「えっーと…佐久間君」 「"君"付け却下」 森保君を佐久間"君"付けで呼ぶ俺を、無碍なく断る森保君。 なんか、ごちゃごちゃしてる〜。 只今、午後10時33分。 このやり取り、前にもあったような…。デジャブでしょうか？ 森保君の提案に、戸惑いを隠せない俺。 急に名前呼びで、しかも"君"付けなしって、…ちょー親友っぽい！ それに、"モリー"より名前呼びの方が、なんか良いなぁ…。 「へへっ」 「藤、何笑ってんだ」 そして、佐久間君も俺のこと"藤"って…。 「へへへっ」 「おーい、三島ー」 「ハイっ？」 えっ、もう名前で呼んでくれないの？ 「三島が、"佐久間"って呼ばないんなら、俺も今まで通りだぞー」 それはヤダ！！ 「待って待って！呼ぶ呼ぶ！呼ぶから！」 「じゃー、どうぞ」 名前で呼ぶだけなのに、なんだこの緊張感…。 佐久間君…じゃなくて、佐久間、佐久間、佐久間…。 「さ、さ、くま！」 「藤、どもりすぎ」 俺を呼ぶ声と一緒に耳に響く、森保君の笑い声。 なんだかいつもより嬉しい。 「その調子だと、心ん中じゃ"森保君"言ってそうだな」 正解です。 「俺は、いつ"藤"って呼ぼうか、結構悩んでたんだけど」 「えっ、ホント！？」 それならそうと早く言ってよ森保君！ いつでもウエルカムでコールミーだったのに。 「んーどうだろう？」 えっ、嘘なの！？ 「ちょっ、森保君、そこ重要！」 「ハイ、言い直し」 ゔー。 「サ、サクマ、ソコ重要」 「なんで片言」 さっきよりも、森保君の笑い声が耳に響く。 "なんだか"じゃなくて、確実にいつもより嬉しい！ 「藤は慣れるまでぎこちなさそうだな」 「んーそうだねー」 確かに、呼ぶ前に一呼吸いや三呼吸ぐらいいるね。 あと、周りのことを考えると、なおさら緊張してどもるの確実です。 でも、慣れればこれも"いつものこと"になるだろうし…。 「じゃーとりあえずは、二人になった時だけにするか」 ん？ 「ふたり？」 「昼メシんときとか、この電話の時間とか。二人のときは名前呼び。普段は"森保君"でいいから」 「…うん」 俺的には、みんなに周知させたい。 俺も森保君と仲良しなんだゾ！って。 まぁ、自然に言えない俺が悪いんだけど…。 さっきまで嬉しかったのに、少し哀しくなってきたなぁ…。 「コレは、二人だけの約束ごとな」 「ふたりだけのやくそくごと…？」 「そう。二人の時は、藤は俺のことを"佐久間"って呼ぶ」 「ふたりの時は、逆に、さ、佐久間も俺のこと"藤"って、呼ぶ…？」 「そうそう、その調子！いいな、藤の"佐久間"呼び」 電話越しに伝わる小気味良い笑い声。 耳だけじゃなく、体じゅうに響く森保君の笑い声。 俺、やっぱり… 「…森保君の顔が見たい」