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第4話

 好きなだけここにいてよい、と言われ、セナはその言葉に甘んじてしまっている。ルカが人の精気を必要としているのはわかっていることだが、それ以上の気持ちがあるのではないか、などと期待してしまう。ルカは優しい。セナをからかいながらも優しい瞳で見つめてくる。その視線の心地よさにも慣れてしまってきている。いけないことだとわかりながらセナはルカのことを想うようになっていった。 「セナ、出かけてくる」 「いってらっしゃい」  ある日の午後。ルカは用がある、と言って外へ出ていった。食事を摂るようにと言われているがセナはもともと食が細い。なにもすることがなくぼんやりと寝台の上で蹲っていた。  しばらくすると扉の開いた鳥籠から小さな鳥がセナの足元に降り立つと突然虹色のドレスを着た幼女の姿に成り代わった。ルカと同じ紅玉の瞳。尖った耳。青白い炎のような肌を持つ子は自分を「エレナ」と名乗った。 「ダメよ、セナ。あんた全然食べ物に手をつけてない」  セナは驚いて、それから自分がシャツを一枚羽織っただけ、ということを思い出して今更ながら前を閉じた。しかもルカとの閨のことまで知られている。セナは頬を熱くして口ごもった。 「ルカ様に言われているの。いない時はあんたの世話をしろとね」 「……ルカに」  ルカはいつでも心配してくれる。今までそんなことをされたことのないセナの心に暖かな灯が点る。だがしかしそれはすぐに掻き消された。 「あんた、そっくり。ルカ様の愛していたマリー様に。碧い瞳も、銀色の髪も。勘違いしないほうがいいわよ。ルカ様はあんたみたいな人の子、ただ物珍しいのと精気を吸い取るために置いてるだけだもの」  エレナはテーブルの上に置かれた果物に手を伸ばし葡萄を一粒取ると自分の口の中に放り込んだ。 「食べないと私が怒られるのよ。ちゃんと食べてよね」  子供とは思えない口調でそういうとエレナはすぐにまた瑠璃色の鳥の姿になって鳥籠に戻った。じっと見つめていると尾を向けて居眠りし始めた。 ──マリー様にそっくり。  セナはシャツの端を両手で握りしめた。結局、自分はここでも利用されているだけ。存在意義など考えるのは虚しいだけ。  勢いよく立ち上がると地上への階段を上り始める。長い長い時間上り詰めるとそこには小さな穴があった。セナがようやく通れるくらい小さなものだ。そこからよじのぼり外へ出るとセナはどこへともなく歩き始めた。

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