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第1―9話

『タケさん、コメントありがとうございます。 記事に共感して下さって嬉しいです! 過去記事は無理に読まなくても大丈夫ですよ笑。 勿論、読んで頂ければ嬉しいですが、過去記事へのコメントなども無理なさらないで下さいね。 気軽に楽しく!で。 タケさんは吉野千秋推しなんですね! それじゃあ、会報のあのフォトはお宝ですね! 『萌え袖』ですしね!笑 俺も頑張り過ぎては欲しく無いんですが、今がEmeraldの頑張りどころだと思うんですよ。 でも小野寺律も吉野千秋もペース配分ナシで突っ走るタイプみたいですから心配ですよね…。 そんな時、メンバーがフォローしあえるEmeraldはホント良いグループだな、と思います。 俺だったら怒鳴りつけますよ!笑 吉野千秋の漫画、良かったですよね! いつか本格的に描いた漫画も読んでみたいです。 『ユウチア』タケさんのお気持お察しします笑。 でもコンビ名がつくって事は、それだけ注目されている証拠だし、二人の仲をファンが受け入れてるってことだから、真っ先にコンビ名がついて、小野寺律推しの俺としては羨ましいです。 二人のテレビに出演している時やDVDの様子、それと会報の内容もあって『ユウチア』と呼ばれ出したと思いますが、柳瀬優は見た目も猫っぽいですが、吉野千秋も小動物っぽいから、二人でワチャワチャしてると子猫がじゃれあってるみたいでかわいいし、お似合いだな、コンビ名つくのも当然だなって思いましたよ! 俺も小野寺律の相手が誰になるか複雑な気分で期待してます!笑 タケさんの仰る通り、メンバー被りのコンビ名もありそうですよね! チョー楽しみですけど、俺達の心配は尽きないっつーことですね!笑 管理人、モリミヤ』 羽鳥はモリミヤの返信を噛み締めるように読んだ。 そして好きな人達を、好きなことを共有できる人がいることが、こんなにも嬉しいんだと生まれて初めて知った。 羽鳥は親の教育方針と生来の性格もあって、小さい頃からそこそこ何でも出来た。 学校では羽鳥の意思とは関係なく、学級委員や生徒会に選ばれた。 選ばれたからには、羽鳥は子供なりに自分の責務を果たした。 羽鳥は自分には飛び抜けた才能は無いけれど、生真面目にコツコツやることが苦にならない性格だから、高校・大学と自分のレベルにあった学校に合格し、このまま留年することも無く大学を卒業し、自分のレベルにあった会社に就職し、自分にあった相手が現れ、いつものように相手に告白され、いつものように振られなければ恋愛結婚をして、ローンを組んで我が家を買って、そして良い父親にもなるだろうと漠然と思って生きてきた。 平凡だが穏やかな人生。 何にも夢中になったり、拘りを持ったりしたことの無い自分には、それが相応しいと思っていた。 けれど。 Emeraldの吉野千秋を知って、全てが変わった。 吉野千秋に初恋をして、平凡な毎日がキラキラと輝き出した。 それが例え叶わない初恋でも。 それでもいい。 吉野千秋を好きでいたい。 吉野千秋が新しい自分を教えてくれる。 吉野千秋に夢中で、羽鳥の世界は吉野千秋を中心に回り出している。 それが、嬉しくて堪らない。 もっともっと吉野千秋を知りたい。 もっともっと吉野千秋が羽鳥の世界中心でいてくれればいい。 そして決して手の届かない吉野千秋が、自分の世界の中心であることが、羽鳥は不幸だとは思わない。 幸せだ、と心の底から思う。 羽鳥はデビュー曲と通常版のブックレットと会報を取り出すと、ローテーブルに並べ、吉野千秋のページを開き、いつものように初回限定盤のDVDを観て眠りにつくのだった。 それからは怒涛の毎日だった。 会報で横澤隆史が『11月に入ればファンの皆さんに喜んで貰えるニュースが色々とあるので楽しみに待ってて下さい』と言ったことが次々と発表されたからだ。 まず、横澤隆史が来年度の大河ドラマに抜擢された。 勿論、主役では無い脇役の一人だが、戦国時代の主人公が頂点に立ってから死を迎えるラストまで出演するのだ。 ドラゴンワン事務所からも俳優・女優が出演しているので、所詮バーターだろうと陰口を叩く者もいたが、番組プロデューサーが記者会見で、横澤隆史はオーディションを勝ち抜いて役を掴んだと明言した。 横澤隆史は記者会見で『夢のようです。共演者の皆様、スタッフの皆様の足でまといにならないように頑張ります』と目を潤ませて言っていて、羽鳥まで目に涙が滲みそうになった。 それに横澤隆史は、月曜から金曜までの毎朝6時から15分間のラジオが12月から始まることも発表された。 その次は木佐翔太と小野寺律が二人で、やはり12月からラジオを金曜日の夜11時から1時間放送する事が発表された。 それから柳瀬優も12月から、一人でラジオ番組が決まったと発表された。 日曜日の夜の10時から30分間だ。 羽鳥は吉野千秋だけがドラマもラジオも無いのは少し不満だったが、Emeraldの活動はそれに留まらなかった。 11月下旬の民放の4時間生放送の音楽番組に出演が決定し、12月上旬の他局の2日連続合計8時間生放送の音楽番組にも出演が決定し、12月中旬のまた他局の5時間30分生放送の音楽番組に出演することも決定し、正式に発表された。 そしてトドメが大晦日の国営放送の歌合戦にも初出場が決まった。 その間もモリミヤと羽鳥の交流は続いていて、モリミヤのブログで二人は喜びあった。 だが二人を一番喜ばせたことは、12月23日に行われるファンミーティングだ。 勿論、ファンクラブに入会している会員限定で、抽選で1000人が招待される。 モリミヤも羽鳥もそのことがファンクラブから発表されると、すぐさま申し込んだ。 それからEmeraldが11月と12月に出演する民放の歌番組にも、抽選になるが、ファンクラブ会員が収録に参加して欲しいとファンクラブからお知らせがあって、勿論そちらにも全ての番組に申し込んだ。 ファンミーティングはファンクラブ会員が既に10万人を突破している現状では宝くじに当たるようなものだし、歌番組に関してはたぶん女の子が優先されるだろうから選ばれる確率は無いに等しいが、モリミヤは『Emeraldのファンが男女問わず幅広く存在している証拠になるから可能性はゼロではない。』とブログに書いていて、申し込んだはいいが落ち込んでいた羽鳥を励ました。 勿論、大晦日の歌合戦にもモリミヤと羽鳥は応募したが、こちらはファンミーティングなど比べ物にならないほど倍率がかなり厳しい。 羽鳥は人前ではポーカーフェイスで冷静沈着だが、内面はネガティヴ思考だ。 ネガティヴだからこそ、予定外の事が起こらないように、何事も先回りして用意万端にし、物事にあたるのだ。 そんな羽鳥を、周りは生真面目で抜かりが無い、頼りがいがあると評価してくれる。 ポーカーフェイスだって元々表情が乏しいだけだし、プラス羽鳥が世の中を上手く渡って行く為の仮面だ。 だがモリミヤのブログでは、自分がネガティヴな事を隠す必要は無いし、相手が見えないのだからポーカーフェイスでいる必要も無い。 本音でEmeraldに関して一喜一憂していることを伝えられる。 モリミヤはそんな羽鳥と一緒に、ある時は一喜一憂し、ある時は羽鳥のネガティヴ思考を笑い飛ばして励ましてくれる。 それにモリミヤはTwitterをやらない羽鳥に『どの番組もTwitterのアカウントを持っていて情報が早いから』と、大学の友達用とは別垢を作り、鍵をかければ余計な交流も無く情報を得られると、モリミヤもフォローしているEmeraldを応援するのに便利なアカウントを教えてくれた。 それは20個近くあって、公式アカウントが殆どで個人のものはひとつも無く、羽鳥は教えられた通り鍵付きの別垢を『タケ』のハンドルネームで作り、モリミヤに教えてもらった全てのアカウントをフォローした。 するとフォローリクエストが早速来て、それがモリミヤで羽鳥は勿論承認した。 モリミヤもEmerald専用のアカウントを鍵付きで作っていたのだ。 モリミヤはEmeraldに関してで自分が興味のあることをフォローしていない個人相手でもRTするので、羽鳥も内容を読む事が出来る。 それにモリミヤは小野寺律推しと言いながらも、Emerald全体のツイートを満遍なくRTしてくれるので、羽鳥が吉野千秋の情報も知ることが出来る。 しかもモリミヤのフォロワーは羽鳥だけだし、羽鳥のフォロワーはモリミヤだけだ。 そしてモリミヤは、ブログで話しづらいことがあったら、気軽にDMしてくれと羽鳥に言ってくれた。 羽鳥はモリミヤの親切な行動に感動してしまった。 そうして羽鳥とモリミヤは誰に知られることも無く、親交をより一層深めていった。 だがEmeraldの生放送の民放の歌番組の観覧は、羽鳥の予測通り、全て落選した。 モリミヤも同様だった。 けれどモリミヤは『いつか必ず当選できるさ』と、どこまでも前向きだ。 『ファンミーティングにタケさんが当選したら、レポよろしく!』とも言ってくれた。 羽鳥はファンミーティングこそ当選出来る筈は無いと確信していたから、そうやって歌番組に全て落選して落ち込む羽鳥を、同じく全て落選して残念な気持ちでいるであろうモリミヤが励ましくれて、モリミヤのやさしさが羽鳥の心に染みた。 そしてモリミヤは、自分よりはポジティブな人に違い無いだろうが、そういう心遣いが出来る繊細な人でもあると思った。 だから羽鳥も『モリミヤさんこそレポお願いします!』と返事をすると、モリミヤはいつもの調子で『任せとけ!』と返してきて、羽鳥はスマホを見ながらひとり微笑んだ。 それに羽鳥は落選してしまった11月に生放送が行われるコンサート会場に当日足を運び、会場の写真を撮った。 けれど、そういう行動はやり過ぎかとも思い、事前にモリミヤに相談した。 モリミヤは親身になって答えてくれた。 タケさんが写真を撮りたいなら撮ればいい。 ただし生放送が始まってから会場に行くと音漏れ参戦や出待ちを疑われたり、番組に迷惑をかけることになるから、会場の写真が撮りたいなら、昼間に行くこと。 それから観覧する為に会場に来ている人達は勿論、会場周りにいる人達を絶対撮らないこと。 関係者以外立ち入り禁止になっている所には絶対に近付かないこと。 どんな些細なことがトラブルに巻き込まれる原因になるか分からないから、以上を踏まえてコンサート会場を撮ったら直ぐにその場を離れること。 『Emeraldのファンが非常識だと思われるのはタケさんの本意では無いでしょう?』とも。 『音漏れ参戦』も『出待ち』の意味も知らなかった羽鳥は、モリミヤの助言通り、昼間の12時頃会場に行った。 ラッキーなことに正面入り口には、番組名とサブタイトルが綺麗に装飾されていて、羽鳥はその写真をあらゆる角度から撮ると、早々にコンサート会場を後にした。 それから自宅に戻ると早速デジカメで撮った写真をプリントアウトし、写りの良い物を厳選すると、事前に作っておいた『Emerald テレビ生放送ライブ専用アルバム』にファイルする。 1枚目の写真の横のメモ欄には、生放送を行ったテレビ局名と番組名、番組放送の日付と放送時間を書き込んだ。 Emeraldが歌った歌も放送後書き込むつもりだが、Emeraldの持ち歌はファーストシングル1曲とカップリング曲が2曲しかないし、初登場でメドレーを歌う可能性は低いから、ファーストシングルを歌うだけだろうな、と羽鳥は思った。 録画予約は当然してある。 それから正面入り口を真正面から撮った写真と他の写りの良い写真3枚をTwitterにupした。 『今夜ここでEmeraldが生で歌うのかと思うと、ドキドキします!』 とツイートして。 モリミヤからは直ぐに反応があった。 いいねを押され、『タケさん、わざわざ撮影ありがとう!凄く良い写真だね!お疲れ様!俺も今から落ち着かねー!笑』とリプをくれた。 羽鳥は19時から始まる番組に合わせて食事も風呂も済ませておいて、19時15分前にはテレビの前にいた。 そして番組が始まった。

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