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9.ボス3は校内にいました

3時限目は自習でした。 先生も先生で、課題すら出さずに自習だけを告げるってどうよ。遊んでていいですよーって言ってるようなものだし。実際にみんな遊んでるし。 さすが園中。お気楽最高。 「愛唯ちゃ~ん」 「ん?」 「サッカーしようぜ~」 「外行くの面倒くさいからヤだ」 「ここでやるから大丈夫!」 「………へぇ…」 いや、それ以外にどう言えと。 へぇしか出なかったよ俺の口からは。 無理無理~と手を軽く振れば、クラスメイトAは残念そうに唇を尖らせた。 なんかあれだね。このままここにいたら、絶対何かに巻き込まれること間違いなしだね。 「愛唯?どこ行くんだよ」 「トイレ」 「俺も行…」 「恥ずかしいからイヤン」 ちょっとシナを作って恥ずかしがったら、クラスメイトBは顔を真っ赤にして机に撃沈した。 あぁ、気持ち悪くてスミマセン。でも1人で出歩きたいお年頃の俺に付き添いはいらないのだよ。 フフンと笑いながら教室を出て廊下を進み、渡り廊下を通って階段を下り、一階にある図書室へ向かった。 木製の古びた引き戸を開けて中を確認。 よし、誰もいない。 この園中にこんな施設は必要ないだろ…と皆が口を揃えて言う図書室には、いつもの如く人っこ一人いない。 誰も使用しないせいで空気が埃っぽい。 そもそも、図書室があるのに司書がいないってどうよ。いや、もしかしたらここに顔を出さないだけで、いるのかもしれない。 まぁ誰もいないからこそ、俺の聖域になってるんだけどね。 室内へ入り、引き戸をガガガガガと静かに(?)閉めて奥へ足を進める。 ここの図書室は、手前にいくつもの本棚が並び、入口からは見えないいちばん奥に四人掛けの居眠……自習用の机が3つ並んでいる。 目指しているのはそこ。 誰も使用しないからこそできる、大きな木製の机を3つ繋げて完成。即席の俺のベッド。ちょっと硬いのが難点だけど、元が机なんだから文句を言っちゃダメだよね。 最後の本棚の横を通り抜けて、いざ癒しの空間へ! 「…………」 先客一名様発見しましたー。 俺がやろうとしていた事そのまんま。3つの机を繋げてその上で寝ているスキンヘッド男が一匹。 半袖シャツの上に着ていただろう学ランは、どうでもよさげに床に落ちている。 高い身長と筋肉質な体。今は目を閉じているからハッキリわからないけど、歌舞伎をやっても映えそうな鋭く男らしい顔だちをしている。 ただし、スキンヘッドの左側面に黒い炎のタトゥが彫ってあるから、カタギの人には見えない。 槇さんや苓ちゃんと同じく、この近辺で三大チームと言われているチームの頭をやっている超有名人。俺と同級生の四葉(よつば)君。 こんなメルヘンな名前にしたのに、まったく真逆に育っちゃって…。お母さんも可哀想に。 …それにしてもどうしたもんかな…。早いもの勝ちってのはわかるんだけど、俺もここで静かに寝てたいんだよね。机から落としたら、いくら四葉君でも普通に怒るだろうし…。 うーんと悩みながら、気持ち良く熟睡している男を見る。 あー、羨ましい。やっぱり俺も寝よ。 俺も眠れて四葉君の邪魔もしない方法が一つ。ここで一緒に寝ればいいじゃん。机3つ繋げているからスペースは充分にあるし。 って事で早速、お邪魔しまーす。 四葉君が手前に寄っていたから、俺は壁側の方に。机を揺らさないように乗って、ゴロンと横になった。 あー、いいね。全然狭くないわ。 横向きになって猫のように体を丸め、すぐに目を閉じた。 ――――……… ―――…… ―…… …んー…、暑い…。 涼しかったはずなのに、なんだか妙にジンワリと暑くて意識が浮上してきた。 丸めていた体を伸ばして………って体が動かないし。なにこれ。金縛り? どこか不自然な状況に目を開けると、視界に入ったのは白い布だった。 あぁ、これ制服のシャツだ。 ………え?なんで? 徐々に目が覚めてくれば、誰かに抱き込まれてる感が物凄くする。視線を上に向けると、見知った顔が見えた。 っていうか四葉君だし。なんでコイツ俺の事抱きしめてんの?もしかして抱き枕と勘違いしてる? 頭の中にハテナマークがいっぱい溢れては消えていく。 なんでもいいけど、四葉君は筋肉質だからくっついてると暑い。冬ならいいけど、四月も終わりになれば昼間はそれなりに気温が高くなる。 とりあえず起きるか。上半身を起こせば腕も剥がれるだろう。 …なんて考えは砂糖のように甘かったわけだけど…。 「ちょっ…、四葉君」 俺が起きようとしたら、それまで以上の力で抱きしめられて全く身動きが取れなくなってしまった。 どうすんだよコレ。 ホトホト困り果てている俺の耳にその時聞こえたもの。 ガガガガガ。 あの木製の引き戸が開く音。 おー、助けが来た。 奥まで来てくれないかなー、なんていう願いが神に届いたのか、入ってきた誰かの足音が徐々にここへ近づいてくる。 よしよし。誰かわからないけど、この拘束から逃れるために手伝ってもらおうじゃないか。 額に滲んできた汗を手の甲で拭って本棚の向こうを見ると、そこから姿を現したのはなんと、 「あ、大樹だ」 忠犬ハチ公ならぬ、忠人大樹だった。 見知らぬ人だったらどうしようかと思ったけど、大樹ならちょうどいい。 助けてー。 そう言おうと口を開きかけた、が、すぐに閉じた。 …なんで大樹はそんな怖い顔して四葉君を睨んでいるのですか…。

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