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冷淡無情な心⑤
「んもぅ、昇ちゃんのイジワル! 大変だったんだからね」
「だから最初に言ってたじゃないか。苛められないようにって」
「弟さん、玄人じゃないの。全然新人じゃなかったわよ」
約束どおり一番高いボトルで待ち構えていたので、喜んで呑んでやる。
「だけど、目の保養にはなったでしょ。自慢の義弟なんだ」
「昇ちゃんのキレイな顔にキズをつけたっていうのに、自慢するなんて変」
寄り添うように体を寄せ、右手でキズのついた頬を優しく撫でてくれた。
「俺に、刃向かってくるヤツがいないからね。可愛くてしょうがないんだよ」
「血の繋がりが全然ないのに、不思議と兄弟揃って似てるトコあるのよねぇ。遠慮せずに、苛めてください。なぁんて言ってたけど、逆に苛められちゃった」
少しだけふくれ面をしながらも、美味しそうに酒を煽る。
「あの店で、穂高はやっていけそう?」
肩を抱き寄せ、反対の手で慰めるように頭を撫でてあげると、嬉しそうな表情を浮かべ、そっと頬を寄せた。
「すぐに、ナンバーの仲間入りするんじゃないかな。実力はかなりあるみたいだしね。さすがは、昇ちゃんの弟」
そうか、穂高の実力は健在だったのか。恋人が出来ても仕事は仕事と、割り切れることが出来るんだな。
「ね、昇ちゃんは好きな人いないの? 穂高に聞いても、分らないって言われちゃったんだけど」
「俺ってば、アイツに嫌われてるからね。仕事以外の話をしないし」
「そんなことないよ、嫌ってないって。僕の自慢の兄さんなんだって、言ってたし」
穂高の言った一人称に引っ掛かりを覚えつつ、こっそりと苦笑を浮かべた。装うことに長けている穂高の誤魔化しなのか、はたまた気を遣った華ちゃんがついてくれた、優しいウソなのか――
「ありがとね、華ちゃん。分ってるから、アイツに嫌われてるの。子どもの時、仲良くしようって言ってきた穂高の手を、振り払ったのは俺なんだし」
あの時、少しでも仲良くしていたら、今のような距離感が生まれなかっただろうな。
「暗い顔してる昇ちゃん、らしくないよ。さぁさぁ呑んで。せっかくの、美味しいお酒なんだから」
まだグラスの中に半分以上は残っているというのに、なみなみに継ぎ足されてしまった。
「雑な慰め方は好きじゃないけど、たまにはいいかもね」
「またまた、ウソ言っちゃって。目が嬉しそうに笑ってるのに」
お互いグラスを持ち上げ、再び乾杯をする。華ちゃんの世間話を耳にしながら、頭の片隅で次の手を考えた。
店にいる穂高については分かった。その次に気になることは、穂高の恋人について。例の大学生、紺野 千秋――
とりあえず彼に直接逢って、話をしてみようか。
――穂高に知られないようにね――
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