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24.素敵教師の素敵猥褻
「愛唯…、次に生意気な事言ったら口塞ぐぞ」
「淫行教師ー」
「塞いでほしいみたいだなぁ?オイ」
目の前で不敵に微笑む淫行教師。世界史担当の高橋ちゃん。28歳、独身。
褐色の髪を緩いオールバックにしていて、背は大樹と同じくらいだから180前後。
体格は良いし、イイ男だし…。常にダークスーツを着ているせいで、一見その筋の人に見えなくもない部分を抜かせば、世の男子の敵となりうるだろう人物。
なんで俺はそんな相手と顔付き合わせているんでしょうか。
それも進路指導室で。
「まぁまぁ、落ち着こうよ高橋ちゃん」
「じゅうぶん落ち着いてる」
言葉通り、間違いなく落ち着いている高橋ちゃん。
もしかして、焦っているのは俺の方じゃない?
でもさ、これ以上は下がれないくらい壁にべったりと背中をつけている状態で、顔がぶつかりそうな程近くに高橋ちゃんが迫っているわけだ。
焦るだろ、普通は。
事の発端は、登校してきて教室のドアを開けたら、黒板の前に高橋ちゃんがいた、という午前中の出来事。
『いい度胸だな、愛唯』
『あれ、高橋ちゃんだ。おはよ~』
『昼休みになったら指導室に来いこの野郎』
まぁ簡単に言えば、俺が遅刻したって事なんだけど、よりにもよってそれが高橋ちゃんの世界史の授業中だったって部分が、俺の運の尽きというかなんというか…。
で、昼休みの今。この状態。
「俺の授業に遅れるなんてふざけてるだろ」
「僕は小心者なのでふざけたりしません」
「じゃあなんで遅れてきた」
「起きてすぐに来たらあの時間でした」
「…愛唯…、次に生意気な事言ったら口塞ぐぞ」
と、冒頭の部分に戻るわけだ。
高橋先生、目がキラリと光ってますけど。そんなに近づいたら鼻がぶつかるんですけど。
ヘラリと誤魔化し笑いをしてみても、高橋ちゃんの機嫌は上がらない。それどころか底辺を這っている。
下ばかり走ってるジェットコースターなんて面白くないですよー、とか言ったら俺の貞操は奪われるだろう、間違いなく。
そこで思い出した。昨日の『年上に近づいたら貴方の貞操の危機が訪れます』というクロちゃんの言葉を…。
あれは槇さん達の事かと思っていたけど、まさか敵は校内にいたなんて。まったくの想定外だ。
「次に俺の授業で遅刻したらお仕置きだって、前言ったよな?」
「覚えがございません」
この顔で“お仕置き”とか言われると、どうにもこうにも危ない意味にしかとれない。噂によれば、高橋ちゃんはバイだとか。
…うん、危ないよね、冗談じゃなく。
「お前が覚えてなくても俺は覚えてんだよ。つべこべ言わずに来い」
「ちょっ!横暴教師!」
可愛い生徒の襟を掴んで引っ張るって、教師としてどうなのこれは。
そしてそのまま生徒指導室を出て向かった先は、高橋ちゃんの聖域。世界史の教科室だった。
中に入ってみれば誰もいない。
…っていうか…。
「…汚い」
「うるさい」
半眼で高橋ちゃんを見たら真顔でド突かれた。
だって、なにこの部屋の荒れ具合は。地震?台風?それとも津波か?足の踏み場もないとはまさにこれ。逆に、どうやったらここまで荒らせるのか聞いてみたい。
いやいや、ちょっと待てよ。もしかしたらアレか、アレなのか。
「泥棒、」
「に入られたわけじゃない」
なんだ、違うんだ。
「ま、よろしくな」
「は?なにが?」
「これ見てわかるだろ」
「わかりません」
「罰としてここを片付けろって事だよ」
「イヤ」
「………お前な…」
深~い深い溜息を吐いた高橋ちゃん。
しょうがないと思う。俺って素直が売りの男の子だし。No!って言える日本人目指してるから。
そもそも、俺が掃除したら間違いなくもっと荒れる。
肩を竦めてそう言ったら、怒りを堪えて引き攣った笑みを浮かべた高橋ちゃんは、
「俺の神々しい下半身に奉仕するのと、この部屋の片付け、どっちがいいんだ?選ばせてやる」
そんな変態な事を言った。
「部屋の片付けでいいデス」
即答したのは言うまでもない。
っていうかどんな淫行教師だよ。俺に奉仕されて嬉しいのか?神々しい下半身って何?
「片付けた後に部屋の中がグチャグチャになってても文句言わないでね」
「お前なぁ……」
呆れたように溜息を吐きたいのは俺の方だ。
まったくほんとうに…。
明日から、高橋ちゃんの授業だけはしっかりチェックしておこう。うん、そうしよう。
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