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第1―15話

『11月30日にファンクラブの会報が届いた。 しかもDVD付きだ! Emeraldは本当にファンを大切にしてくれる。 それはドラゴンワン芸能事務所の方針だろうが、Emeraldの所属事務所がドラゴンワン芸能事務所で本当に良かったと思う。 冊子は表紙と裏表紙こそ秋の深まりを感じさせるが、中身のフォトはクリスマス一色だ。 メッセージは…早くラジオ番組が聴きたくなるなー!! もうワクワクが止まんねー笑。 それからDVDも最高だった! 俺もマジ混じりてー!笑 で、このDVDが原因でSNSもネットも炎上した。 あろうことか、ファンクラブ会報のDVDなのに冊子の会報を含めた内容を晒した非常識な奴らが大勢いたからだ。 そしてHPにまで突撃する奴らもいて、EmeraldのHPもドラゴンワン芸能事務所のHPもサーバーダウンした。 俺は正直、なぜ炎上するのか、HPに突撃するのか、サッパリわかんねーよ。 そーゆー奴らは、ちゃんと会報を最後まで読んだのか? それでも吉野千秋を責めるのか? それでも横澤隆史と木佐翔太と柳瀬優と小野寺律を責めるのか? Emeraldのファンを辞める、こんな冷たいグループだとは思わなかったトカほざいてる奴らもいたけど、じゃあさっさと辞めろと俺は言いたいね。 そんな奴らはEmeraldのファンじゃねーから。 あのDVDでEmeraldは今、ファンに一番喜んで貰えるような選択をした。 俺はそう確信している。 吉野千秋がどんな気持ちでDVDを制作して欲しいと願ったのか、その願いを横澤隆史と木佐翔太と柳瀬優と小野寺律はどんな気持ちで受け止めたのか。 ファンクラブとドラゴンワン芸能事務所が、どんな思いでDVDを制作する決断をしたのか。 そんなこともわかんねー奴は、Emeraldのファンにはいらない。 それと会報の冊子とDVDの内容を晒した奴ら。 お前らのやった事は、どんな理由があっても許されることじゃねーから。 即刻、ファンクラブを辞めてくれ。 Emeraldにこれ以上関わるな。 俺は今回のDVDがあって、より一層Emeraldが好きになった。 Emeraldと同じ時代を生きて、Emeraldをリアルタイムで知れてパフォーマンスを見れて、Emeraldのファンになれて、本当に俺はラッキーな人生だと思う。 このブログを読んでくれている人達だって、そうだと思わないか? 管理人、モリミヤ』 羽鳥は何度も何度も繰り返しモリミヤの記事を読んだ。 途中でピーピーと電子音が鳴って『お湯が溜まりました』と風呂の設定パネルから声が聞こえた時には、滅多にしない舌打ちをしてしまった。 羽鳥の家の風呂は、設定した水量に湯が溜まると自動的にお湯の供給が止まるので放ったらかしにしておいて構わないのだが、何でこんな時に、と思ってしまう。 だが気を取り直し、羽鳥はまたモリミヤの記事を読む。 モリミヤはちょっと口は悪いが、言ってる事はいつも正論だと思う。 そしてまるで羽鳥の代弁者のように、羽鳥の思いを綴ってくれる。 『あのDVDでEmeraldは今、ファンに一番喜んで貰えるような選択をした。 俺はそう確信している。 吉野千秋がどんな気持ちでDVDを制作して欲しいと願ったのか、その願いを横澤隆史と木佐翔太と柳瀬優と小野寺律はどんな気持ちで受け止めたのか。 ファンクラブとドラゴンワン芸能事務所が、どんな思いでDVDを制作する決断をしたのか。』 そして羽鳥の心を一番打ったのは、 『Emeraldと同じ時代を生きて、Emeraldをリアルタイムで知れてパフォーマンスを見れて、Emeraldのファンになれて、本当に俺はラッキーな人生だと思う。』 という言葉だった。 そうだ。 もし、羽鳥が生きる時代が何十年かズレていたら。 羽鳥はEmeraldを知ることは無かったかもしれないし、Emeraldに興味を持たなかったもしれない。 吉野千秋に初恋をすることも無い。 Emeraldを初めて知ったあの日。 たまたま電車の中でスマホでEmeraldのデビュー記事を読んで、何の気無しに画像を拡大して、全ては始まった。 それは同じ時代に生きているから起きた偶然。 大袈裟だと笑う人もいるだろう。 でも大袈裟でも、何でも無い。 モリミヤの言う通りリアルタイムでEmeraldを知り、パフォーマンスを見れる。 ファンにもなれて、その上、初めての恋にも落ちた。 『ラッキー』なのだ。 それとも、羽鳥流に言うなら『運命』だ。 羽鳥はモリミヤの記事に感動して、上手く言葉に出来ないかも知れないが、コメントを残そうとして、コメント欄を見てギョッとした。 いつもはあっても2~3件のコメントが70件を越えていて、その殆どが『管理人の承認待ちです』になっている。 それと少しだが『このコメントは管理人以外読めません』になっている。 モリミヤのブログは今まで自由にコメントを残せていたので(注意事項にあるように女性のコメントとEmeraldに対する誹謗中傷はモリミヤによって削除されていたかもしれないが)、こんな事態は初めてだ。 羽鳥はコメントをするのをやめた。 モリミヤのブログに何かが起っていると思ったからだ。 DMをしようかとも思ったが、もう夜も遅いし、モリミヤがブログの対応をしているのなら邪魔になるかもしれないと思い、今夜はやめておくことにした。 ただ。 『それでも吉野千秋を責めるのか? それでも横澤隆史と木佐翔太と柳瀬優と小野寺律を責めるのか?』 という文章で知った、Emerald全員が責められて炎上した事実は、羽鳥の胸を酷く抉ったのだった。 翌日日曜日、羽鳥は午後から昨日と同じ22時までバイトだ。 羽鳥はあまり寝坊をしたりする習慣が無いので、8時前には起きて朝食を取り、洗濯や掃除を一通り済ますと、昼食の前にモリミヤのブログを見た。 コメントは120件程に増えている。 そして昨夜と同じく殆どが『管理人の承認待ちです』になっていて、それとやはり少し『このコメントは管理人以外読めません』になっている。 羽鳥はコメントの件数に驚き、やはりコメントするのはやめた。 そしてバイトを終えて帰宅したら、コメント欄がどうなっていようとも、モリミヤにDMで感想を伝えようと思った。 羽鳥は昨夜と同じ22時にバイトを終え帰宅すると、風呂の準備は後回しにし、パソコンからモリミヤのブログを見た。 最新記事は昨日と変わりない。 コメント欄をチェックすると25件のコメントが表示されていて、羽鳥は最初から一件ずつ読んだ。 皆、常識的なEmeraldファンのコメントだ。 けれどただEmeraldを褒めているだけのコメントが表示されていているだけではなく、誹謗中傷では無い、きちんと意見を述べているものもある。 羽鳥はそういう見方もあるのかと感心した。 だが、まだコメントの返事は書かれていない。 きっとコメントを選別するのに時間が掛かったんだろうな、と羽鳥は思った。 それにまだ10件程の承認待ちのコメントもある。 これらは順番からいって、モリミヤがコメントを表示した後、コメントされたものだろう。 羽鳥はTwitterを開くとTLは読まずにモリミヤにDMした。 『夜遅くすみません。 バイトがあったので。 ブログ、昨夜読みました。 モリミヤさんの助言通り、会報が届いた日からTwitterもネットも見ずにモリミヤさんのブログの更新を待っていました。 モリミヤさんのブログで会報が届いた日に何があったか知りました。 俺が一番辛いのは、Emeraldのメンバーが責められて炎上したということです。 メンバーのみんなが誰一人、そんな言葉を目にしていないようにと祈るような気持ちです。 それとモリミヤさんの『Emeraldと同じ時代を生きている』という言葉に感動しました。 本当にそうだなと、心底納得しました。 Emeraldをデビューから応援出来て、俺も『ハッピー』です! ブログの管理、大変そうですね。 返事は結構ですので、あまり無理をせず頑張って下さい。』 羽鳥は失礼が無いか、多分ブログのコメント欄の件で忙しいであろうモリミヤの負担になっていないか、三度読み直してからDMを送った。 羽鳥はモリミヤからはブログが落ち着くまで返事は無いだろうと思っていたから、数分後DMが来て驚いた。 『タケさんはEmeraldのファンでハッピー! 俺もEmeraldのファンでハッピー! Emeraldと同じ時代を生きている俺達は超ハッピー! Wハッピーな俺はブログの件なんか、なんてことねーよ!笑 それと俺もEmeraldのメンバーが、くだらねー戯言を見ないでいてくれることを祈ってる。 ま、ドラゴンワン芸能事務所がそんなヘマをするとは思わねーけど。 それよりタケさん、大事なことを忘れてるみたいだな? EmeraldのHPに今すぐGo!!!』 羽鳥はモリミヤらしい返事に微笑んだ。 それと、大事なことを忘れてるって何だろう? 羽鳥は即EmeraldのHPにアクセスする。 すると最新ニュース欄のトップに 『明日から横澤隆史のラジオ番組が始まります!』 と、あった。 羽鳥は慌ててその文章をクリックする。 そこには『明日の月曜日から金曜日の午前6時~6時15分に、横澤隆史のラジオ番組がスタートします!!放送第1回目は何と生放送でお送りします!お聞き逃しなく!!』と書かれてあった。 羽鳥は直ぐにラジオ番組の録音を予約した。 勿論、明日はリアタイするつもりだ。 そして素早く風呂に入り、明日の大学の準備を済ませると、スマホの目覚ましを6時15分前にセットし、早々にベッドに横になった。 翌朝、羽鳥はスマホのアラームの音で目覚めた。 起き上がり、キッチンに行くとペットボトルからグラスに水を注ぎ、それを飲み干すとコーヒーをドリップする。 その間にパソコンを起動する。 そしてマグカップになみなみとコーヒーを注ぐとソファに移動する。 昨夜はベッドの中で、ラジオをパソコンで聞くかスマホで聞くか迷ったが、今となってはそんな事はどうでもいい。 生放送で始まる横澤隆史のラジオ番組が楽しみで仕方ない。 そして軽快な音楽と共に、「おはようございます!Emeraldの横澤隆史です!」という声でラジオは始まった。

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