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Lovers High,Like a Devil 1 

-なつくさ- 「おぎゃあ、おぎゃあ」  オレが泣けば目の前でマラカスような物が振られて、おしゃぶりを咥えながらきゃはきゃは手や足を動かしてはしゃいだ。  赤ちゃんプレイにハマったのはいつからだったかな。ガキの頃の恋人(ぴっぴ)には言ってないって記憶があるからその辺りからもうオレは赤ちゃんプレイが好きだったみたいだ。仕事が休みだから馴染みの風俗店に通って今に至る。  すっぽりかぶったフリルだらけのリボンがかわいいボンネットは気持ちよくて、されるがままカラダを撫でられるのも気持ちいい。顔をすべすべの大きなおっぱいで挟まれるのもサイコーだった。 「おぎゃあ、おぎゃあ、ママァ」  哺乳瓶の先っちょを口に入れられる。後頭部に当たる太ももも気持ちいい。 「ママ…夢也(みゅうや)、おっぱい飲みたいのぉ」  ばたばたと風俗嬢(ママ)におねだりする。履かせてもらったおむつを捲られてオレのがっちがちに固まったちんちんがぶるんと震えると、従業員(ママ)は照れたふりをしてそれを握った。ダメだね、ママが息子のムスコに照れちゃったらリアリティないでしょ。他の客はそれで喜ぶかも知れないけど、ママのメスな側面はオレのキゲンを損ねる。ちょっと萎えかけたちんちんを風俗嬢(ママ)は擦る。 「ママァ」  おっぱいがオレの口を塞いだ。母乳は出ないけどママのおっぱいを吸う。 「失礼します」  部外者が入ってきて、さっと風俗嬢はママをやめておっぱいを隠した。そいつは砕けた格好のイマドキの若者って感じで、オレと同じくらいの20代後半のヒゲの生えた男だった。ちょっとなんとなくゴリラっぽさもあるけど少し長い前髪とかがなんだか少し可愛げがあった。 「ここにいるって聞いたんだ」  まるで知らない人だったけど、オレが覚えてないだけかも知れない。こういうこと言うやつは実はよくいる。オレの客だろう。印象に残ってないから覚えはまったくないんだけど、そんな客大量にいるし。 「ああ、ああ、なるほどね…」  ママ役だった風俗嬢に悪くてオレはおむつを直してから、どうしたものかと考えた。オレの手管(テク)に惚れちゃって、勘違いしちゃったのかも知れない。困るな。 「でも今日、オレ休みだからさ。ごめんネ?」  部外者は少し困った顔をした。睨みつけるような目付きとか、ガラが悪そうだったけどこういうタイプはオレの前では案外にゃんにゃん系だったりする。 「…そうか。でも、急ぎの用で…」 「いやいやいや。今度安くしておくからさ」  オレは中指と薬指を2本まとめてくいくいと動かした。びっくりしたみたいにそいつはにらんでるみたいな目を丸くして、顔を赤らめた。純情ぶるじゃん。風俗嬢の前だから?それならこんなところまで来るなよ、人の休日にさ。 「いや…もう会えなくなるみたいだから。最後に顔が見たかっただけだ」  控えめにその人は笑みを作った。ぎこちないし、微笑みが似合うとかいうツラでもなかったからなんか意外だった。なんか勘違いした客って感じでオレは置いてきぼりで、会釈して出て行った背中をドアが閉まりきるまで見つめてしまった。風俗嬢は戸惑って、オレにプレイを続けるかやめるかをききたそうだった。オレはおしゃぶりを咥え直してまた風俗嬢(ママ)の太ももに頭を乗せる。  3発くらい授乳手コキで抜いてもらってからその帰り道にふと乱入者みたいなオレのほうの客を思い出す。普通休日に凸して来るかな。しかもなんでオレが風俗通いなこと知ってるんだろ。ストーカーかな。怖いな。そんなオレに入れ込んでる客いたかな。プロ意識に欠けるかもしれないけどいちいち覚えてないんだよなぁ。_そんなこと考えながら、なんか表で出くわすのも嫌で裏口から出させてもらったけど、それがマズかったみたいだ。なんかもめごとがあったみたいでオレはびっくりして隠れてしまったけど、誰かがカツアゲに遭ってるみたいだった。なんか殴りかかられるモーションのまま大理石系の柱に手をついて、ドンって誰かを脅してるみたいだった。やっべー、関わりたくねーって感じでオレは着ていたパーカーのフードをかぶった。 『す、すみません…我儘を言ってしまって…』 『お前、逃げようとしただろ?』 『ち、違います…』  声が、なんかあの短い会話の中でも耳に残っていて、あいつじゃん、という驚き。もう1人の背の高い男はなんか威圧的で怖かった。髪がギンギラ銀で、外国のアイドルかぶれ…みたいな。 『じゃあなんで俺の傍から離れた?』 『…まだ近くにいると…思ったからです…』  バンッと大理石系の柱が叩かれて、無関係なオレもたまげた。「ひぇえ!」なんて声もらしたオレもバカで、なんか怖いお兄さんがオレを振り向いた。ギンギラ銀の髪が浮かないくらい最近のゲームのキャラクターみたいなキレーな顔してたけどムスッとした顔めちゃくちゃ怖くて、もう逃げる姿勢になってたしチビりかけた。 「あ…」  あのオレに入れ込んでるガラ悪そうな客がオレに気付いて、おっかないお兄さんがオレをにらんで、なんかやっぱりマズい状況だったっぽくてオレはとっさに構えてしまう。やるならこいよってやつ。この辺りあんま治安よくないから、楽しく過ごしたいなら喧嘩で勝つしかない。 「よせよ、夢也(みゅうや)。また逮捕されたらどうするんだ」  オレはまたびっくりしたね。馴れ馴れしく下の名前呼ばれたことにも、オレの過去が知られちゃってることも。ンでそれ割りとプライバシーのシンガイってことにも。別にいいけど。  キャッキャウフフ…ってやってられる恋人(ぴっぴ)がオレにもいた。ガキの頃はサカりのついたサルみたいにとにかくイチャイチャする相手がほしくて。施設にいた。世間でいう中坊くらいの時期で、オレたちはなんか選ばれるかも知れない特別な子供…だったらしい。まぁ保育園の延長って感じの結構立派な施設だった。病院とか研究所みたいな。なんかの試験でオレはその施設から出て、学校に通ったんだよな。その時に会ったのが恋人(カレピッピ)。いやこの場合恋人(カノピッピ)か…オレが暴力事件起こして逮捕されたから自然消滅ってやつだね。 「覚えて…ないか。俺のこと」  意識がどこか遠いところに行っていたのに現実に引き戻される。めんどくさい質問キタコレ。困った感じ丸出しにしてごまかして笑うもんだから、オレもうこれ加害者じゃん。 「オレのとこの客っしょ?覚えてるって!ばっちり」  親指を立てて、ウィンクしてやる。まったく覚えてない。誰だっけ? 「ふぅん」  銀髪のおっかないお兄さんはオレの客をバカにするみたいにみて笑った。ハズレですって感じの空気だった。 「…そうか。ありがとう。行きましょう、荒海さん」  泣きそうな顔して平気なふりをするオレの客を銀髪のお兄さんは取っ捕まえて、なんかいきなりその人の首舐めはじめて、オレはまたびっくりした。首かじって、ライオンがシマウマとかにするやつじゃん。 「はは…俺は恋人って聞いてたんだがな」  オレはもうホントに、ビビりにビビったね。 -天河-  まだ成長途中の身体を押さえ付けて、固く閉じてる蕾みたいなそこに俺のものを突き立てたのはこのガキがまだ10歳になるかならないかの時だった。俺に懐いてうるさかった?違う。他のヤツに尻尾を振ったからだ。嫌がって泣いて暴れて、まだ機能もしっかりしてない器官を甚振った。でもなかったことになっている。あの夜のことはコイツの中で。  宮城(みやぎ)黒羽(くろば)がコイツの名。何人ものガキどもが犠牲になった、ある実験の試作品で、成功作。哀れなヤツだ。生まれた時から自由を制限されて。  社会と関わることは許されないという、お達しが出た時もコイツは動じなかった。だがひとつ、珍しく俺に連絡を寄越して、会いたい人がいると言うものだから監視官どもを言い包めて外に連れ出した。まさかその相手が随分前に別れた恋人で、しかも風俗通いで如何わしい店のオーナーだったとは。通称「イかせ屋」というその店は(はた)からみればマッサージ店だのエステだのといったふうだがその実態は性感マッサージ店で要するに個人経営の風俗エステだった。俺の使える(あら)ゆる手段でコイツの会いたいという男を探せば、幼児プレイ専門の性風俗にいるというのだから驚きだった。手前を強姦した男を珍しく頼り、会いたいと願った相手がそんなろくでなしになっているだけでも愉快でたまらないのに俺をさらに面白くさせたのは、そのお相手がコイツのことをまったく覚えていないということだった。平泉(ひらいずみ)夢也(みゅうや)。俺の実父の経営している施設の出で、ほんの一時期だが、アルバイト歴がある。縁故採用か。  あまりの面白さに、顔真っ赤なヤツの首を舐めてやっても平泉という甲斐性なしは阿保面(アホづら)を晒すだけで、ヒントを与えてやって、やっとそれらしい反応を見せた。 「こ、恋人…って、えっ、えぇ!」  平泉はヤツを指差して大袈裟でうるさい反応を示した。泣きそうになってるヤツの顔は俺のビタミン剤みたいなものだった。 「黒ちゃんなの…?嘘ん」  軽率な口調と見た目はこのピンク街によく似合っている。低俗で生臭くて、卑しくて安っぽい奴等の溜まり場だ。久々の再会に浸らせてやろうとヤニでも吸いに行くつもりだったが、ここまで来て怖気付(おじけづ)いているヤツの態度が癪に障って、もう少し眺めている気になった。 「…帰る。急に来て、悪かった」  泣きそうになって可哀想に。俺は心なしか肩を落としているヤツに腕を回した。小さく、すみません、なんて謝って。 「ま、待ってって。じゃあ、最後に顔が見たかったってどういうこと?え、何?黒ちゃん自殺でもすんの?」  明らかにコイツは動揺している。でもコイツも突拍子がない。大昔に別れた恋人に会いたいなんて夢を見すぎた。コイツの中では現在進行形でも、平泉の中ではもう振り切れて割り切れた過去のようだった。それを相手に期待しちまうから、とんだ甘ちゃんでおめでたいヤツだよ。 「いや…別に…」 「は?え、マジ?」  その答え方は肯定しているも同然だとコイツは気付かないらしい。 「ここからはお前が踏み込める領域じゃないんでな」  助け舟を出してやる。コイツの今後のことは関係者内の極秘事項だ。コイツは意識か否か、思わせぶりなことを(ぽろ)っちまったみたいだが。多分後者だろう。本当に詰めが甘い。 「えっ?えっ?ワケ分かんね!」  平泉とかいうふざけた甲斐性なしは混乱して頭を抱えた。ヤツはそれを気にしたが俺には関係ない。呼んだ車に引っ張り込む。また恋人と仲良くやりたいとでも思ったか?無理だけどな。施設関係者にでもならなきゃな。もじもじとして落ち着きのないヤツの視界を態とらしく塞いでやった。車窓(ガラス)の向こうでまだあの甲斐性なしは俺たちを、否、コイツをじっと見ていた。 「諦めてとっとと忘れるこった」 「…はい」  微塵もそんなつもりねぇくせに、分かったふりして俺をはぐらかす気か。気に入らない。受けが流せば俺を忘れて、ひとりあのろくでなしとの甘い妄想にでも浸れると思ってやがる。コイツが外に出られるよう買ってやったジーンズのファスナー部を鷲掴む。布越しにヤツのちんこを折ってやろうかと思った。絶妙なタイミングでヤツのケータイがぴろぴろ鳴って、俺が先に取る。慌てたツラが面白かった。 『黒羽?』 「いや?俺」 『…やっぱりか』  出たのはコイツのお目付け役の松島だった。抜け出したのバレたか。 『早く帰らせろ。何時だと思ってるんだ?』 「21時じゃ最近のガキもまだ寝てねぇ時間だ」  溜息が聞こえる。分かりやすい野郎だな。監視役に徹してるつもりで、コイツを見る目は欲にまみれてんだからな。 『黒羽に代われ』 「チェンジは別料金が発生するんだぜ」 『まさか風俗に行ってたなんて言わねぇだろうな』  勢い余って俺は首を傾げ、お望みどおりにヤツに代わった。慌ててケータイを掴んで耳に当てる。俺もそのケータイに頭を寄せて会話を聞いた。 『お前なぁ、何やってん』 「ご、ごめん。でもどうしても、会いたかったんだ」  松島は事情を把握しているらしかった。珍しく、俺を頼った用事のはずだ。 『いいて。で、会えたん?』 「ああ。悪かったな。無理言って…でもありがとな」  珍しく俺を頼った。外部の人間になりきれない、かといって関係者でもない俺を。 『何言うてん。俺は断ったんだ、礼言われる筋合いはない』  誰にでも突慳貪(つっけんどん)で無愛想な松島の声が柔らかく聞こえた。厳つい顔が笑ってるんじゃないかとすら想像しちまうほど。 「うん。でも、見逃してくれたろ?」  俺はいつのまにかヤツの手からケータイを奪って逆折(パカ)していた。ポリエステル素材のシャツの胸倉を掴んでいた。怯えた三白眼が俺を見ていた。 「松島にも頼んだのか?」 「は、い…でも、断られてしまって…」  制服とフォーマルスーツと寝間着とくたびれたルームウェアくらいしか持ってないコイツのために、俺が柄にもなく小洒落た若者向けの店に行って、コイツの雰囲気だの体型だの必死こいて考えて、店員にあれこれ在庫確認させて。値札切ってもらいながら、店を出て行くブランドロゴの紙袋を眺めて。阿保らし。浮ついた気持ちで、楽しんで買い物しちまっていた自分に一番腹が立つ。ただお鉢が回ってきただけじゃねぇか。 「来いよ」  胸倉を掴んだまま、俺は運転手にここで降ろすように言った。とにかくむしゃくしゃして、通り過ぎたばかりのラブホ街に連れ込んだ。テーマパークみたいなラブホばかりで、景観もクソもなかった。却って地味さと寂れた雰囲気が目を引いたラブホに足が向く。コイツにはこうでしか響かない。コイツはこうでしか学ばない。コイツにはこうでもきっと響いてなんていないし、学んでなんていない。  借りた一室は最近のラブホにしてはやっぱり地味だった。俺はピンクと白のキングサイズのベッドに座り、目の前の床を指した。 「…荒海さ…ん?」 「座れよ」  戸惑いながらヤツは床に座った。俺を見ることもできないみたいで、それが半分、愉快でもあった。 「あの…」 「松島に早く帰って来いって言われてたな?」  きょろきょろして可愛いやつ。撫でてやるつもりで頭の上に手を置いた。だがコイツはびくりと震えて身を反らし、俺を拒絶した。俺がそのことに気付くよりはやく、手前の失態に気付いたようだった。 「お前、そういう態度でいいのか」 「すみません…まだきちんとお礼も言えていませんでしたね」 「舐めろよ」  髪を掻き乱した。俺が買った服に似合うように俺がセットした。最近の若者風に。街で浮かねぇように。娑婆に出た元恋人にドン引かれねぇように。前髪を引っ張り、俺の股間へ誘導する。ヤツは無意識的な抵抗をした。それが許せなかった。ベルトを外し、ボタンも外す。 「手、使うなよ」  俺の股間に顔埋めながら目をかっ開いて、器用に舌と歯でファスナーを下ろして、首を伸ばしてパンツのゴム部分を噛んだ。もう少し焦らしてくれてもよかったんだけどな。 「失礼します」  露出させられる過程で少しだけ反応したちんこを口に入れる前にヤツな俺を見上げた。 「いいぜ」  ヤツの口に俺のちんこが入っていった。生温かく湿った口の中でざらついた舌が絡む。もどかしい動きで自分から突き上げたい衝動に駆られる。みるみる勃起していって、アイツは苦しそうに頬張って、必死に頭を動かす。ちゅぷちゅぷくぷくぷ音が聞こえて卑猥だった。コイツの唾液が俺のガマン汁と混ざっていくのが堪らない。喉奥まで挿し込まれるとさらに唾液が増した。前髪を引っ張っていたはずの手は力を失って、ヤツの動きと一緒に肘が曲がったり伸びたりするだけになっていた。そろそろイきそうなことをコイツは察したみたいで唇がさらに締まって、動きが速くなる。喉奥をぶち抜きたくなって、やっとヤツの髪に絡んでいた指が仕事する。 「ぅぐッ…ぐっ、く…ッ!」 「…ぁ…」  ごりごりとした感触が亀頭にあって、苦しがるヤツの頭を固定すると俺は射精した。くしゃみみたいな咳みたいな反射がちんこに響く。何度かに分けられたザー汁が出終わると、アイツの口の中はさらに唾液に溢れて口からこぼれていた。顔を真っ赤にして涙や鼻水まで出ている。コイツは顔面からダイヤモンドを垂らす。流れて潰れちまうのがもったいなくて俺はしょっぱいヤツの目元や鼻や口元を舐め上げる。 「お前の唾液飲ませろよ」  息を荒げるヤツの胸元を掴んで俺ごとベッドに引き倒す。案外体格のいいヤツの肉感にのしかかられる。少し蒸れた背中に手を忍ばせる。 「あ、の…」  躊躇っているヤツの唇が光って、俺はそこに舌を突っ込んだ。ぬるぬるの唾液が増していて、甘いその蜜を啜る。コイツの口の中がからからになるほど。舌を絡ませるとさらに湧いて出てきて、閉じようとする顎に指をかけて阻止した。 「あっ…ンむ、…く…」  鼻から抜けるような呻き声が俺の顔をくすぐる。そんなことよりも俺はコイツの口の中を舐めたくて仕方なかった。だがヤツの手が俺を拒もうと胸を押す。変わり映えのないこのホテルは本当にヤるだけの設備って感じで拘束用や緊縛用の縄なんてない。別に縛る必要なんかないか。 「ん…ぁっ、ふン…」  出したばかりだというのにまたちんこが勃ってきやがった。柔らかく生温かいコイツの口の中が悪い。ヤツの舌を甘噛みして、もっと唾液が出してやる。俺の顎に滴り落ちてくるのももったいなくて仕方がない。ヤツの身体の力が抜けて、手前で支えることも出来なくなって、俺に体重がかかる。ヤツの固くなった股間が下半身に押し付けられる。コイツのザー汁を触りたくなる。初めてヤった時は出なかった。当たり前だ。ガキだったもんな。上に乗らせたヤツを今度は下に敷いて、服を脱がせる。アイツは嫌がった。口の端から唾液が流れ出て、俺は砂漠で喉が渇いた旅人みたいにそれを啜り上げる。ヒゲの感触が邪魔だった。色気付きやがって。剃らせちまおうかな。 「やだ…!嫌です!やめて…!」  俺を撥ね退けようと必死になっているが、顔の真横を殴ってやると静かになった。壁とかばっかり殴っていたから、少しだけ固さのあるベッドなんざいくらでも殴れる。ただ効果は短いようでまた喚きはじむた。 「なぁ、」  ヤツの顎を掴む。目が潤んでいた。眼球に舌を伸ばすと、目蓋を舐めていた。 「お前さ、俺を頼ってただで済むと思ってたわけ?」 「い、いえ…きちんとお礼はさせていた、」  おそるおそる目を開いても、やっぱりそこは光り輝いて濡れている。 「じゃあカラダで返せよ?」  コイツは固く目蓋を閉じて、俺を拒む手がベッドに落ちた。 「あぁ!ぁっ…」  アイツのそこは初めてでもないというのに固く閉じて、俺の他には誰にも手を出していませんと言っていた。尻を持ち上げた体勢で何度かゆっくりとだが無理矢理出し入れさせているうちに滑りがよくなりはじめて、腸液だろうと高を括っていたが、ふと視界に入った赤が白い肌に鮮烈な印象を残す。 「あっ、ぐぅぅ、ぅう、」  手の甲を齧り、そこにも唾液がてらてらと歯型を覆う。首を伸ばしてそこに辿り着きたいが、どうしたってまったく届かなかった。さらに腰をヤツの内部に押し込むことになり、ヤツはくぐもった声を上げ、また手の甲を噛む。ぷらぷら揺れるコイツの萎えたちんこもガマン汁さえ出さない。扱いても扱いても勃起する気配がない。完全に俺を拒んでいる。カッと頭が熱くなって、緩慢に動かしていた腰を構わず振りたくった。中はキツく俺を食い締める。 「あっ、ぐっ、ぅぅ、あぐっ!」  内腿の血を指で拭う。乾いて固まるまで指の腹で遊んだ。コイツのカラダから出てくるものが俺を堪らなくさせる。脳味噌が沸騰しそうだ。汗ばんだ尻や腿を撫で回して、しっとりした掌を舐める。俺の汗なのかコイツの汗なのかも分からないまま。 「お前インポか?出すまで終わらねぇぞ」  扱いても扱いても勃起しないコイツのちんこをしつこく扱き続ける。ここ掴まれちまえば男なんてあっという間にガチガチにフル勃起するはずなのに。手の甲を齧るコイツの頭が左右に揺れた。 「インポじゃねぇならさっさとおっ勃たせて、みっともなくザー汁出せよ」  腰を打ち付ける。コイツの金玉袋が大袈裟に揺れる。だがやっぱりコイツのちんこは勃たない。ヤツは手の甲から口を離す。唾液が血液を混じらせて糸を引いた。俺のちんこがまたデカくなる。ヤツの目から涙が落ちて、激しくヤツの中を荒らす。舐めたい。全部むしゃぶりつくしたい。首を伸ばして、ヤツの顔を舐める。汗ばんだ横面、落ちていく涙、涎まみれの口元、全部俺が舐める。 -狂歌-  黒羽の帰りが遅い。途中で切れた電話も気になる。荒海と一緒にいるというのも厄介だった。センター長の一応息子となると、誰もあの男には逆らえない。尤も、愛想尽かされて縁を切られた息子の反感を買ったところで何を恐れることがあるんだか。とはいえ血縁関係やそうでなくとも親子関係は侮れず、認識は徐々に神経を腐らせていく。俺にもセンター長に対しては拾ってもらった恩を感じている。いつ野垂れ死んでも不思議じゃなかったあの人は半グレの俺に働く口をくれた。  日付けが変わってもまだ黒羽は帰って来なかった。彼の身に何かあったのかも知れない。荒海の毒牙にかかって泣かされているのか。想像して暑くなった。時折不謹慎で訳の分からない妄想に取り憑かれる。黒羽が俺に膝折って、許しを乞い、泣いて縋りつくような。俺は黒羽を見守る仕事に就いている身で、彼を殴ってみたい衝動に襲われる。縛り上げてみたい、玉のような肌を傷付けてみたいと、そんな。これがただの興味なのか、欲望なのか、まったく意識のない憎悪なのか俺には判別がつかなかった。ただ本当に黒羽を殴ろうだとか縛り上げようだとか、刃物をちらつかせたいとか、実行する気はさらさらない。俺に話しかけて、笑う姿を見るたびにそんなことを考えてしまうことに罪悪感さえ覚えているのだから。黒羽の部屋に設けられた俺専用のデスクで、真前の壁の模様を追っていると、部屋に眩しい光が飛び込み、電気を点けることを忘れていたことに気付く。涼しい顔の荒海が黒羽に肩を貸し、部屋に入ってきた。すでに深夜帯で、泥酔したように黒羽は荒海に支えられ、ベッドに倒れ込む。 「黒羽!お前、大丈夫なん?」  疲労に満ちた顔を真上から見てしまうと、ふとまた嫌な妄想が隙を突いて入り込む。怒鳴りつけて、殴ったら黒羽はどんな反応をする?心配はしたが怒ってなんていない。殴る気力などない。だが油断すれば拳を振り上げてしまいそうで、それは俺自身、制御できるのか分からなかった。 「七尾…」  嗄れた声が俺を呼ぶ。掠れて聞き取れない声で謝る。今度は、首を締め上げてしまいそうだった。苦しげに呻いて、潤んだ目で俺を見つめて怯える黒羽の幻覚がこびりつく。 「お、おう…」  誤魔化し方が分からない。 「帰ってくればいいんだけどよ」  荒海がいることも忘れて、黒羽を殴りそうなる拳を、首を絞めそうになる腕を抑える。気を緩めれば口は怒鳴り散らし、罵倒しそうにさえなった。泣いて許しを乞う姿が見たい。だが想像するだけで胸を掻き乱されるような疼痛に襲われる。 「じゃあな」  荒海は嫌味ったらしく笑って俺の肩を叩いた。 「黒羽に何したんだ?」 「ナニをさ。気になるなら、お得意のボディチェックでもしてやるこったな。隅々まで」  誰も彼も荒海には逆らえない。後を追うような風にセンター長の匂いが微かに残っていた。縁切りされてもなお。 「なんでもねぇから…悪ぃけど、このまま少し寝るよ」  黒羽は繕ったような笑みで俺を見上げる。荒海の前ではしない砕けた態度に安堵はするが、様子がおかしい。 「少しってどれくらいなん。着替えやっせ」 「すげぇ、疲れちまったんだよ」 「俺が着替えさせるんがいいか」 「自分でできる」  黒羽は気怠げに起き上がり、もたもたとこいつらしくない服に手をかける。だが途中で手を止めた。 「どうしたん?」 「あ~、やっぱ先風呂入るわ」  へらへら笑う。酔っているようでもあったし何か隠しているような、そんな笑いだった。深く追求するべきか否か。監視官兼世話係兼お友達として傍にいる以上、ここはひとつ踏み込むべきだろう。 「例の元恋人と何かあったん?」 「ないよ」 「嘘こけ。それともあれか、荒海とか」  基本的に嘘吐くことに黒羽は慣れていない。これは俺が本部に呼び出し喰らって同い年だなんだとこいつの監視官兼世話役兼お友達に大抜擢された時から今までによく分かっていることだった。 「ないって言ってんだろ!」  嗄れた声が俺を威嚇する。話したくないということらしいが監視官である以上そうもいかない。そしてまたあの妄想が悪辣な手段を煽る。手が震えた。拳を作ったら、おそらく殴るだろう。開いていても、張り倒してしまいそうだった。やってみようか?囁きは止まらない。見てみたくない?不健全な興味は湧いたまま治まらない。 「…悪ぃ」 「いんや。ただ監視官として不調は把握しておきたかった。分かってくれ」  変な空気になって、黒羽は先に折れた。素直で優しいやつだから、尚更、俺はこいつを痛めつけたい好奇心と理性に板挟みになる。 「…後できちんと話す」  だから今は放っておけ、とでも言いたそうに黒羽はシャワー室に向かっていった。

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