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第6話

「満腹じゃー…余は満足じゃー…」  ソファにごろりと寝転んで、俺はポンポンとお腹を叩いた。カニみそ雑炊も堪らなく美味だったし、デザートにアイスまで出てきてフルコースを堪能した気分だった。流されているバラエティ番組を見ていると、眠気が襲ってきた。なんかもう、帰るのもめんどくさい。明日休みだし。 「あーうー…志水さまー、今日泊まっていい?」  首だけで振り返り、テーブルを拭いている志水に俺は声を掛けた。 「いいけど、片付けくらい手伝え」  了承されたことにほっとして、お皿くらい洗うかと体を起こそうとした時、テレビの中に見知った人物を見つけた。 「あ、凛哉だ…」  思わずぽろりと声に出た。キラッキラオーラで笑顔を振りまき、女優と二人で並んで明日あるドラマの番宣をしている。  女優はついこの前芸能事務所のオーディションでグランプリを取っただかの可愛い子だ。その子の肩を小突いたりして、画面の越しでも仲がいいのだと窺える。  もしかして、凛哉の恋人って、この子なんじゃないだろうか。ドラマの中でも恋人同士の役らしいし、そのまま現実でも恋に発展してしまったとか……ありえる。  そのまま見入っていたら、急に画面が真っ黒になった。えっと横を見れば、リモコン片手に志水が青筋を立てている。 「わー!ごめんなさいすぐお片付けいたします!!」  俺は慌てて流しへ向かい、食器洗いをはじめた。食洗機はあるが、使っていないらしく手洗いを命ぜられた。洗った先から、志水が食器を拭いていく。  テレビを消されたせいで、皿洗いの音しかしない。沈黙が辛いのと、さっきのが気になって、俺は堪えきれずに言ってしまった。 「凛哉とさっきのグランプリの子って付き合ってるのかな!?」  そして後悔した。 「あ、なし!今のなし!ごめんなさい!」  ひぇぇぇぇ!志水様怖い!顔怖い、般若!  俺は必死でペコペコと頭を下げ、謝り倒した。もはや凛哉の名前はタブーのようだ。迂闊に出そうものなら逆鱗に触れてしまう。  ……志水って凛哉のこと嫌いなのかな。イケメンだからライバル視してるとか?いや、志水に限ってそれはないだろうけど……  はあ、と頭上からため息が降ってきた。 「……風呂入れ」  あ、許されたっぽい、助かった。 「はいっ!!」  ちょうど洗い物も終え、俺は逃げるように風呂場へ向かった。勝手知ったる志水家、バスタオルの場所もバッチリである。  風呂をあがって親に泊まるとメールを送り、俺は志水の部屋に布団を敷いた。ベッドは絶対貸してくれないから、一階の客間からせっせと二階の部屋へ布団を運んだ。客間で寝るという選択肢はない。だって、志水は絶対自分の部屋で寝るし。せっかく泊まりなのに別の部屋で寝るとか寂しすぎるし。 「ふぁー!おふとぅん好き!」  ほんのちょっぴり苦労して敷いた布団なので愛しさも一入だ。柔らかな布団に転げていると、風呂から上がった志水がやってきた。 「またわざわざ運んだのか。ご苦労なことで」  少し呆れ気味に言いながら、志水は寝転ぶ俺を跨いでベッドへ乗った。  湿った髪を掻き上げる志水は、大手量販店のTシャツにスウェットという恰好なのになんかおしゃれに見える。 「ずるい。俺も同じ志水のウニクロなのに。どしたらその、なんてーの?フェロモン?色気?セクシィー?」 「生まれながらだ諦めろ」 「くそー」  なんのてらいもなく言ってのける志水に、俺はハンカチの代わりにタオルを噛んだ。 「もう寝るのか?」  聞かれて、俺はガバッと布団から起き上がった。布団が気持ちいいから転がっていたが、まだまだ夜はこれからだ。 「寝ない!何する?ゲーム?ゲームする?」 「ゲームしかねーのかよ」  む、ゲーム以外もあるぞ。えっと、えっと……  反論しようと思ったが、ベッドから下りた志水がテレビの方へ行きテレビゲームの準備をし始めたので、黙っておいた。  それから某アクションシューティングゲームをしばし楽しんだ。と言っても、俺は容赦なくボロボロにやられまくったんだけど。 「志水、容赦なさすぎぃ!」  ゲームの電源をおとし、いつもの毛長のラグの上に俺はばたりと仰向けに倒れ込んだ。 「お前ちっとも上達しないよな」  少し呆れ気味に志水が言う。  こちらの顔をのぞき込んできた志水、背中に感じるラグのふかふかの感触。  ――あれ、このシチュエーションって。  俺はにわかに思い出してしまった。この前ここで、志水に抜いてもらったことを。 「うあ!」  あの時の気持ちよさと恥ずかしさが一気に思い起こされ、俺は慌てて四つ這いになり虫のようにカサカサと志水から離れた。は、恥ずかしい、顔が熱くなってきた!逃げ場所……布団! 「寝るのか?」 「ね、寝ます!即寝ます!」  布団に飛び込んだ俺は頭まですっぽり掛け布団をかぶり、ぎゅっと団子になる。 「ふーん……」  どこか含みのある志水の声。 「ぐ、ぐー、ぐーぅ……」  俺は即座に寝たふりをした。なんか、思い出したせいでちょっと勃って来ちゃったし!そいやあれからまた抜いてない。あのときいっぱい出したけど、だってほら俺若いから!  しかも、布団をしっかりかぶったせいで、暑いし息苦しい。  仕方なく、布団の端を少しだけ開けると、なんと志水がのぞき込んでいた。至近距離でバッチリ目があってしまう。 「ぎゃー!」  思わず跳ね起きて、尻もちをつく形で俺は足をばたつかせた。 「な、なななんでのぞき込んでんだよっ!」 「どんなあほ面でグーグー言ってんのかって思って。ネタじゃなくて本気で言ってたらこいつやべーなって」 「やばくないしっ!……って、志水、それ」  怒鳴ってから、俺は志水の右手に握られているものの存在に気づいた。  見覚えあるボトル。この前大変お世話なったローションだ。  ただでさえ熱かった顔が、更にカカカっと逆上せあがった。 「さっき急に思い出したんだろ」 「えっ!?」  ボトルをふりふりしながら、志水がすべて見透かしたように視線を送ってくる。どこか蠱惑的な、色気をはさんだ眼だ。  ば、バレてる……!  俺は口をぱくぱく開閉させるだけで、言葉が出ない。 「この前から少し日が空いたからな。週二回、なんだろ」  俺そこまで言ったけ?う、言ったかも。 「えー、えーと……」  どうしよう、恥ずかしいけど、でも、今もう既に思い出して恥ずかしがってんのバレてるし、少し勃っちゃってるし、あー、でも、でも、お願いするのもやっぱり恥ずかしいし、うう、腰がムズムズしてきた…… 「……じゃ、おやすみ」  ぽいっとボトルを投げ出してベッドに上がろうとする志水に俺はしがみついた。 「うわぁぁんお願いしますぅぅぅ!」  ああ、欲望に弱い俺。恥ずかしいやら情けないやらで涙が滲んできた。  というわけで、俺はスポーンとズボンとパンツを脱ぎ捨てて、再び友人に向かってM字開脚するという珍事を行っているわけで。  ぬめるローションでドロドロになった穴は、おいしそうに志水の指を食んでいる。 「っ、あ、ひ…んんぅっ」  志水の長い指が、中の一点をぐりっとえぐりあげると、勃ちあがってとろとろと涎をこぼしていたものからぴゅくっと白濁があふれ出た。まだイってないけど、イってる。 「あっ、あっ……」 「相変わらず早ぇの」 「ちが、だって……あっあんっ、っんん――ッ!はぁ、はぁん…っ」  首を振って否定していたのに、また指が同じ場所を強くこすりあげ、今度は言い訳も聞かないくらいびゅくびゅくと精液が飛び出た。ずるっと指が抜かれ、その感覚にふるりと体が震えた。  ふっ、と鼻で笑う気配があり、恥ずかしくて志水の顔が見れない。 「ううっ、志水、志水ばか、意地悪い、さ、さっきも、た、短気すぎるし、お、お願いするにしても心の準備が、あるって言うか、なんて言うかぁ」  恥ずかしさとやるせなさと気持ちよさと諸々で俺の目は涙で溺れている。  ひぐひぐと嗚咽を漏らす俺の心中など丸っと無視して、志水はバッサリ言い放った。 「ふーん。もうやめるか?」 「うぇぇ、ばかぁぁ!」  しっかりイったはずなのに、まだ俺の一物はピンと勃ってるし、後ろの穴ももっと刺激を求めひくついている。もっとしてほしいと貪欲に語っているのに。 「やぁ、いじって、志水ぅ…っ」  懇願すると、志水はふっと笑った。俺の好きな優しい笑顔。 「どこいじってほしいかちゃんと言えよ」  なのに、言うことは全然優しくない。  意地悪い、嫌だと思うのに、体はどこか甘い痺れを感じている。  ん?と優しい顔が俺に言葉を促す。 「も、もぉ、おしり、お尻の穴、いじってよぉぉ…」  懇願すると、ついに指が後ろに触れた。今度は二本、つぷりと中に押し込まれる。 「あっ、し、志水、気持ちぃ、あ、いい、あっぅ、しみずぅ……っ」  浅い位置を広げられただけで、ジンと背筋に快感が走る。今更だけど、ほんともう俺の体どうなんだろうね、こんなお尻で感じちゃって。  第一関節あたりまでもぐりこんだ指はぬぷりと引き抜かれ、再び同じ位置まで入ってくる。ぬぷ、ぬぷ、繰り返される出し入れに、指を逃すまいと穴がキュンキュン痙攣する。気持ちい、けど、もどかしい。 「あ、あっ…も、もぉぉ!な、で…そこばっか、あ、あぅっ」 「あ?気持ちよさそうにしてんじゃねぇかよ」 「い、いいけどぉっ、あ、あ…っも、奥ぅ…奥して…!」  もう、全部口に出してお願いしないといけない気がしてきた。気持ちよさと恥ずかしさに、さらに涙があふれた。 「奥、奥に入れて、ぐちゃぐちゃしてよぉ…!」  ぼけた視界の中で、志水が舌なめずりしたような気がした。  と、待ち望んだ指が奥深くまで一気に進んできた。そのまま、ローションが泡立つほどにかき混ぜられ、俺は息をのんだ。  ちょ、ちょっと待った!! 「ひっ……あぁぁっ!っや、激しっ、も、もぉいい、やっ、あ、やめ……あ、あっ…ん、やぁぁぁぁっ」  強すぎる刺激に、頭が真っ白になる。いやいやと首を振っても、志水は一瞬たりとも止まってくれなかった。 「奥まで、だろ」 「ひぃんっ、も、イったぁ、イったからぁ…っあぁぁっ!」  求めた以上の刺激を与えられ、やめてという願いは一切受け入れられず。俺は結局そのままさらに二回の吐精をとげたのだった。  ぐったりと布団に沈みこんだ俺の腹にこぼれた残骸を、志水はタオルで拭いてくれた。  俺はまだ体の熱が抜けきれず、息をあらくしたままだと言うのに、志水は相変わらずの涼しい顔だ。  この甘ったるい倦怠感のまま眠ってしまいたいが、今回こそは、と俺は汚れたタオルを持って部屋を出ていこうとする志水を呼び止めた。 「ねぇ、し、志水はいいの、しなくていいの…」  前回も思っていたこと。俺は急いで提案した。俺ばっかり脱いで抜かれて恥ずかしいので、志水のもしてやったら対等な気がする。しかし、返ってきた言葉はにべもなく。 「いらねーよ」 「なんで?俺ばっかじゃ悪いし、恥ずかしいし!俺も志水の、する!させてよ!」 「いらない。いーから、とっとと寝ろ」  ばっさり言い放ち、志水は部屋を出て行ってしまった。  なんで、志水あんなに冷静なの。ずるい、悔しい。そんなことを思っているうちに、俺はあっさりすやっと眠りに落ちてしまったのだった。

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