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14.REとは

いったいこの人の学校の校則はどうなっているんだろうか…。 放課後。 校門の目の前にドドーンと止まっているRX-7を見て、ドドーンと脱力感が襲ってきた。 いや、RX-7自体は別にいい。問題は、その運転席側のドアに寄りかかって俺を見ている人物だ。 「…橘さんって高3じゃなかった?」 「そうだけど」 「なんで堂々とうちの学校の前に車で乗り付けてんの?」 「免許持ってるから」 「………」 免許持っていたって高校生が運転したらダメでしょう。 と思ったが、それは一般的な学校の場合だったらしい。 橘さんの学校では、『法的に取得した資格なら、校則で罰する必要はない』と、自動車免許でも18歳になって取得できたなら、登校時以外は好きにしていい、という方針だと後から聞いた。 でもね、だからってなんでここに来るわけ?それも超目立つ真っ赤なセブンで…。たしかこれって絶販車だよね。 「早く乗れよ」 「俺は乗りたくありません」 「乗らねぇなら問答無用で押し込むぞ」 「乗ります」 そう答えた時、いつぞやのクロちゃんの言葉が脳裏に浮かんだ。 『キミのそのどうでもいいという無気力さのせいで、強引な性格の人に無理やり押し切られるだろう』 なんという不吉な予言をしてくれたんだ。 これはクロちゃんの呪いか…と、なかば諦め気味に排気音のうるさい橘さんの車に乗り込んだ。 「……どこ行くんですか?」 「さぁ」 「………」 とても高3とは思えない程に、運転する姿が様になっている橘さん。 市街地を軽快に走行しているから目的地があるのかと思えば、無いらしい。あるのかもしれないけど、この調子だと教えてくれるつもりはないとみた。 歩道を歩いている散歩中の犬と目が合うレベルで低い視界は、なかなかに面白い。 でも、こんな手が掛かる厄介な車は、自分では絶対に所持したくないのが本音。それもRX-8ではなくRX-7というのが橘さんらしい。 マツダが誇る、世界で唯一のロータリーエンジン。通称RE。 ピストン運動のレシプロエンジンとは違い、回転型のこのエンジンは車体に伝わるエンジン振動が少ない。 それに、かなりの高回転が可能な為に、アクセルを思いっきり踏める。というより、基本が高回転型だからアクセルを踏み込まないとダメダメ。低回転領域がヘロヘロで笑えるくらいにパワーが出ない。いわゆる“ピーキー”なエンジン。 プラグにオイルがかぶりやすく、シフトチェンジした途端にプスンとエンストするなんてしょっちゅうで、道の真ん中で止まる事数知れず。 通常の車に比べて車体は軽く、エンジンルームが長く作られていて、出来る限り車の中央部分に近い所に重いエンジン本体が置かれているから、重量の前後バランスはいい。 時々この車でドリフトしている奴を見かけるけど、手を加えているならともかくノーマルのままだったら絶対にグリップ走行向きだ。 ちなみに、水温が上がりやすく、ノーマルのラジエーターでは本格的な走りに向かない。 更におまけに、走り向けの車なのにブレーキが甘いってどうよ?!っていうくらいにブレーキに信用がおけない。だからこの部分も買い替えが必要。 オイルは勝手に減っていくし、クーラント水にはゴミが混じるから定期的に交換が必要。 とにかく本当に手のかかる車だ。 何度も言うけど、俺は絶対にこんな車は所持したくない。RE車がほしかったら、迷わず8の方を買う。 でも、いまだに7のファンは多い。それも、ほとんどコアなファン。 まさか橘さんまでも、そのコアな人だったとは思わなかった。 「橘さん、この車の好きな所ってどこですか」 手持ちぶさたに外を眺めながら何気なく聞いたら 「排気ガスの匂いがイイところ」 と物凄くマニアックな返事が返ってきた。 …排気ガスの匂いってどれも同じじゃないのかよ…。 その後、REの排気ガスは匂いが違うんだ、と懇切丁寧に熱く語られてしまった。 うん、この車に関して聞いてしまった俺が悪かった。もう二度と聞かないから。 延々とセブンに対する惚気を聞かされた俺の苦痛が、わかってもらえるだろうか。そもそも、こんな熱く語る橘さんなんて初めて見た。みんなにも見せてやりたい。 …あー、それよりも何処に連れて行かれるんだろう。 またしてもドナドナな俺。 走り用の窮屈でくつろげないバケットシートに身を沈めて、深々と溜息を吐いた。

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