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冷淡無情な心④
しばらく呆然としていたけど、このままじゃいけないと思い、知り合いのホステスに電話した。
「もしも~し! おはよ~ございま~す。モーニングコールになっちゃった感じ?」
『何言ってんの、昇ちゃん。もうおやつの時間じゃないのさ。しっかり起きてるわよ、さっさと用件言ってくんない?』
おおっ、怖い。寝起きの様な声色なんだけど――
「そんな不機嫌になってたら高いボトル、入れてあげないから」
『何なの、その脅し文句。一気にヤル気になるじゃない』
「でしょ。良かった、話が早くて。あのさ、ウチの支店のシャングリラに、新人が入ったんだ。アイツのことだから今夜働くと思うんだけど、早速チェックしに行ってほしいなって」
機嫌を持ち直すことに成功し、ほくそ笑みを浮かべながら用件を告げると、軽いため息をつかれた。
『新人くんのチェックか……つまらなかったら、苛めちゃうかも』
「逆に苛められないようにね。ハーフのイケメン新人だからさ。好きに、何でもしてやって」
『ちょっ、いい新人じゃないの! 萌えるわぁ(〃'▽'〃)』
予想通り、ハーフって言葉で、見事に食いついてきたね。
「結果は、俺がお店に顔を出した時でヨロシクお願い」
『一番高いボトル用意して、待っていますからね』
「はいはい。じゃあね」
時々こうして互いの店のチェックをし、品質向上を目指している。プロ目線から見る接客の仕方だからこそ、厳しく見てくれるお陰で、こっちの気づかない点が、多々浮き彫りにされるのだ。
「身内だと顔バレしてる時点で、警戒されるしねぇ」
とか言いつつ、ちゃっかりと逆営も兼ねていたりする。逆営とは、自分の店に来いという営業のこと。一般のお客が少ない時に、たまぁにお願いしたりするんだ。少しでも利益の足しになれば、とね。
「不景気な世の中ですから。持ちつ持たれつなんだよなぁ」
スマホをテーブルの上に置き、煙草に火を点けた。
さて今晩、穂高がホステス相手に上手に接客をする様が、なんとなぁく目に浮かんでしまう。
そのホステスの前に個性的な従業員に辟易するかもなと、弟が困る姿を想像する方が、倍以上に楽しかったりした。
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