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20.裏切り者には制裁を
突然思い出してしまった。
少し前、槇さんのチームの溜まり場となっているダーツBARに来ていた、苓ちゃんのチームのメンバー二人の事を…。
そういえば彼らはあれからどうなったんだろう。
目の前にいる人物を眺めてそんな事を思った。
「見惚れてる?」
「いまさら苓ちゃんに見惚れるとかないわー」
「言うね。ならなんでそんなに見つめるのかな?」
「…うん…まぁ、ね」
言っていいのか?苓ちゃんとこのメンバーが槇さんのとこにいたよ、なんて。
いや、べつにあの二人がどうなろうと構わない。けど、今この場で言ったら真っ先に被害受けるの俺だよね?間違いなく八つ当たりされるよね?
生憎とM男じゃない俺は、自ら進んで危険に飛び込むような真似はしない。
…それにしても…。
「苓ちゃん」
「なに?」
「なんで俺ここにいるわけ?」
「何か不満?」
「…いえ、別に」
ここ。すなわち苓ちゃんチームの根城。もとい集合場所。5階建てビルの最上階にある明るいカフェ。
普通はクラブやバーを拠点とするのに、何故よりにもよってこんなカントリー調のカフェを拠点にしたのかと聞いたところ、「俺の兄がやっているから遠慮なく好き勝手できる」と答えが返ってきた。
それに対して俺の返事は、
「…へぇ…」
だけだった。
いや、だって他に何も言いようがないでしょ。カフェを拠点にするなんて変だね、なんて言ってみろ、笑顔でグラタンの材料だ。
そして今現在の時刻、23時。
カウンター席にいるのは俺と苓ちゃんだけで、他の奴らはテーブル席にいる。チラリと見渡した中に、あの二人組は見当たらない。
もうチームから抜けたのか?だからと言って、槇さんのところでもあれ以来見かけないし。どうなったんだろう。
目の前にあるイチゴパフェから生クリームだけをスプーンですくいながらそんな事を考えていたら、突然苓ちゃんがフフフと不気味に笑った。ハッキリ言って怖い。
「…なに笑ってんの」
「もしかしてさっきから愛唯が気にしてるのは、ヒロとマーの事かな?」
「ひろとまー?」
何それ。
…あぁ、“ヒロ”と“マー”か?
にしたって誰それ。
横からスプーンを奪い、勝手に俺の生クリームを食べている苓ちゃんを見て目を瞬かせた。
「あれ?違うの?槇の所へノコノコと行って、自分達の身の安全保障を前提にチームの秘密事項を密告しようとした奴ら。まぁ彼らが秘密事項と思っているのはダミー情報だけどね」
「………」
あいつら、そんなアホな事しに槇さんのところに行ったんだ。そもそも、秘密事項なんて、この腹黒苓ちゃんが一般メンバーに漏らすわけないでしょ。
呆れ過ぎて言葉が出ない。命知らずの勇者というより、単なるアホだ。
少しでも考える脳みそがあるのなら、そんな事は絶対にしないはず。それを許す苓ちゃんじゃないし、その提案を飲む槇さんでもない。二人の事をなめすぎてる。
おおかた、美味しい情報を提供すれば、槇さんのチームの幹部になれるとでも思っていたんだろう。
呆れの境地に達していると「あーん」という言葉と共に、目の前にアイスの乗ったスプーンが差し出された。
言葉どおりに「あーん」とそれを口にすれば、甘酸っぱいイチゴアイスの味が広がる。
「橘から連絡が来てね、馬鹿二匹を引き取りに来いって言われて。もう本当にどんなに俺が恥ずかしかったか…」
フゥ…と溜息を吐く苓ちゃんは、その綺麗な容貌と相まって妙に艶っぽい。
…たぶんこれも計算しての表情だろうけど。
「で、引き取った後、そのヒロとマーをどうしたの」
「そんなの決まってるでしょ。フルボッコにして川に放り投げたよ」
「…へぇ…」
そりゃアンタ立派な殺人行為だ。
思わず胡乱な目付きになってしまった。
まぁとりあえず死体が上がったなんてニュースはないから、なんとか自力で泳いだんだろうけど。
自分の為に仲間を売るという行為をした彼らは、もう二度とこの界隈を歩く事はできないだろうね。さようなら、ヒロとマー。
心の中だけで手を振った。
あっけなく片がついてしまった事に多少のつまらなさを感じたものの、俺に被害がこなかったから良しとしよう。
「愛唯」
「ん?」
「あの二匹の事を思い出したら腹が立ったから、このイチゴパフェ全部俺があーんして食べさせてあげる」
「………」
……被害来たよ。何この羞恥プレイ。
覚えてろよヒロとマー。
心の中でさっき振った手を拳に変えた。
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