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第1―14話
翌日、羽鳥は少しの心配を抱えながら登校した。
昨夜から心機一転、Emeraldと吉野千秋のファンでずっといようと決めて、食事と風呂を終えて久しぶりにEmeraldのHPを見ようとしたら繋がらないのだ。
試しにドラゴンワン芸能事務所のHPにもアクセスしてみたら、そちらも駄目だった。
今朝起きてまたアクセスしてみると、EmeraldのHPもドラゴンワン芸能事務所のHPも繋がったが、どちらもトップページに『お詫び』とあって、『昨日夕方から本日午前2時にかけてアクセスが集中し、サーバーダウンの状態になり、ご迷惑をおかけしました。午前5時に通常の状態に戻りました。ご心配ご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。』と書かれていた。
それは羽鳥がいつも見るネットのニュースにもなっており、『ドラゴンワン芸能事務所のHPサーバーダウン』というタイトルで『ドラゴンワン芸能事務所と同事務所所属アイドルグループEmeraldのHPがサーバーダウンを起こした。原因はアクセスの集中。なぜアクセスが集中したかはドラゴンワン芸能事務所によると『調査中』とのこと。』という内容だった。
芸能ニュース専門サイトやスポーツ新聞のネットニュースを見ればもっと何か分かるかも知れないが、事実では無い憶測のニュースが流れる場合が多々ある事は羽鳥にも分かっていたので、昨夜モリミヤに助言された通り、当分はTwitterもEmerald関連のネットも見ずに、モリミヤのブログの記事がアップされるのを待とうと決めた。
学内で高屋敷と合流すると、高屋敷は早速「昨日はEmerald大炎上だったな~!」と言ってきたが、羽鳥は昨夜モリミヤから『炎上してる』と聞いていたし、いつものポーカーフェイスで「興味無い」と言い切り、会話を続けなかった。
高屋敷はそんな羽鳥の反応を普段通りの羽鳥だと思うと同時に、高屋敷本人がEmeraldにそんなに興味が無いので、話しの内容は直ぐに変わった。
それからの羽鳥は、大学に通い、アルバイトに通い、1日数回モリミヤのブログが更新されていないか確認し、Emeraldを避けていた時の自動録画されていたテレビ番組の編集をし、買いそびれていたEmeraldが載っている雑誌をネットで注文したり本屋に通ったりして過ごした。
羽鳥は堅物で生真面目なことで評判なので、アイドルに夢中になっているなどと周りは想像すらしないのだろう、Emeraldが炎上したことを話しかけて来る人は、高屋敷以来誰もいなくて、羽鳥は快適にEmeraldを避けていた十日間余りを埋めていく作業に楽しく没頭出来た。
そして会報が届いてから3日後の土曜日、羽鳥は22時までのアルバイトを終えて帰宅した。
今夜は賄いが出たので、後は風呂に入って寝るだけだ。
バスタブに湯を張りながら、スマホでモリミヤのブログをチェックする。
羽鳥の二重の切れ長の目が大きく見開かれる。
『男がEmeraldを応援してますけど、何か?』に最新記事がアップされている。
タイトルは『11月のファンクラブ会報』だ。
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