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ギセイのカタミ! 2
Side Sleet
荒船おばさんの家で食べたとんかつ美味しかったな、と思いながらドラッグストアで買った少し高い入浴剤の風呂のことを考えて拙宅・嬬恋家の玄関を開く。いつもより軽い力で玄関が引けたと思ったら、目の前に人影が勢いよく迫って、おれの肩が大袈裟に跳ねる。しがないサラリーマンの誰にも会わない休日って感じの服装で、この家には合わない雰囲気は空き巣が何かと思ってギョッとした。おれが行く手を阻んだせいでその男の人は身を大きく引いて、後退したのにその後ろも霞 ちゃんが塞いだ。
「おかえり、霙」
目の前の男の人はおれをまじまじと見て、霞ちゃんもおれを見てるけど手はしっかり男の人を掴んでいる。やっぱ空き巣?クモちゃんのことがすぐに浮かんで、盗まれてしまったらどうしようかと思って、おれはぱくぱくするばかりでクモちゃんのことを訊こうとしたのに霞ちゃんに言うのか男の人に問うのか分からなくなってただ口がぱくぱくしただけだった。男の人はおれが男の人の大きなお目々を覗き込むやいなや霞ちゃんの胸元に自ら飛び込んだ。突然、空き巣の罪を悔悟 したのかと思った。
「霙 ?」
変な人だなと空き巣の背中を見ていたけれど、呼ばれたので霞ちゃんのほうを見た。いつもは凛々しくて、女の人にキャイキャイ言われてる自慢の兄上の緩みまくった顔がある。猫とか犬が可愛すぎる時にする飼い主の顔に思えた。でもおれと目が合うと、一瞬で普段のキリッとした顔に戻った。
「とんかつ食べさせてもらった」
「そうか。良かったな。美味しかったか」
「うん。さくさくしてた」
抱き合うみたいな2人の脇を通り抜ける。
「泊まらない…さすがに悪い……帰りたいんだ」
空き巣は呟くような低い声で、霞ちゃんと随分と親しげに話してておれは何となくどういう関係なのか気になって立ち止まっちゃった。
「遠慮するな。そんな身体で帰れるのか?俺が送っていきたいところだが、さっき飲んでしまったからな…」
「タクシーを呼ぶからいい…!車は明日取りに来る。1日だけ駐車場を貸してくれ」
空き巣?おれは根本から勘違をしているみたいだった。霞ちゃんの大学時代の友達?結構年上に見えるけど、霞ちゃんの大学レベルだとやっぱ何度も落ちて浪人してたのかな。じゃあ友達だったんだ。
「…えっと、だから!俺はお前の部屋には泊まりたくないって言ってるんだ!」
「もしかして視える人なんですか」
え?といきなり口を挟んだから、霞ちゃん'sフレンドはおれを向いた。
「そうだったな。俺の部屋は事故物件というか何というか」
もとは霰 チャンの部屋だったんだけど、霰チャンが何かいる!とか騒ぐから霞ちゃんと変わったんだっけ。おれと霞ちゃんは何も思わなかったけど…もしかしておれと霞ちゃんってそういうの分からないのかな。
「な、に…」
「おれの部屋来ますか。部屋だけは広いですよ。霞ちゃんの部屋でおれ寝ますけど、クモって大丈夫ですか」
霞ちゃん'sフレンドはなんかよく分かってなさそうだった。霞ちゃんはまだ友達の肩を抱いていた。
「いいや。俺たちは布団を敷くから、床だけ貸してくれ」
なんか全然嬉しそうじゃないけど、クモ苦手なのかな。布掛けておけば、クモちゃんも新しい人にビビらないね。
「いや…だから、その、」
「おれ風呂入ってくる。テキトーにどうぞ。霞ちゃん、あれなら水槽に暗幕かけておいて」
霞ちゃんも触りはしないけどクモちゃんには寛容なのに、霰 チャンはクモちゃんのこと嫌いだ。クモちゃんはオス。懐いてるのか分からないけどおれからは逃げない。霰チャンはすぐおれにジャングルの部族がタランチュラを食べる動画見せてくるけど、クモちゃんはおれの友達なんだから食べないよ。
「まだ、泊まると決まったわけじゃ、」
「ほら、弟もああ言ってるんだし。行くぞ。すっかり身体も冷えてしまったな」
おれはなんかちょっと変な感じを受けたけど、霞ちゃんは面倒見がいいからね。風呂のある廊下を歩いていると出てきた霰チャンと鉢合わせた。
「クソチビ」
「ただいま」
腰タオルで、廊下はびちゃびちゃ。水泳とかフットサルとかサーフィンとかバスケットボールとかよくやってるから霰チャンは線は細いながらも筋肉ばきばきで浅黒いけどピンピンしてる汚いプリン頭のせいかちょっと野良犬みたいだった。
「アイツカエッタ?」
「うん?」
「会わなかったか?なんか、人来てんだよ。帰ったんかな?帰ったよな、さすがに。こんな時間だぜ?常識的に考えてよ」
霰チャンは長湯だからな。風呂ってそんな楽しい?
「泊まるよ、あのお目々大きい人でしょ」
「はぁ?」
「だから泊まるんだって。隣の部屋寂しくなると思うけど、霰チャンも来る?」
「行くか!寂しくはならねぇだろ。っつかパンパンあんあんうるせぇだろ。お前は寝られんのか?」
「ぱんぱんあんあん?あんあんぱんぱん?メロンパン?おれはあんま気にしない」
あんぱん?霰チャンは顔中の皺を眉間に集めておれを見下ろす。おれだって170cmくらいあるんだから見下ろすのやめて。
「お前ってほんと……まぁいいや。とっとと風呂入れ。疲れるやつだな」
霰チャンは道をあけて、おれは浴室に入った。
Side Haze
耕幸は震えていてかわいかった。腰が鈍く痛むようで湿布を貼ってやろうと思ったが断られた。床に布団で寝るのは背中が痛いだろうから分厚い物を選び、あとは霙 が戻ってくればすぐにでも寝られる。耕幸はじっと大きな水槽の中のクモを見ていた。
「霰 も霙も忘れていたな」
耕幸は黙っている。照れているのか。可愛い人だ。
「耕幸」
「覚えてるワケねぇだろうが…」
耕幸の灼け爛れた掌を取り、肌が溶けて固まったような肌触りを頬で愉しむ。
「でも俺は覚えてる」
クモクンだったかクモサンだったかクモサマだったかクモノキミだったかとりあえず蜘蛛を眺めている耕幸の唇に食らい付き、そのまま体重をかけて押し倒す。
「ぅんッ……ふ、」
キスだけでは済まなくなった。歯の間を割って入って舌を絡める。耕幸は感じやすい身体だから、少し口の中を荒らしただけで股間を固くしている。身を引こうとするから後頭部を押さえつけると頭を振って嫌がるのが可愛くて可愛くて仕方がない。腰が痛いみたいだから最後までしないけれど、少しいじめてみたくなった。俺の寝間着に包まれた耕幸の耕幸を布越しに握った。
「ふ…っぅんン、ぁ、」
霙が来るのが先か、耕幸がイくのが先か。
【打ち切り未完】
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