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告白

翌朝、泉と拓は『2人は体調不良で休むと伝えておく』と言って朝のバイトに行った。 春翔は黙ってそばにいたが、泉達が出て1時間以上過ぎた時、悠が口を開く。 「春翔、お腹空かない?」 バイトや従業員用に賄いはあるが、すでに朝食の提供時間は過ぎている。 「俺は空いた。コンビニで何か買って来てくれないか?それと、あの、マスクも」 殴られた悠の頬は時間の経過と共に薄く青紫に変色しはじめていた。 本当に欲しいのはマスクだろうと思いながら、春翔はコンビニに行く。 パンとペットボトル、そしてマスクを渡す。 パンには手をつけず、ペットボトルに軽く口をつけただけの悠を見ながら、春翔は聞く。 「顔、まだ痛い?」 「見た目程にはもう、痛くないよ」 「こんな綺麗な顔、よく殴れるよな、信じられない」 今でも高田達を殴り倒したい怒りに、春翔は耐えていた。 悠は春翔から視線を外し、下を向く。 「俺は綺麗じゃない。綺麗なんかじゃないよ」 春翔は少し明るいトーンで話しかける。 「そりゃ綺麗って男にあんまり使わないけど、それしか思いつかない。最初に会った時から悠さん綺麗過ぎて、目が離せなくて。俺が悠さんばっかり見てるって、泉にも指摘されたし、拓にも気づかれてたらしい。俺は…」 春翔の言葉を遮るように悠が繰り返す。 「でももう、綺麗じゃない」 「悠さん、青たんなんてそのうち消えるよ」 下を向いたまま少しの沈黙の後、悠は再び口を開いた。 「…昨日、あの時、ただ早く終わってくれってそればかり考えてた。身体も辛かったけど、拓が助けを呼ぶんじゃないかって、心配で」 「え?」 助けが困るような発言の意味が分からず春翔は聞き返す。 「お前にだけは見られたくなかった。知られたくなかった。あんな情け無く他の男にやられてた俺なんか、もう綺麗じゃないだろ」 「悠さん…」 どれ程傷ついたのだろう、身体も心も。 俺があの時、高田達のビールを取り上げていたら…。一晩中苛まれた後悔。 もう、こんな後悔をしたくない。 春翔は悠の頬に手を添えた。 「悠さん、頬はほんとに痛くない?」 「うん」 春翔は悠の両頬を包み込むように手を添えた。 「悠さん、少なくとも、あいつらより俺の方が好きだよね。いや好きっていうか、まだマシっていうか」 「え…そりゃ」 「じゃ俺とキスしよう、してください」 「え?」 春翔は頬を両手で優しく包んだまま唇を悠に重ねる。舌を絡め、時に啄ばむように、そしてまた角度を変えて口内に戻る。 だんだんと激しくなり、息が上がる程悠の唇を奪った後、両腕を背中に回しぎゅっと抱きしめた。 「俺、悠さんが好きだ。こんな時に迷惑かもしれないけど、今言わないと、一生後悔する」 「俺は…だって、あいつらに…」 「今年の夏を思い出す時、昨日の事なんか忘れて俺と俺のキスだけ覚えてて。身の程知らずに告白してきた馬鹿とかでもいいから、そんな覚え方でいいから、俺の事だけ」 抱きしめられながら告白を聞き、悠は自分も春翔の背中に手を回す。 「うん…わかった」

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