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8.ドナドナの先は他校でした
辿り着いた先は苓ちゃんの高校でした。
…って、どうして?どうして俺が苓ちゃんの高校に連れてこられなきゃいけないの。
おまけにココは…。
「………生徒会室……」
午後の授業が始まっているせいか、誰もいないシンと静まりかえった廊下に俺の呟きが大きく響き渡る。
「苓ちゃん」
「なに?」
「なんで生徒会室?」
「俺が会長だから」
「へぇー。………はぁ!?」
室内に入り、行儀悪くも並ぶ机の一つに座って足をブラブラさせながら、口をポカンと開けてしまった。
誰が苓ちゃんを会長なんかに選んだんだろう。命知らずな奴もいたもんだ…。
独裁者思考の人間に執権を握らせるなんて、この学校の生徒は勉強は出来ても知恵は回らないらしい。俺だったら絶対に、苓ちゃんが会長なんてやっている学校になんかいたくない。
「愛唯」
「ん?」
「そういう失礼な事言ってると、お仕置きするよ?」
「………え?」
「全部口からダダ漏れしてるけど」
「…………」
あー、そういえば最近口の閉まりが悪くなった気がするわ。修理しないとダメだなこれ。
そして、開いて座っている俺の膝の間に、何故か苓ちゃんがいる。
なんでこんなに近くに立つかな。追いつめられてる感じがして、とてつもなく嫌な感じがするんですけど。
「苓ちゃん近い近い」
「そう?俺的にはまだ遠いと思うけど」
そう言って更に近づいた。
特に顔が。
「…苓ちゃん」
「なに?」
「顔がぶつかりそうなんだけど」
「うん大丈夫。ぶつけようと思ってやってるから」
遠慮します。
その言葉は表に出る事はなかった。
半分開きかけた俺の唇に重なる苓ちゃんの唇。さすがに驚いて固まっている間に、柔らかい舌が忍び込んできた。同時に顎先を掴まれて固定され、もう片方の手で後頭部を掴まれる。
穏やかそうに見える苓ちゃんの本領発揮。どう考えても肉食獣系。
無理やり開かれる唇から、更に深く苓ちゃんの舌が入り込み、俺の舌にねっとりと絡みつく。
「…ッん」
さすがに上手い。俺の意思の外で、腰がビクンと震えた。
その反応がツボにはまったのか、ますます激しくなる口付けに苓ちゃんの腕を掴んだ。止めるつもりで。
でもそれは、掴んだというよりも縋ったと捉えられたようで、喉奥でクククっと笑いを零した苓ちゃんの腕が後頭部から背に回され、強く抱きしめられる。
俺より細腕に見えるのに、どこにこんな力が…。
生徒会室内に響く、濡れた水音と呼吸音。まるで昼下がりの情事。淫らすぎる。
「…苓…、も…やめ…」
時折できる隙間から抵抗の言葉を放っても、まるで無視。それどころか尚更深く重なる唇。飲みこめなかった唾液が、口端からツツっと顎に滴ったのがわかった。
背に回された苓ちゃんの腕が俺の学ランの裾を捲りはじめる。さすがにまずい。唇だけならともかく、貞操まではあげられない。
どうしようかなと真面目に考え始めたその時、
ガチャ!
大きな音を立てて勢いよくドアが開いた。
それと同時にようやく止まった行為にホッとしながら濡れた唇を拭い、いったい救世主は誰だ、と横を向くと…。
物凄く意外な人物がそこにいた。
走ってきたのか、勢いよく開いた扉から飛び込んできたのは、普段はチャラく緩い感じのする志津ちゃんだった。
ヘラヘラ笑っていない顔なんて久し振りに見るかもしれない。マジな顔は、ちょっとドキっとするほど格好良く見える。
「…志津ちゃん」
呟く俺と、舌打ちをする苓ちゃん。
ガラ悪いっすよ苓ちゃん。本性出し過ぎ。
そんな俺の視線が読み取れたのか、今度は溜息を吐いて離れていった。そして一番奥にある席に座る。たぶん、そこが苓ちゃんの席なんだろう。
なんだかフラフラする足元に力を入れて机から床に降り立つと、すぐに志津ちゃんが駆け寄ってきた。
「ちょっと愛唯さん、大丈夫かよ?!」
とりあえず、ガシッと力任せに掴まれた肩が痛いです。
そんな俺の非難の眼差しなんてなんのその。志津ちゃんはジロリと苓ちゃんを睨みつけると、今度は俺の手首を掴んでドアに向かって歩き出した。
ドスドスと音がしそうな勢いで。古民家だったら床抜けてるね。
「あのー、志津ちゃん?」
「いいから黙って歩く!」
「はい」
引きずられながら後ろを振り向くと、苓ちゃんがにこやかに手を振っていたから俺も振り返してみる。
途端に、それに気付いた志津ちゃんの睨みが突き刺さった。
…怖いって。
でもまぁ、志津ちゃんのおかげで俺の貞操は守られたわけだから、感謝感謝。
何故か怒っているような志津ちゃんに手首を掴まれたまま生徒会室を出て、廊下を進み、校舎を出て、そして学校の敷地外へ出た。
そのまま歩き続けると思いきや、突然立ち止まった志津ちゃんに後ろからぶつかる俺。
「ちょっ…、いきなり止まるなよ志津ちゃん」
「愛唯さん。今度あの人から飴をあげるって言われても、絶対に着いていっちゃダメだからね」
飴って…。
ガキじゃないんだから、と言い返そうとしたけど、振り向いた志津ちゃんの顔がやっぱりまだ真剣で、何も言えなかった。
「まったくホントに、愛唯さんは目を離すとすぐこれだから。少しも安心できないよ」
「…気をつけます…」
助けてもらっただけに反論も出来ず項垂れると、まるで小さい子にされるように頭を撫でられた。
俺の方が一個上なのに。
でも、返答が満足いくものだったからか、志津ちゃんは大きく頷いてまた歩き出した。今度は俺の歩調に合わせてゆっくりと。
なんだかなー。
見上げた空はまだまだ青くて、これぞまさに青春か?なんてくだらない事を考えてしまった俺だった。
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