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第1―17話
羽鳥は自宅の最寄り駅前の文房具と雑貨の専門店に寄ると、雑誌の切り抜き用に新しいファイルを数冊買い帰宅した。
食事も手作りできちんと済ませ、風呂にもバスタブに湯を張ってゆっくりと入り、うきうきしながら発泡酒片手にローテーブルに向かった。
そこには風呂に入る前に用意しておいた、パソコンとまだ切り抜きを終えていない雑誌とファイルと文房具が整然と並んでいる。
羽鳥はまず、横澤隆史のラジオ番組の書き起こしをしようと思い、パソコンを立ち上げた。
そしてふと、書き起こしの前にモリミヤのブログを覗いてみようと思った。
『男がEmeraldを応援してますけど、何か?』は更新されていた。
タイトルは『祝!横澤隆史のラジオ番組開始!』。
内容は。
『横澤隆史の第1回目のラジオ番組は生放送だった。
そして横澤隆史は、ファンクラブの会報が炎上した時にEmeraldに起こった事を時系列に添って教えてくれた。
とてもまだ19歳とは思えない、しっかりした内容だ。
そしてなぜ4人のDVDを制作したのかも説明してくれた。
なあ、炎上に関わった奴ら。
Emeraldの5人はまだ学生で、誕生日で正確に言うと、まだ21歳から17歳のグループで、デビューしてたった2ヶ月なんだよ。
そんな子達が芸能界に身を置くプロとして一生懸命考えて、自分達のファンは良い人達ばかりだから、4人のDVDでも分かってくれる、喜んでくれるって思ってDVDを制作してくれたんだよ。
もう充分過ぎる程分かっただろ?
Emeraldって、そーゆーグループなんだよ。
だから、もうEmeraldを傷つけるのは止めようぜ。
この騒ぎで、たったひとつの救いは、Emeraldのメンバーが炎上の内容を読んでいないことだ。
流石、ドラゴンワン芸能事務所だと思う。
まあ、今日の横澤隆史のラジオで、一時的な騒ぎはあったけど、炎上は収束したけどな。
でも二度とあってはならない事だと、炎上に関わった全員は肝に命じてくれ。
で、明日からの横澤隆史のラジオはどんな感じになるんだろう?
毎日の楽しみが増えて、スッゲー嬉しい!!
今週は金曜日に木佐翔太と小野寺律のラジオと、日曜日に柳瀬優のラジオも始まる!
嬉しい悲鳴ってやつだな~!笑
管理人、モリミヤ』
羽鳥はやっぱりモリミヤは凄いなと思った。
羽鳥は横澤隆史から語られた吉野千秋の言葉と様子に泣くほど心を打たれて、それで頭が一杯で、Emeraldの年齢構成など頭に浮かばなかった。
それに横澤隆史のラジオのお陰で、炎上は収束したらしい。
一時的な騒ぎは羽鳥も想定内だ。
羽鳥はいそいそとコメントしようとして、そう言えば昨日のコメント欄は片付いたのかな?と思った。
片付いていなければ、コメントは控えた方が良いだろう。
まず今日のコメント欄を見てみると、コメントは10件程で、全て『管理人の承認待ちです』になっている。
昨日のコメント欄もまだコメントが15件程『管理人の承認待ちです』になっていた。
昨日も今日も『このコメントは管理人以外読めません』は無かった。
そしてモリミヤからのコメントへの返事はまだ無い。
やはりコメントはやめておいた方が良さそうだ。
DMにしようかとも思ったが、モリミヤは羽鳥がDMをすると、即DMで返事をくれる。
羽鳥はうーんと考えて、逆に昼間にDMをしようと思い付いた。
それなら、昼から夜までの間でモリミヤの都合の良い時に返事をしてもらえる方が、時間にも余裕があるし、夜の限られた時間にDMするよりモリミヤの迷惑にならないと思ったからだ。
そう決めると、今朝の横澤隆史のラジオの書き起こしをすることにして、パソコンを切り替えた。
それからは普通の日々が戻って来た。
モリミヤになるべく昼間DMするようにしたことは、上手くいった。
羽鳥は横澤隆史のラジオ初回の翌日、昼間にDMをした時、最後に『夜はブログの管理があるでしょうから、返事は急がないで下さいね』と書いておいたら、モリミヤはその日の夜の8時頃返事をくれた。
モリミヤは羽鳥の考えを見抜いているようで、『タケさん、気を使ってくれてサンキュ!』と言ってきた。
羽鳥は今週は大学の都合で、火・水・木と連続でバイトを休む代わりに、週末の金・土・日は22時までバイトがある。
横澤隆史のラジオは毎朝録音して、尚且つリアタイして聴いているが、金曜日の木佐翔太と小野寺律のラジオは23時からなのでリアタイ出来るが、柳瀬優は日曜日の22時からなので、急いで帰宅しても後半部分しかリアタイ出来ないのが残念だった。
勿論、木佐翔太と小野寺律のラジオも、柳瀬優のラジオも録音するが、初回はリアタイしたかったのだ。
柳瀬優は吉野千秋と親しいのが少し気に入らないが、やっぱり大切なEmeraldのメンバーだ。
それに柳瀬優なら、吉野千秋のことを話さない筈はない。
羽鳥は週末のラジオ番組を楽しみにしながら、大学に通っていた。
ところが、木曜日。
教授の都合で夕方に入っていた特別講義が休講になってしまった。
羽鳥は17時には帰宅出来てしまった。
事前に分かっていたら今日バイトに出て、日曜日と交代してもらいたいところだったが、休講の知らせが講義直前だったので仕方ない。
それならそれで、Emeraldに関する通常作業をしたり、編集したDVDを一気見するのもいいなと思っていたら、インターフォンが鳴った。
届いたのは配達証明付きの白い封筒。
羽鳥の心臓が早鐘を打つ。
それはEmeraldファンクラブからだった。
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