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君の絵にはアオが足りない 2
吐卵衝動によってエッグシュートの中に卵を吐き出した。膜を付けて交接しているため、他者の分泌液と混ざらず、孵化することはない。口元を拭い、カプセルの中の翅虫を眺めた。床人は疾 うに帰り、イツミはあらゆる欲を空にして、コータセレステと取り付けた約束を果たすためドックに出た。あの破廉恥極まりない蒼玉人は床人をする傍らジェミニ珠川との繁殖行為を望んでいるらしく、実際部屋を透視するとジェミニ珠川と繁殖行為をしているらしき体位を取っていた。しかし触手核をあの小さな孔で受け入れたとは考えづらかった。ジェミニ珠川の自室にいるコータセレステを迎えにいく。彼等は部屋の前にいた。コータセレステはジェミニ珠川に話したのか、夢中になって話す彼越しにジェミニ珠川はイツミを見据えた。目を合わせると信号が重なった。
『セレステ ト 番 ウノ カイ?』
受信器から音波が届く。コータセレステは自分が挟まれ、除外されながら会話相手が意思疎通しているなどまるで察知した様子もない。ただ振り向いて歯と口内を晒した。よく見ると2人は手を繋いでいた。蒼玉人には珍しくなかったがジェミニ珠川が応じているのは、見たままをそのまま受け入れられない心地になった。艦玉個体であるのなら触手と触手を絡ませ、結んでしまうのが常だった。しかしやはり、コータセレステに触手はなかった。
『イイエ』
イツミはジェミニ珠川とコータセレステの体表接触に冷静でいられなくなった。
「識別コード0823-67b5b7-0922と約束があるんだったね」
ジェミニ珠川はコータセレステとの体表接触をやめず、頭を撫ではじめた。艦玉個体の力ならば蒼玉人の首は折れてしまうだろう。最悪の場合は(も)げてしまう。蒼玉人に再生機能はないのだとジェミニ珠川は理解しているのかも怪しかった。
「あ…えっと……」
『コータセレステ ニ 個体識別番号ハ 分カラナイ』
『ソウダッタ』
送受器のないコータセレステには個体識別番号を送られたところで何ひとつ情報は入ってこないようだった。艦玉管理星府から繁殖液の寄贈を望まれているだけある個体だったが、蒼玉人相手には少し抜けていた。
「行ってくるね、識別固有名 チアキ」
体表接触を惜しみながらコータセレステはイツミのほうへやって来た。彼はイツミとは体表接触を図ろうとはしなかった。
「楽しみだな。ありがと、イツミさん。楽しみで寝られなかったんだ」
赤い口内を見せられ、イツミは目を逸らした。触手が飛び出し、そのうちのひとつが彼の腕に巻き付いた。
「ん?」
ブラウンの瞳に覗き込まれ、彼の腕に巻き付いた触手が解ける。暴走に似ていた。まるで制御の外の動きだった。イツミは触手を体内に引き戻す。
「用はない」
「でも尻尾出てた」
「偶々だ」
「手、繋ごうよ。ホントは触手でチュッてやるんでしょ?でもごめん、オレ、触手ないからさ」
白い歯は見えなかった。艦玉個体であっても卵を吐き出すのに一苦労しそうな小さな口は口内を晒すのをやめた。
「欲しいのか」
「そりゃね…だってみんなともっと話したいし。とりあえず尻尾から」
「2本か3本ならくれてやれる」
「そのことなら、固有名 チアキがくれるって。そしたら耳の玉っころも。みんな、口で話さないのにオレに合わせてもらうの、なんか、ダメだなって」
心臓部 が一度大きくなった。イツミは足を止める。先に行こうとしたコータセレステの四肢を、再び触手が奪った。蒼玉人の自覚もなく艦玉個体になろうとしている異星人を、両手の中の翅虫にしたくて仕方がなかった。しかし9本あるこの触手の半分をコータセレステに分けることに対しては迷いや吝嗇 な念はまったく浮かばなかった。しかしジェミニ珠川の太く長い触手がこの蒼玉人に植え付けられるのは、吐卵の衝動を抑えることよりも難しかった。
四肢を拘束され壁に押さえ付けられるコータセレステは蒼玉でみた白い糸に絡まる虫たちのようだった。このままそのとおりに触手で巻いてしまおうかとさえ思った。ブラウンの瞳はレーザービームを出さんばかりにイツミを見つめた。
「い、痛い…」
その一言で、イツミは相手にしているのがすぐに破損したり、機能停止し、再生もしないひ弱な異星の個体なのだと再認識する。触手を解き、体表接触する。
「な、何…?イツミさん、なんか変だ…」
破損しないように力を加減した。コータセレステを引っ張る。触手は彼に絡み付きたがり、イツミの意思もそこに加勢した。しかし蒼玉人の脆さを考えれば体内に納めておくほかなかった。
「この前のこと、やっぱ怒ってる?でもあの日は礼石もらってませんから…当然ですけど…」
「怒ってない」
触手を安定させ、送受器を補強する機能のあるパイロットスーツを着ることもなくドックのブリッジへコータセレステを引いた。管理センターにはすでに内部モニターの起動テストと予約を取り付けてあるため、アークトゥルスのコックピットは開かれていた。コータセレステの体表を離さず、そのまま操舵席の後部の空間に乗せた。装甲を閉めると、ダウンライトとともに様々なモニターが表示された。アップデートを必要としているアプリケーションがあるため、読み込む。次々にモニターが現れ、軸の描かれた四方八方のカメラが並び、管理センターのオペーレーターの様子も映し出されている。2号機ミーティアのオペレーターはまだ着いていないらしく、デスクにはボトルや食物 が散らかっていた。
「すっご…」
後ろから座席に張り付くコータセレステは感嘆の声を漏らした。
「識別固有名 ジェミニには乗せてもらわなかったのか」
「うん。この前手の上に乗っただけ」
「あの個体 は長いのか」
オペレーターが戻ってきた。席に飛び込み、胸元にある摂食腔にボトルの液体を注ぎ、食物 を入れた。2号機専属のオペレーターは優秀だったが何よりも食らうことに執着を示したが、その栄養が行き着く果てにある繁殖には消極的だった。
『飯 食ウ。待テ』
まだアップデートも読み込みの途中だった。オペレーター室のカメラを切る。コータセレステは「あ」と言った。
「食事中だそうだ」
蒼玉内生命体が頭部口孔から摂食することに最初は驚いたものだった。卵が逆流してしまうだろう。しかし蒼玉人に擬態しているときばかりは吐卵現象もなく、触手が意思に反して飛び出すこともなかった。
「…オレさ、ごはん食べるのも、みんなと違うんだ」
「まずは尻尾でしょ、耳の玉っころと、それからここにツピッて、口作る」
コータセレステは摂食腔のない胸元に指を這わせた。再生能力もなく、殴られたり蹴られたりして生命体ではなくなる蒼玉人に、体内まで作り変えるような操作は不可能に思えた。体組織の再生が追い付かず、液状化し、やはりそれも再生が適わず、機能停止になる。それをまた艦玉の地に埋め、艦玉に還り、そこから摂れた食物を経由して有用卵になり、孵化し、コータセレステは艦玉個体になれるかも知れなかった。しかしこの蒼玉人であるコータセレステを一度土に埋めたり、そこから可食物質が発生し、それを食らい、繁殖し、口から吐いて孵化するまでをイツミは渋った。
管理センターに何の許可も取らずイツミは2号機ミーティアを発進させた。ブリッジが拉げる。モニターが遠隔操作 され、消したはずのオペレーターのカメラが浮かんだ。イツミはオペレーターの姿が見えると出撃口を開けろと命じた。片手で操縦し、片手で再びモニターを消す。管理センターのアクセスをブロックし、新たなシステムで侵入されないよう情報改竄 する。
「何?何?」
コータセレステは機体とともに大きく揺れた。蒼玉人は頭が柔らかすぎるため、壁に激突したら機能を停止する。イツミは触手で彼を巻き付け、コックピットの隅に固定した。2号機ミーティアは浮遊艦ブルペキュラの出撃口を対異星人用の兵器で壊そうとしたが、その前に装甲扉が開いた。そして2号機は何のオペレーションもなく艦玉グランシャリオに飛び立った。
◇
コータセレステは艦玉個体と違って数時間、半機能停止状態に陥る。蒼玉内生命体はそうだった。布団がないために外に干してあったケミカル藁を敷き、その上にタオルを引いて彼は眠った。蒼玉に似せた環境と家屋、そして本物の蒼玉人の気配にイツミは異星の暮らしを思い出に耽っていた。
『………』
イツミは顔を上げた。艦玉の創星者ライラ・ライラライラライラだった。ケミカル藺草 で編まれたマットに立つ姿に実体はなかった。イツミはこの者に支配されている。ライラは残像もなく消え、目瞬くよりも速くコータセレステの傍に再び現れた。
『艦玉個体ニ スルカ』
『…………』
返答はイツミの投げた問いの答えにはなっていなかった。コータセレステから離れるなというようなことを命じられる。そして浮遊艦ブルペキュラの内情を引っ掻き回したことを無かったことにすると付け加えられた。そして布団が虚空から爆誕した。イツミは早速、コータセレステが抱き上げて布団に移した。
「イツミさん…?」
部屋の隅の行燈 でも十分明るく、ブラウンの瞳がゆっくり開いた。投げ出された腕に触手が絡みに掛かり、我に帰って解かせる。触手核も、床人が来られないような僻地区画で繁殖行為を求めていた。コータセレステの腹はぐるぐると鳴った。蒼玉にいた手足と触手の生えた毛玉の生命体も喉から似たような音をたてていた。
「何か食べるか」
「食べるもの、あるの…?」
「コックピットにある」
また半機能停止に陥りそうなコータセレステを置いてイツミはケミカル茅葺き屋根のある家から外に出た。ケミカルな水田の中にアークトゥルスは停まっていた。装甲は意図的に作られた泥で汚れている。2号機の送受器認証によって機体はパイロットなしで動き始め、イツミは手に乗ってコックピットに入った。操舵席の下に携帯口糧がいくつかあった。それをすべてコータセレステの元に持ち帰る。彼は半機能停止になりかけていたが、イツミの姿を見ると覚醒する。そして携帯糧秣 を選んだ。ケミカルな食物 に少し甘味がついただけのものだった。
「いただきます」
包装を剥がし、コータセレステは頭部の口から摂食する。
「イツミさんは食べないの?」
ほんの短い返事でさえ、彼には対しては声帯を使わねばならなかった。卵を吐くところで物を食う姿を傍で観察する。
「やっぱ、変だよね。ここから食べるの」
彼は摂食を中断しイツミを向いた。張りのある唇襞に糧秣 の粉が付いている。それを舌が舐め取った。触手はコータセレステを捕まえる。何度目か分からない。触手は意図に反して彼に絡んだ。
「みんなみたいに摂食口 で食べられたら、いいんだけど」
コータセレステの胸元に摂食口はなかった。皮膚は繋がり、腔の組織が構成された片鱗もない。吐卵口から摂食することに恥らっている様子の彼からイツミは目を逸らした。それでも触手は解かれることなく絡み続ける。
「イツミさん、オレ逃げないよ」
ケミカル糧秣を齧る乾いた音がする。触手は彼の腕が動くたび引っ張られた。コータセレステの体表を放すことができない。御せなかった。
「分かってる」
「…イツミさん」
触手が解けない。まるで所有者を変えたように。それか、麻痺している。イツミのほうではコータセレステから触手を解こうと努めていた。
「解 けない」
「触ってもいい?オレが解 くから」
返事をする前に彼の腕に巻き付いた触手へ彼の手が触れた。
「…っ!」
「ぁいッて、!」
防御反射によってコータセレステの手は静電気で弾かれる。イツミは腰部が溶かされるような、繁殖行為に似たもどかしさがそこに広がった。しかし脆く弱い蒼玉人に電撃を浴びせてしまったことに気を取られた。指で小突いただけでも蒼玉人は全身骨折をしかねなかった。皮膚が焦げ、骨が粉砕されてしまったかも知れない。
「見せろ」
「だ、大丈夫!ちょっとびっくりしただけ…」
触手はまだコータセレステの体表を食い締めていた。やっと意のままになった蔦状の一部でその腕を引き寄せた。体表組織は見たところ異常はなかった。触れてみても痛みを訴えたりはしなかった。それどころかもう片方の手で触手を引っ張りながら糧秣を頭部口吻に運んでいた。彼と居ると送受器は意味を為さなかった。メッセージを送ってみても応えはなく、また彼からも何も伝わってこなかった。
「もっと食え」
蒼玉内生命体は腹が減るとすぐ機能停止し、復活しない。蒼玉に暮らしていた時も、定期的に一定量を口から摂食しなければまともに歩行もできなくなった。その蒼玉人が最低限艦玉個体の機能を保つための食物 で事足りるはずがなかった。
「じゃあ、もっといただきます」
「水を持ってくる」
また外に出て、ケミカル棚田を降っていく。艦玉水の流れる川があった。蒼玉のものと質はほぼ同じで、しかし蒼玉のものと違い、艦玉星府によって成分は一括管理されている。適当なボトルに汲み、活動するだけで容易に機能停止する蒼玉人へ運んだ。彼は水を見るとブラウンの瞳からレーザー光線を出しかねない勢いだった。あまり珍しいものでもなく、艦玉では養個体の欲しい番 が有用卵を吐くための養分にするか、感触や味付けて楽しむかする程度のものだった。蒼玉人と違い嗜好品に過ぎなかった。
「ありがと!ちょうど飲みたかったんだ」
ボトルが傾き、水の音がした。艦玉水によって唇襞が照った。その上を舌が這う。卵を吐く穴の器官を何事もなく晒している。卑猥で破廉恥なことに気付かない。目が離せなかった。
「これからどうするの?」
ブラウンのはずの瞳が燈火に上塗りされていた。イツミは指から爪が伸びていくのを自覚する。ボトルはケミカル藺草マットに転がり、コータセレステはそこに倒れた。陰が重なる。蒼玉人に送受器がないことを初めてイツミは都合の良いものとして捉えた。
「痛いよ、イツミさん…」
触手核が勃起する。触手のほとんどはコータセレステの下半身に巻き付き、残りはケミカル藺草マットを叩く。体表が密着していく。送受器の盤が入っている額と蒼玉人の額を合わせる。グランシャリオ的なドラマでよく観るシチュエーションではあったが床人にもやったことがなく、この行為に何の意味があるか分からなかった。それはおそらく初めてで、その相手が艦玉個体ではないからだ。
「するの…?」
「しない」
「イツミさん……なんか、変です」
自身の触手によってコータセレステとともに螺旋に呑まれていく。
「イツミさん…」
彼は自身の状況が分かったようだった。触手で巻かれている様に目を丸くし、イツミを突っ撥ねる。まだ動きようのある上半身を逸らし、彼はイツミとの間に距離を作ろうとして暴れた。
「やだ、やだ…放して、やめて!」
叩き潰した翅虫がそこにあるようだった。触手核がコータセレステの脚の間に当たる。蒼玉人は常時、退化したような触手核と卵袋を脚の間にぶら下げていた。おそらくそれが繊維越しに当たっている。
「イツミさん…イツミさん、イツミさん…」
重なった脚を組み替える。コータセレステが蒼玉人で送受器を持たないため、わざわざ声帯を使い個体識別番号ではなく固有名を連呼するということにイツミは触手を巻き付ける力を強めた。脇腹まで塒 は近付いている。
「怖い…」
コータセレステは至近距離に迫るイツミから首を伸ばし、喉を反らし、顔を背け、逃げようとする。イツミは繁殖欲求が止められなかった。肩や胸を押される。体表接触で押さえ込む。ひ弱な蒼玉人が艦玉個体に敵うはずがなかった。
「や、だ…や…」
下半身を緩く動かした。繁殖欲求にはち切れんばかりの触手核がコータセレステの下半身に圧迫される。
「オレ……いきなりは、ムリ…」
「壊れるからか」
「ちゃんと、慣らさないと、また……この前みたいになるし…」
「識別固有名 ジェミニと交接する時も?」
ほぼ真下にある目が見張った。抵抗の力が強まる。
「みんな、やっぱりそういうの、分かるんだ……オレと、固有名チアキのこと…」
「透視すれば」
「オレ、それも…できないや」
イツミは下半身を下半身で押した。触手核が擦れる。手も入らないほど密着したまま触手が巻き付き、そこを擬似交接として騙すこともできない。首を倒せば体表の接しそうなほと近くで、イツミは身体を動かした。触手核が蒼玉人の交接器に当たる。
「イツミさん…イツミさん、やめてよ、放してよ」
コータセレステは身を捩 る。その分、触手が張った。
「識別固有名ジェミニとはどうしている?」
「やだって……」
「教えろ」
「い、や!」
触手は勢いを増し忽 ち2人を巻き上げた。狭すぎる繭の中で、コータセレステはその目から水を流しはじめる。光は閉ざされていたが艦玉個体は暗視できる。しかし蒼玉人はおそらく出来ないだろう。
「なんでこんなことするの?オレ、イツミさんに何かした?」
声が震えている。興奮状態にあるようだった。コータセレステは拒絶を示しているがイツミも制御しきれないことだった。しかし焦ることはなかった。触手の繭の中でコータセレステは鼻を啜る。
「イツミさん、怖いよ。もう帰りたい」
「ジェミニ珠川とはどう交接した?」
「やだって……やだ、やだ…」
「ジェミニ珠川に繁殖欲求を覚えるのか?」
狭い繭の中でコータセレステは力一杯イツミを遠ざけようとする。イツミは触手核をさらに押し進める。蒼玉人の退化した触手核の弾力を感じた。
「開けて、ここから出して!イツミさん、イツミさん!」
「交接する」
「ここから出して!このままじゃやだ!」
複雑に絡み、伸びきった触手が繭を解きはじめる。イツミはコータセレステを放さなかった。腕の体組織と骨を握り潰してしまいそうで、加減をすると振り払われる。壊れにくそうな肩を掴み、逃さなかった。繁殖欲求が高まる。腹の奥で卵が迫り上がった。
「ひどいよ、イツミさん。ひどいよ…」
この個体の有用卵を吐きたい。しかし蒼玉人にそれは叶わなかった。触手の繭から解放され、コータセレステはイツミから離れたがった。
「逃げないん逃げないから……ほかに行くとこないし…」
「繁殖する」
コータセレステは口襞を歪ませた。艦玉個体にはない仕草だった。真新しさは卑猥に映る。彼には羞恥心がない。コータセレステは目蓋を閉じた。イツミはケミカル繊維を脱がせる。湿度の高い彼の体表は行燈に照り付け、震えていた。少しずつ逃げようとしている。イツミは引き締まった尻たぶを掴んだ。触手核は今にも繁殖液を吹き出しそうだった。伸びきってまだ縮まない触手は様々に踊り狂い、そのうちのひとつが吐卵孔、蒼玉人の摂食口に侵入した。固く閉じていた目蓋が持ち上がる。ブラウンの瞳はレーザー光線を放ちそうだった。イツミもレーザー光線を撃ち返してみようと思い付いたが、同時に蒼玉人は破壊された器官の修復能力が著 しく低いことも思い出された。
「む、り…!できない、オレ…っ!」
触手の先端が分泌液を出しながらコータセレステの摂食口を掻き回す。蒼玉人は摂食口に分泌液があった。自身の分泌液とよく混ぜ、相性を測る。
「イツ……ミひゃぁ……っぁ…」
柔らかな口腔器官を甚振っているうちに多量の分泌液が漏れはじめる。ブラウンの瞳が据わる場所からも水が落ちる。繁殖衝動は抑えられなくなり、触手核よりも細い触手がコータセレステの尻たぶに潜み、小さな孔の具合を窺った。本来は相手の触手と絡み合い、塗り合うはずだった分泌液をそこに塗 す。
「あ、うぅ…っ、!」
受信されないメッセージをイツミは送り続けていた。繁殖したい。卵を吐きたい。有用卵にしたい。孵化させたい。育てたい。配偶個体になって欲しい。ジェミニ珠川と交接ごっこをするのはやめろ。
蒼玉人の小さな孔は触手の侵入を拒んだ。発達しづらい触手の筋肉を使ってイツミは彼の中に入り込む。
「ぁあっ!」
コータセレステはケミカル藺草マットを這って、イツミから逃げる。その上に乗った。触手核をそのまま突き入れたい衝動を、その尻たぶに擦ることで抑えた。蒼玉人に擬態していた経験が、どうしてもイツミに加減をさせる。
「イちゅミしゃァ…ぁっんっ、んっ」
触手が蒼玉人の摂食口でのたうった。分泌液を纏った突起状の器官に巻き付き、緩やかに引っ張った。混合液が顎から落ち、ケミカル藺草マットの編み目に広がる。イツミは腕と残りの触手でコータセレステを固めた。摂食口と排泄孔を蹂躙しているようで、その内部と衝動に蹂躙されている。触手を触手核に見立て、交接の要領で抽送する。締め付けられ、奥へ引き込まれていく。繁殖液を出さないはずの触手の先端から別の体液が大量に出ているのを感じる。
「は、ぁっう、!」
「コータ…」
「やめ、て……あっひ、」
耳を齧る。そうすることで艦玉個体は繁殖態勢が促された。
「ぃやァ…!」
「セレステ、セレステ…、セレステ、セレステ!」
きつい体内を触手が蠢いた。
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