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10.四葉君vs大樹君
「………」
「………」
「………」
四葉君を睨んでいる大樹と、その大樹を見る俺。そして寝てる四葉君。
なんだよこの変な三つ巴。
「…大樹ー」
「…………」
一瞬こっちに向けられた大樹の目元が緩んだ。でもまたすぐに四葉君を睨みつける。
この二人の仲が悪いなんて聞いた事ない。
っていうか暑い。
「あー!もうどけよ四葉!!」
いい加減に鬱陶しくなって、ちょっと本気を出してみた。
ゴロン…、ドサッ
「…………」
「…………」
しまった…、四葉君落ちちゃったし…。
勢い余って机から床へ落下してしまった四葉君は、それでもまだ寝てる。ある意味凄い。
広くなった机の上で胡坐をかきながら床を覗き込んでいると、ようやく大樹が近寄ってきた。
「…………」
ひたすら俺を見つめてくる眼差しがくすぐったい。なんでこの子はこんなに俺の事が気に入ってるんだろうね。
ジッと見返しても視線を逸らさない。だから俺も逸らさない。
「………」
「………」
「………あ?」
突然聞こえた声は下からでした。
要は四葉君が目覚めたって事ね。うん、やっと起きたか。
「おはよう、四葉君」
「…なんで床に…」
ムクッと上半身を起こし、自分の置かれている状況を見て目を瞬かせている。そして大樹を見て眉間に皺を寄せた。
「…なんでお前がここにいる」
「大樹は散歩の途中。ちなみに俺は四葉君と同じく昼寝」
「………」
「………」
何故か、四葉君と大樹が見つめあった。
無愛想vs無口
さぁ、軍配はどちらに!
ワクワクしながらその対決を見守っていると、二人同時に視線を外す。引き分けかよ。一番つまらない結果だ。
まぁいいや。目も覚めたし、そろそろ戻るか。
前髪をグシャリとかき上げて机の上から降りると、大儀そうに四葉君も床から立ち上がった。同時に学ランを拾い上げたって事は、その存在を忘れてなかったわけね。さすが。
大樹の腕を掴んでその場から歩き出すと、学ランの埃を払っていた四葉君がその手を止めて顔を上げた。
「久世」
「………………ん?」
おー、久し振りに名字を呼ばれたせいで一瞬誰の事かわからなかったよ。
数秒遅れで振り向くと、学ランに腕を通していた四葉君が真面目な顔して、
「また抱き枕になってくれ」
なんて言ってくれたものだからもう大変。大樹から立ち上るオーラが憤怒の色に変わってしまった。
っていうか俺の事抱きしめて寝てたのは自覚があったわけね。
今にも四葉君に飛びかかりそうな大樹を「どうどう」と宥めながら、ニッコリ微笑んだ。
「四葉君は体温高くて暑いから、もっと涼しい時期にね」
後ろ手にヒラヒラと振りながら大樹を引きずって歩き出すと、四葉君から「またな」とのん気な別れの挨拶を頂き、そのまま図書室を後にした。
「………」
「そんなに怒るなよ」
「………」
「抱き枕くらいいいだろ?」
「………」
「え~、それ以外に何もないんだからいいじゃん」
「………」
「…わかったよ、ちょっとは考慮しますー…」
根負けしてしまった俺。だって大樹ってば目だけで全てを語ってくるんだもん。そりゃ負けるって。
傍から見れば、まるで俺の1人芝居。いや、実際に俺が1人で喋ってるんだけどさ。ちゃんとコミュニケーションはとってるわけだよ。
授業途中のせいか、はたまたこの廊下沿いに教室が無いせいか、辺りはとても静かで俺の足音と俺の声だけが響いている。
………何故か同じように歩いているのに、大樹は足音がしない。
よって、目を塞いで音だけ聞いていると俺しかいないような状況。
もう少し自分の存在をアピールしてもいいんじゃない?
横を歩く大樹にそう言ったら、俺の手をギュッと握ってきた。
いや、そうじゃなくてね、俺はわかってるからいいの。だから俺以外の人にアピールしようねって事なんだけど…。
そう思ったけれど、言うのは諦めた。大樹だからしょうがない。
なんとなく、立ち止まって大樹の頭を撫でた。そうしたら今度は正面からギュギュっと抱きつかれた。
今日の俺は抱き枕日和らしい。
やっぱり暑い大樹の腕の中、ひっそりと溜息を吐きだした。
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