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赤と白か黒 3

 神楽常寺の次男・未馬(みゅうま)は気さくな男だった。雪村と同い年ということもあり、すぐに打ち解けることができ、雪村の父も仕えたこの世の神同然の男。父が亡くなるまでは長男・龍虎(ろうこ)のもとで働いた。静かな男だったが、顔と声以外の覚えていることはあまりない。父が仕事中の事故で亡くなると、未馬の元へ移りその中でも高い位置へと就いた。未馬の友人として、護衛として、世話係として。未馬は神楽常寺家に嫌気が差して、自身で神楽常寺家を非難していたこともある。未馬は兄弟にあまり興味を示さなかった。そして何より価値観や感覚が雪村に似ていた。 「オレもいつ死ぬか分からねェからな~」  長男が暗殺されて間もなく、未馬はよく口にしていた。茶金髪が地味な上と下の兄弟と差別化されていたように思う。傷んだ髪を掻きながら冗談めかしてそう言っていた。お守り致します、くらい言えよな~。無言になってしまう雪村に未馬は背を叩いて笑った。明るい男だった。13歳の秋、未馬と初めてキスをした。いつ死ぬか分からないから、と冗談めかしていたのに真剣な顔をして。月が綺麗な夜だった。大窓のすぐそばで、月見だよ、と青白い光に照らされ笑う未馬は妖しかった。月光に()てられたな、そう言っていた。その姿がこの世のものとは思えないほど美しく映っていた。違和感も疑問も抵抗感もなく、止まれずに未馬は雪村の唇を貪る。  未馬様、。 月に見せつけようぜ、峡多。 鮮明に蘇る未馬の声。はっきりした二重瞼の下で大きな目が月の光と雪村を映していた。 未馬様、これ以上は…。 いいから、峡多も触れって。 気持ちが高ぶった。未馬が雪村の下半身を撫で付け、触れ、そしてお互いの身体を慰め合った。 未馬様、未馬様ぁ、。 いいよ、出せよ峡多、オレもッ…。 未馬さ、先に出せませっ。 気にすんなって、声聞かせて。  未馬の手の中に飛び散った白濁色も月に照らされていた。遅れて引き締まった未馬の腹筋を滴る体液に間を置かず雪村の中心はわずかに熱くなった。 なんかもう今死んでもいいわ、。  愛嬌のある口元を吊り上げて、雪村の乱れた髪を掻き上げながら未馬が笑う。死なないでほしい、と冗談に本音を言えず、雪村は未馬の服を握った。  髪を梳く手付きが似ていた。甘いミルクの香り。その中に混じる柔らかな洗剤と薄荷の匂い。目が覚める。髪触れている指が離れ、名残惜しく思った。視界の端に移る陰を確認すれば、神楽常寺だ。 「神楽、常寺様…」  起こそうとする身体を神楽常寺は肩を押さえて制した。未馬とは似ていない。性格も顔立ちも体躯も声も。 「おひとりですか」  他に誰もいない。籠原も連れていないようだ。 「煌は下がらせたわ」 「側近も付けずに?危ないです」 「…?お得意のマニュアルか?よく覚えてるね。何年前よ」  やはり未馬とは似ていない。 「それに側近なら目の前にいるだろ」  雪村は顔を逸らす。だがすぐにその顎を掴まれ、固定されてしまう。 「神楽常寺様、籠原を教育係から外していただけませんか。お願いします」  視線を逸らして、話題も逸らす。月光の下で青白く妖艶に照らされた未馬との後悔も憂いも汚れもない思い出が脳裏を過る。未馬の弟に侵されそうな気がした。 「酷いな。煌がどんな想いしてるか分からないの」 「籠原の想いなど、どうでもよいことです。これは“仕事”ですから」 「ふぅん、“仕事”ねぇ?“仕事”なら何でもしてくれんの?」  挑戦的に言い方だ。“奉仕”と言え、と迫らずあくまで“仕事”を強調する。 「私に可能なら」  マニュアル通り。神楽常寺は楽しそうな顔をした。 「分かった。じゃあオレもあんま甘やかさないでおくな?」  顎を掴む手の力が強まる。 「舐めろ」  立ち上がって放たれた、たったの3文字。冗談かと思った。神楽常寺を見た雪村に満足したらしく、神楽常寺は上唇に舌を這わせて雪村を見下ろす。 「気持ちイイんだろうな。この唇とか。反抗的なお口とかで舐めてもらったらさ」  顎を掴んだ手の親指の腹で雪村の唇をタップする。 「んッ…そういったことは、私の業務内容では――」  神楽常寺の親指が口内に入り、舌を撫でる。頭を逸らして言いかける。 「カンケーないっしょ。オレが黒って言えば黒。だぁれも逆らわない。君も例外じゃない」  そうだよな?とハムスターを思わせる可愛らしい顔立ちをして神楽常寺が訊ねた。 「んっぐ、ぁむ、ん」  神楽常寺の前を頬張って歯を覆う唇が疲れてきている。口に入りきらない部分を手で扱く。じゅるじゅると品のない音がして、舌を絡て先端を吸う。 「裏筋舐めて?」  ぺたぺたと雪村の顔に触れる湿った掌の熱がいやらしい。猫撫で声が不愉快だった。 「あ、む、ぐふっ」  指示通りにしようとしたところで後頭部を掴まれ喉までぐいっと押し付けられるとえづいてしまう。そのまま神楽常寺が腰を振り、固定されたまま雪村の口は道具と化す。生理的な涙がぼろりと零れた。 「ガチめに下手なやつだったんだ。顔が良いからイイけど」  息が出来ないまま喉奥を刺激され、苦しさに涙が止まらない。それでも残った理性が歯を出すなと、神楽常寺に好き放題させている。 「顔と口どっちがいい?」  口にモノが入っているため返事は出来ない。 「あンっ、ぅぐっっ…ぁふ」  飲み込み切れない唾液が口の端から漏れ、滴っていく。雪村の口から垣間見える神楽常寺の前も照明を反射し光っている。 「えっろ…ずっとこうしたかった」  神楽常寺の言っていることを理解するほどの余裕はなかった。早く終われ、それだけを願って喉を圧迫される痛みや苦しみ、唾液が漏れる気持ち悪さ、口腔に広がる雄の匂いにただ耐える。 「イくよ?」  揺さぶられる視界に唾液と生理的な涙がシーツにシミを作っていく。頷くことも拒否することも出来ず、ただ唇を窄めて神楽常寺が果てるのを待つことしか出来ない。 「あっ、イく…ッ!、っあ」  動きが止まり、目が回る。口内に広がる苦味を帯びたしょっぱさに気付くのも遅れる。口の端から流れていく唾液に混じった。脈動する口の中のものから離れたくて頭を離す。 「そのうち飲むまでは難なくやってもらいたいかな」  はぁはぁと息を吐きながら神楽常寺が言った。まだやるのか、あとどれくらいやらされるのか。思考停止してしまいたくなった。口腔に残ったままの神楽常寺の体液をどうしていいのかも分からず、口を開けたまま神楽常寺を見上げる。ぼたりぼたり、粘りけを帯びた唾液が白濁混じりに滴っていく。 「期待してるから」  嫌な笑みを浮かべて神楽常寺は雪村を見つめる。覗く八重歯が、子どもっぽい。 「っていうか手本みる?それがいいよね?」  手本て何、という疑問が浮かぶよりもはやく、神楽常寺がベッドに乗り上げた。仰向けに押し倒され覆い被さられる。 「おやめ、くださっ」  質の良い絹の寝間着の下を腰から下げられ、抵抗するが神楽常寺は構わず雪村の前に触れた。 「おやめください、神楽常寺様っ」 「いいから、ご主人様の好意に甘えろって」  前を下着の上から揉まれながら下着ごと膝まで下ろされる。 「いやです、お許しくださっ、」  体温が高いのか神楽常寺が圧し掛かる身体が火照る。前を布越しに撫でられながら神楽常寺の頭が下半身へと近付いていく。 「いやです、じゃねぇって。神対応あざ~っす、くらい言えねぇのかって」  まだどうともなっていない雪村のそれを直接触れられる。包みこむように、起こしいくように。 「神楽常寺、様ぁ」 「その声ソソるわ」  へへへ、神楽常寺は楽しそうに雪村の前を扱いていく。衣擦れの音に羞恥を煽られる。 「っん」  雪村の抵抗が弱まり、息を呑むと神楽常寺はまた愉快そうだった。 「昨日クスリ盛られたろ」 「っはぁ、クスリで、ございま、すか…っあ、」  先端が神楽常寺の口の中に消える。 「実践でよく学んでおけな?」 「あぁ、喋らっ~」  舌の裏側でなぞり上げられ、舌先が絡み付く。溜息が漏れそうだった。じゅるる、と音がして先端を粘膜に包まれながら吸い上げられる。腰が溶ける、そう思った。 「兄ぴっぴともこういうことやってるかと思ったんだけどな?」  一度口から出され、神楽常寺の唾液で濡れて光る自身を雪村は困ったカオで見つめた。根元を指で擦りながら神楽常寺は雪村の腿に乗りながら話す。 「フェラはさせなかった感じとか?」  ぐぽ、っと音がして深く銜え込まれ、雪村は息の仕方を忘れた。腰が浮いて、神楽常寺の喉の奥へ入れてしまいそうになり、理性で身体を引く。 「未馬、様はっ、私とッ、あぁっ…」  カリ、っと敏感な先端に甘く歯を立てられる。悪戯っ子が様子を窺うように神楽常寺が雪村を見上げる。先端も先端の小さな溝に舌先で抉るように舐められ強い電流が下半身の骨を迸るような感覚に襲われる。 「峡多サン…、峡多、峡多郎サンかな。いや、多郎サンもあり寄りのなし…」  心地良い生温かさから解放されて肩で息をしながら僅かに上体を持ち上げた。まだ終わってないとばかりに神楽常寺が丸められた指で擦り続けながら雪村の呼称を考えているようだった。  峡多、好きだよ。 「んぁ、あぁっ」  幻聴だった。記憶の中の未馬の幻聴で雪村も予期せず白濁が散っていく。 「うそん」  ぼうっとしているのも束の間、神楽常寺の顔を汚していることに気付き飛び起きる。 「申し、訳あり、ませ…」  神楽常寺は顔に散った白濁を指の腹で拭い取ると見せ付けるかのように口元に持っていき、舐める。 「君のだからいいよ」  鼻で嗤いながら神楽常寺がじゃあね、と部屋を出て行った。何をしに来たのだろうか。雪村は冴えてきた頭で下着と寝間着の下を穿き直す。シーツを汚してしまった。起き上がってシーツとカバーを剥がしていく。肘と膝と足首と肩に鈍い痛みが走って、昨日車に轢かれたことを思い出す。これからどうなるのだろう。姉はどうなっただろう。剥がして腕に掛けたシーツにまたシミが増えた。

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