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One night-2
眠ってしまったルカに許しも得ず、セナは寝床を抜け出し着替えると長い階段を上がった。エレナが気がかりでならず鈍痛が広がる身体に鞭を打って追いかける。外に出ると木々の間から零れるような星空が見えた。見渡すと倒れた木の上に虹色のドレス姿のエレナの背が見える。セナはおずおずと近づき、隣りに腰かけた。
「……エレナ」
「ルカ様は私のことが嫌いなんだ」
突然、わんわんと泣き出したエレナの背に手を当て必死に言い募る。
「そんなことないよ!」
「だって出ていけって!」
「ごめん! 僕が悪いんだ!」
エレナはきっとセナを見上げると大きな瞳を見開いて睨んだ。
「そうよ! あんたが悪いのよ! あんたが来てからルカ様は変わった!」
「……ルカは変わってはいないと思うよ……」
弱々しく言い返すとエレナはぼろぼろと涙を零した。
「嫌われてるのは知ってるよ……でも僕は君と仲良くしたいんだ」
空を見上げてまだ泣いているエレナの青白い頬に流れる滴を指で拭う。
「エレナ」
「……ほんとは、わかってる」
小さな手がぎゅっと握りしめられる。
「ルカ様はほんとにあんたのことが好きなんだ。マリー様よりも」
「マリーさんと僕は違うよ。比べられるものではないよ。それに僕が勝手に出ていった時だって、エレナは責められたりしなかったじゃないか。ルカはエレナが大事なんだよ」
「そんなこと……」
澄んだ声が小さくなっていく。梟の声が時々頭上から聞こえてくる。森の中はどこまでも静かだ。
「エレナだってずっとルカと一緒にいるんでしょ? ……大好きなんでしょ?」
こくりと頷いてエレナは立ち上がった。冷たい風にエレナの薄いドレスが靡く。その表情は見てとれないが少しは落ち着いてきたようだ。
「仲良くなんてできない。嫌いだもん」
「……どうしても?」
気弱になるセナに向かいエレナが振り向く。その顔にはきらめく笑顔があった。
「でもどうしてもっていうんなら聞いてあげないこともないよ! ルカ様の大事な人、だもんね!」
「エレナ……」
セナは立ち上がる。そっと手を差し出した。
「一緒に帰ろう? エレナ」
「……うん」
その手に自分の冷たい手を置いてエレナは鼻を人差し指で擦る。紅く煌めく瞳がまるで宝石のようだ。セナは微笑んでエレナと歩く。冴え冴えとした月が小さな二人の姿を優しく照らしていた。
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