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第1―21話

『モリミヤ』と呼ばれる男は、ソファに寝っ転がりながらご機嫌だった。 勿論リアタイしたが、ついさっき終わった木佐翔太と小野寺律のラジオの録音を再生して聴いているところだ。 モリミヤは録音を聴きながら、タケのラジオの感想が聞きたいな、と思った。 タケの目を通して見る小野寺律を知るのは楽しい。 だがタケは最近は遠慮しているらしく、夜にはDMをしてこない。 理由は恐らくブログのコメント欄だろうと予測はつく。 明日の昼間にでもDMをしてくれるだろうと思っていたら、タケからDMが来て驚いた。 もう午前0時半をとうに過ぎている。 タケのDMは、礼儀正しいタケらしく、『夜分遅くにすみません。』から始まっている。 そして『長文失礼します。』と続いている。 モリミヤは想像もしなかった内容に、ただただ驚いた。 そしてやはりタケらしいなと、ひとり微笑んだ。 羽鳥はモリミヤに、たまたま帰宅が早くなり、Emeraldのファンクラブから配達証明付きで届いた封筒を受け取ったことから、ファンクラブミーティングに当選したこと、そして鼻血まで出したこと、その上知恵熱を出して1日寝込んだことまで、席順は伏せて事細かにDMに綴った。 そしてこの事はモリミヤにしか教えていないので、他言しないように頼んだ。 それと最後に、今夜のラジオは全部聴けなかったので、通しで全て聴いたら感想を送りますと。 流石に吉野千秋の夢を見たことは書かなかった。 あれは夢とはいえ、羽鳥にとって特別な体験だからだ。 モリミヤからはいつもの様に、直ぐに返事が来た。 『タケさん、良かったな! 俺だってもしファンクラブミーティングに当選してたら、タケさんと同じような状態になる自信があるぜ!笑 楽しんでこいよ!! 俺は絶対誰にも言わねーし、ブログの記事にもしないから心配すんな。 それと俺だけに教えてくれたこと、チョー嬉しいよ。 これからもEmeraldを一緒に応援しような! それとお節介かもしれないが、ファンクラブミーティングに当選した奴らが、早速Twitterやブログで騒いでる。 タケさんはファンクラブからの注意事項を守りさえすればいい。 下手な情報に惑わされるなよ。 ラジオの感想は、俺のブログの記事がアップされてからで大丈夫!笑』 羽鳥はモリミヤに報告して良かったと思った。 やはりモリミヤは自分のことの様に喜んでくれた。 それに芸能関係のネットに疎い羽鳥に、前回の炎上の件の時と同様に、また助言までしてくれた。 羽鳥はファンクラブミーティングに行くまでに、モリミヤに小野寺律のどういう部分を特にチェックしてきて欲しいか訊いてみようと思った。 そして明日は土曜日。 午後からバイトだが、午前中はゆっくり出来る。 羽鳥はベッドに横になると、録音していた木佐翔太と小野寺律のラジオを再生した。 羽鳥は翌日、午前9時に起床した。 昨夜寝たのは午前2時過ぎだったが、ぐっすり眠ったせいか気分は良い。 羽鳥は朝食を済ませると、洗濯と掃除を済ませ、昨夜の木佐翔太と小野寺律のラジオの書き起こしをした。 横澤隆史の15分間のラジオと違って、木佐翔太と小野寺律のラジオは1時間あるので書き起こしは結構大変だ。 途中、昼食を挟んだが、それでもアルバイトまでに書き起こしは終わった。 だが書き起こしをして再確認したが、やはり木佐翔太と小野寺律は横澤隆史と柳瀬優の話題は出すのに、吉野千秋のことには殆ど触れていない。 小野寺律が、先日の生放送の赤い衣装の木佐翔太と柳瀬優と吉野千秋が超かわいかった、と言っただけだ。 また何か吉野千秋にあったのかと思うと、羽鳥の心配は募る。 でも、明日の夜だ、と羽鳥は思う。 明日の夜は22時から柳瀬優のラジオがある。 柳瀬優が吉野千秋の話をしない訳がない。 羽鳥のバイト終わりが22時だから、途中から聴くことになるが、柳瀬優のラジオは30分間の放送なので、寝る前に録音を聴こうと決めた。 そうして柳瀬優のラジオを楽しみに、羽鳥は今日もバイトに向かった。 土日共、羽鳥のバイトは順調に終わった。 土曜日は遅くまで混んだが、日曜日なは夕食時は混むが、21時を過ぎるとパタリと客足が減る。 羽鳥は足取りも軽く帰宅した。 賄いが出たので、ゆっくり風呂に入り、明日の大学の用意をすると、早々にベッドに入る。 わくわくしながら柳瀬優のラジオの録音を再生する。 オーケストラにシンセサイザーの音が混じったテレビドラマのオープニングのような曲が流れる。 横澤隆史は朝の番組だから、横澤隆史のラジオの軽快で爽やかなオープニング曲とは違うとしても、同じ夜番組の木佐翔太と小野寺律のラジオの軽快なポップでかわいらしいオープニング曲とは全然違う。 そして「こんばんは。柳瀬優です」と落ち着き払った声で、柳瀬優の初回ラジオが始まった。

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