  スマホをテーブルの上に置き、煙草に火を点けた。    さて今晩、穂高がホステス相手に上手に接客をする様が、なんとなぁく目に浮かんでしまう。  そのホステスの前に個性的な従業員に辟易するかもなと、弟が困る姿を想像する方が、倍以上に楽しかったりした。

ともだちにシェアしよう!