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7-S①
「えっーと…佐久間君」
「"君"付け却下」
俺を佐久間"君"付けで呼ぶ藤を、無碍なく断る俺。
なんか、ごちゃごちゃするわ。
只今、午後10時33分。
窮鼠に噛まれたような気まぐれ猫に、内心ほくそ笑む。
まぁ俺は窮鼠ではないが。
俺の提案に、戸惑いを隠せない藤。
急な名前呼びの提案だったが、やはり好感触のようで。
「へへっ」
嬉しそうな顔してんだろうな。
「藤、何笑ってんだ」
「へへへっ」
って、まだしっかり"佐久間"って呼ばれてねーけど。
「おーい、三島ー」
「ハイっ?」
「三島が、"佐久間"って呼ばないんなら、俺も今まで通りだぞー」
とか言ってみると…。
「待って待って!呼ぶ呼ぶ!呼ぶから!」
ほーら、食いついた。
「じゃー、どうぞ」
呼んでくれるんだろ、俺のこと?
「さ、さ、くま!」
「藤、どもりすぎ」
案の定、上手く言えない藤に笑ってしまう。
あぁ、オマエのその緊張が特別なモノだと思いたい。
「その調子だと、心ん中じゃ"森保君"言ってそうだな」
そうだろ?
「俺は、いつ"藤"って呼ぼうか、結構悩んでたんだけど」
「えっ、ホント!?」
ホントだよ。
俺もタイミングが見失ってたんだよ。
ただ、素直にそう言うのは何か癪だ。
「んーどうだろう?」
「ちょっ、森保君、そこ重要!」
「ハイ、言い直し」
「サ、サクマ、ソコ重要」
「なんで片言」
こっちがこんなに近づいても、この調子なんだよなぁ。
「藤は慣れるまでぎこちなさそうだな」
「んーそうだねー」
それなら…、
「じゃーとりあえずは、二人になった時だけにするか」
「ふたり?」
そう、二人の時だけ。
「昼メシんときとか、この電話の時間とか。二人のときは名前呼び。普段は"森保君"でいいから」
「…うん」
俺的には、周りに俺達の事なんとなく分からせたいのだが。
ただそうなると、他の奴らも"藤"って呼びそうだしな。
特に某王子とかすぐ呼ぶだろ。
それはマジで勘弁だから…、
「コレは、二人だけの約束ごと」
「ふたりだけのやくそくごと…?」
特別な約束ごとにしよう。
「そ。二人の時は、藤は俺のことを"佐久間"って呼ぶ」
「ふたりの時は、逆に、さ、佐久間も俺のこと"藤"って、呼ぶ…?」
秘密の約束ごとにしよう。
「そうそう、その調子!いいな、藤の"佐久間"呼び」
誰にも言わせない。
"藤"は俺だけのモノ。
俺だけの……。
「…森保君の顔が見たい」
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