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Lovers High,Like a Devil 2 打ち切り
-急流-
可愛い子が泣いている。黒羽くん。私の可愛い子。
「黒羽くん、どうしました?」
私はお気に入りのブラウンカールの毛先を指で弄んだ。黒羽たんは体育座りでラウンジの窓から夜空を見ていたけれど、生憎流星群だの満月だのが見える日でもない。
「遼河ちゃんさん…こんばんは…」
目元を腫らして、充血した目が大きく光ってわたしを見る。引き攣ったみたいに笑う。不細工だ。黒羽くんはカワイイのに。1人にしておいてほしいってオーラ出てるけれど、1人になんてさせてあげない。この子は私が苦手らしい。ハイヒールを履いて190cmを越える女装の男に近付かれたら、顔見知りでも怖いようだ。
「こんばんは。今日はお出掛けだったみたいですね。どうでしたか」
ほぼ間違いなくそのお出掛けで何かあったみたい。黒羽くんは困ったように笑う。髭面でちょっとゴツいけれど、やっぱりわたしには黒羽たんはカワイイ。
「楽しかったですよ。久しぶりの外でしたし」
「そう、よかった。松島クンも見逃した甲斐があったというものですね」
黒羽くんは少し怖い顔をしてわたしから目を逸らす。
「ご迷惑、おかけしました」
「別に私には迷惑なんてかかっていませんよ」
とはいっても警備員の配置を誤魔化したり、セキュリティ解除したり、明るみに出たらクビが飛ぶようなことはしたのだけれど。上層部に知られなければいいわけで。
「センター長の御子息にいじめられちゃいました?」
あの馬鹿息子が黒羽くんを傷付けたんだ。か、或いは私の愚弟か。黒羽くんを裏切るみたいに逮捕されて、彼との関係は自然消滅した。こんなに可愛い子を放ったらかしにして。どちらだ。私は馬鹿息子のほうだと思うけれど。
「い、いや…そんなことは」
あるんだろうな。図星を突かれた黒羽くんもまた可愛い。私より体格はいいけれど、彼の素直さや、見た目の割りに幼い表情のひとつひとつが本当の年齢差よりももっと離れて感じられる。
「会いたい人には会えた?」
会っていた。見ていた。さすがに風俗店に入る気は起きなかったけれど。あの世間知らずの馬鹿息子が受付を脅して中に通させてもらったところまでは見ていた。
「えっ……あ…はい。会えました」
驚く顔も可愛い。まったく罪悪だ。異父弟 はこの子のことをおそらく忘れている。いちいち覚えていられるような忠実 さなんてない。父にも母にも似て。
「それなら良かった。ところで松島クンは?」
態 とらしく周りを確認する。分かっている。この子は1人でここにいる。しかし鬼の若監視官がそんなミスをするだろうか。
「部屋です。ちょっと夕涼みくらいならいいって…」
松島クンは愚弟と同い年とは思えないほどしっかりしている。それでいて監視官以上の情を抱いているのだから難儀なものだ。時折黒羽くんを物欲しそうに見つめていて、多分自覚はないのだろう。私はいつか間違いが起きると踏んでいるけれど、松島クンはセンター長が拾って態々 支部から呼び寄せて重用している人だからあまり私が口を出せることではない。
「でも、そろそろ戻りますよ」
同時の逆接。でも、ここで事にしてしまえば間違いなんて起きないということ。
「黒羽くん」
「はい?」
ハイヒール分私より背が低くなってしまっているけれど、それでも肩幅や胸囲は黒羽くんのほうがある。下半身もしっかりしている。腰も太いけれど引き締まって括れ、妖艶な雰囲気を醸す。私は筋肉はそれなりにつけても着痩せしてしまいがちで、この格好には合うものの、ドレスだのハイヒールだのウィッグだのを脱ぎ捨ててしまえば華奢な感じがあった。
「来てください」
「あの、でも…」
黒羽くんの腕を掴んで、黒羽くんの自室がある棟とは反対方向のわたしのいる宿泊棟に引き摺った。松島クン、拙いだろうな。とはいえ誘拐犯は私なのだし、内部の人間で、それも忠実で有能な幹部なのだからとりあえずは些事として片付くだろう。精々始末書程度というもので。
「いいからおいでなさいな」
この子は私のことが苦手なのはよく分かっていて、強く押してしまえば逆らえないことも。ぶっきらぼうな低い声は面白いほどに素直で私もつい可愛がりたくなってしまう。
「松島が待っていますから…」
「すぐに帰します」
黒羽くん次第で。口にはしなかった。特に決まってはいないが就寝時間のド真中の宿泊棟は静かで、ハイヒールの足音がよく響いた。私の部屋に黒羽くんが訪れる日が来るなど夢にも思わず、私は少し浮ついていた。無理矢理連れて来られたというのに律儀に「お邪魔します」などと挨拶をするものだから、愛らしさについ抱き締めてしまった。私にとっては生活スペースであるから、気は緩みっぱなしだった。見るからに自分より体格に恵まれた男を両腕に閉じ込めて見下ろす光景は変な感じがした。
「俺はどうしたらいいんですか」
私はソファを勧める。アンティークな雰囲気の革張りのソファで、座面が少し盛り上がっている。躊躇いながら腰をゆっくり下ろす。しかし座りきる前に腰を浮かせた。
「こっちに座りますか」
平坦な座面の椅子を勧め直す。しかし黒羽くんは座らない。早く帰りたいといった様子を隠しもしない。もう眠いのかな。ここで寝ていってもいいのだけれど。
「すぐにお暇しますから」
「…じゃあ、こちらに。すぐに帰しますから」
黒羽くんは少し厄介そうに私の傍にやって来た。彼の硬い肉感に覆われた背中を押して部屋の奥に迎える。衣装が部屋の壁4面に並べられている。中心にはキングサイズのベッドを置いた。この部屋にやっと黒羽くんを連れ込めて、私は顔には出さなかったが嬉しくて仕方がなかった。不穏そうに黒羽くんは私を見上げた。私は近くにあった、絵に描いたような記号的な看護婦の制服をハンガーラックから取る。ビニールに包まれ、薄ピンクを帯びた偽物の制服を戸惑った顔まで可愛らしい黒羽くんに差し出した。サイズに狂いはないはずだ。私は期待と焦りで表情ひとつ作れず、後退る彼に詰め寄る。可愛げにゆるゆると首を振って彼は拒むが、ここまで来させておいて何もせずに帰せるほど私はデキた人間ではない。
「着ないのなら帰しません」
「でも…俺、こういう趣味は…」
知っている。こういう趣味がないから唆 られる。興奮で、私のドレスの下は肌着を押し上げている。
「松島くんが心配してしまいますよ」
縋るような目で見つめられて、また私の下半身は質量を増す。それだけは勘弁してほしいとばかりに私を見つめて、私はそれだけで果ててしまいそうだった。松島クンの名前など出したくはなかったが、黒羽くんにはこれがよく効く。同い年の監視官には少し意地を張っているみたいだが、あの男は黒羽くんを蹂躙したくて仕方がない、そんな欲情を抱いてるよ。私には分かる。本人ですらまだ自覚していなくてもね。黒羽くんは鈍いから、そういうことに気付かなくて良かった。だってこの子は押しに弱いから。
「お願いします。どうしても誰かのナース姿が今すぐ見たいんです。こんな物を持っているだなんて貴方にしか頼めません。採寸がしたいんですよ、私には着られないので…」
付け睫毛の重い目を伏せ、マロンブラウンのアイブロウペンシルを引いた眉を下げた。コーラルのリップグロウを乗せた唇を柔らかく噛む。目を泳がせて、悄 らしくしてみせれば黒羽くんの狼狽が面白いほどよく伝わった。
-なつくさ-
目の前で裸にエプロンの元恋人 が立っていて、腿の辺りで焦らすみたいに裾をたくし上げてオレを挑発する。夢だ、これ。だってオレの元恋人 はヒゲ面じゃねぇもんよ。それでもオレのアソコはぎんぎんに勃っていて、恥じらいながら裾を上げて露わになってくすべすべの腿に釘付けになっていた。
『甘えていいよ』
オレのシュミなんて知るはずがない、でも知られた赤ちゃんプレイに理解を示すみたいな言い方で、オレは勘違いしたつもりになってヒゲ面の元恋人 に手を出す。アソコがもう苦しい。かっこよく育った黒ちゃんがオレを包み込んで、エプロンの襟元から張った胸筋 を見せたのが卑猥で仕方がなかった。風俗嬢 とは違う小さな乳首にむしゃぶりつく。困ったみたいな顔をしながらも眉を歪めた姿がまたさらにオレのちんこを大きくした。舌で乳首を転がして、吸う。オレのばきばきになってるちんちんを掴んで、触られたのはオレなのに黒ちゃんが赤面して、何かに耐えるみたいに唇を舐めた。
『ぅ…、ん、』
仕事でスるのとも、客としてサレるのとも違う要領でオレは黒ちゃんを気持ち良くしたくて口の中で乳首を突いて、捏ねる。黒ちゃんの腰がびくびく跳ねて、黒ちゃんがイくところみたいな、と思って胸が張り裂けるような熱があった。
はっとして楽しかった光景が一瞬で消える。喉がからからに渇いて、苦味すらあった。妙に蒸れてるような感じのある下半身が気持ち悪くておそるおそる布団を剥がす。嗅ぎ慣れた生臭さがむわっと漂って、マジかぁって感じで、3回も抜いてもらったのに?昔の恋人に会ったなら仕方がない。ヒゲ面のガチムチだったけど。でも胸筋(おっぱい)大きかったな。服越しでも分かる。谷間にちんちん挟んで擦りたい。一緒にいた男は恋人かな。でもそんな感じじゃなかった。黒ちゃん、ヒゲ面だったけどあの大きなおっぱいでヌいてほしいな。スタイルも良かった。がっちりしてたけど太腿で扱いてほしいな。腕もしっかりしてたな。腋コキも捨てがたいけどやっぱり腕枕されながら授乳手コキが王道だろうし。オレもあれが黒ちゃんなら多分ヤれる。オレよりガタイよかったけど乗せられるかな。女役 を気持ち良くしなきゃだからな。今の黒ちゃんはあのヒゲヅラで、どんな風に感じるんだろう。
妄想が捗って濡れたパンツの中でまたむくむくオレのちんちんが大きくなっていく。早く元恋人 のおっぱいを吸いたくて、元恋人 が愛情と興奮に板挟みになるところが見たい。元恋人で今胸筋 。最高だな?どこに行けば黒ちゃんに会えるんだろう。今度はオレから会いに行く。下心しかないけど。知る限り、センターしかない。
ひとつ忘れていたことがある。センターには、会いたくない人がいる。その人に出会 してから思い出しても後の祭りで。ナントカ遼河とか大河とか空河とか、確かそんな名前だった。長年会わなくても、半分の半分くらいなら同じ遺伝子で分かるのかな。冗談じゃないとは一目で分かるくらい本格的な女の格好をしていても。骨太でめちゃくちゃ長身であることを除けばめちゃくちゃ美女だけど、兄で男で性格最悪だからすべてが台無し。女の人の腹の括れじゃなくて筋肉が引き締まって括れてるタイプの腰に手を当てて、ボディライン浮き出る服やめたら?と言ってしまいたくなる。目障りなほどカールした長い茶髪は肩幅とか首元隠してるみたいだけど暑苦しくて、誰も彼もを見下した目が久々に会った弟(オレ)を見下ろしている。
「何の用です」
出た、血の繋がった人間にも突き離した喋り方。父さんにも母さんにも気味悪がられてたの気付かねぇかな。
「宮城黒羽って人に…会いに来たんだけど、知らね?」
遼河とか大河とかそんな感じの名前の異父兄 は何も答えないでオレに背を向けた。防犯カメラでオレを見つけて会いに来てくれたのかと思ったけど多分偶然だな。
「なぁ、おい」
ハイヒールがコツコツ鳴って、ワンピース越しの男の引き締まったケツが揺れてもソソるものはない。
「おい、兄貴!」
兄貴だなんてそんな敬った呼び方なんてしない。ただ名前を覚えてねぇんだわ。遼河が、大河か、空河。確かそんな響きだった。ハイヒールの靴音がやんでごつごつした指が写真から何かを投げてよこした。投げてよこしたなんて丁寧なものじゃなくて、風でたまたまオレのもとに運ばれたって感じだった。振り向きもしないでまたハイヒールがコツコツコツコツうるさかった。目の前にそよいできた写真らしき物を拾う。
「は…?」
丈の長いセーラー服を着た黒ちゃんが写っていた。亀甲縛りで固められて、タオルを噛まされている。カメラ目線で、オレを見て怯えていた。びっくりして写真を放り投げてしまう。それでまた拾った。黒ちゃんも、遼河?大河?空河?みたいに、そういうシュミがあるの?オレはもうどうしていいのか分からずに、今日は一旦帰宅することにした。黒ちゃんにそういうシュミがあるのなら、エプロンも着てくれるかも知れないし、恋人 シャツだってやってくれるかも知れない。シルクのパジャマで授乳されるのも夢じゃないわけだ。カメラ目線で恥じらいに顔を赤く染めてる黒ちゃんの写真をオカズに2回ヌいて、期待を込めた妄想でもう1回ヌいた。攻めるならセンター長からだ。なんとなく、オレはイケる気がした。
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