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7-S②
「えっ」
初めて聴いた、藤の淡い声。
"なっちゃん"を呼ぶような、あの優しい甘い声とも違う。
簡単に消えてしまいそうな藤の声。
「あ、いや、えっと、ごめん。森保君じゃなくて佐久間だよね!」
慌てて訂正する藤。
名前呼び、一瞬忘れてたわ。
ただ、さっきのがオマエの本心だと思ったら…。
「…今のはいい」
いつも思っていた。
藤は、いつの間にか、別の新しいトコに行くんじゃないかと。
どうすればオマエを俺のトコに留めておけるかを。
だから、特別を用意した。
二人だけという特別。
それに、秘密を付随させた。
二人だけの秘密。
ただ、それだけじゃまだ心配だ。
真綿でフカフカの寝床に、甘いモノを沢山与えて、ココが心地良い場所と思わせなければ。
二人でいることが、一番だと思わせなければ…。
「ううん、よくない。佐久間って絶対呼ぶ!」
気まぐれ猫は、お気に召してくれたよだ。
さぁ、こっちに来い。いっぱい可愛がるから。
もっと…こっちに来いよ。
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