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12-S with N①
「二人とも先にお風呂入ってきて。その間に、ご飯の用意しとくから」
「はーい!」
「いいのか?」
「なっちゃん、一度言い出したら聞かないから」
風呂へ促す藤と元気よく返事するなっちゃん。
俺が聞いたのなっちゃんと一緒に風呂に
入る事じゃないんだが。
普通に、友人として泊まらせもらうのはあまり好きではないので、何か手伝わせてほしい。
只今、午後5時57分。
できれば、一緒にキッチンに立ちたかった。
結局、藤が夕飯の用意をする間に、俺となっちゃんは先に風呂へ。
藤の話から、頭や身体を洗ったり、ほぼ藤がやっていたようだが、
「わたし、自分でできるよ!」
と言ったので、なっちゃんにやらせてみたら、普通にひとりでできた。
「ふーちゃん、ぜんぜんわたしにさせてくれないの!ぜーんぶ、ふーちゃんがしちゃうの!」
少し頬を膨らませ、まさに"プンスカプン"といった感じだ。
「ふーちゃんは、なっちゃんの事が大好きだからだよ」
泡を流すためシャワーをかけながら言う。
「わたしも、ふーちゃんのことだーいすきだよ。でも、もうわたしひとりでできるのにさ、いつもさ、ふーちゃんが、やっちゃうの」
藤、そろそろ妹離れした方がいいぞ。
確実に、"思春期の娘を持つ父親"状態になるぞ。
「でも、ふーちゃんの気持ちも分からなくもないかなー」
「わからなく、もないー?」
ざぱんっと二人湯船に浸かる。
「だって、なっちゃんみたいな可愛い妹がいたら、俺だって、変な虫がつかないように大事に大事にしたくなるよ」
閉じ込めたくなるぐらい。
「んー、ごめーん。さっくんが言ってること分かんない。ヘンな虫?わたし、お花じゃないよ?」
「んーとね、変な虫っていうのは、なっちゃんにちょっかいを出すようなお友達のことかな」
まぁ説明しても、まだ分からないか。
「あっ!アキくんのこと?」
「うん?」
「あのね、同じクラスのアキくんね、うしろのせきなんだけどね、いつもわたしのかみひっぱるの。やめてっていってもひっぱるの。だから、あんまりすきじゃないのアキくん」
「……」
その話、俺が聞いてよかったのか?
まぁ、藤が聞いたら聞いたで、小学校に乗り込んで行きそうだけどな。
そして…、顔知らぬアキくんよ。
その『好きな子にイタズラしてしまう』は、逆効果だから、早急にやめろ。
そんなのは、好きな子からしたら、ただの嫌がらせでしかないからな。
すでに、なっちゃんから嫌われているぞ。
「じゃーさ、じゃーさ、ふーちゃんにはヘンな虫ついてない?」
「え?」
「ふーちゃん、お兄ちゃんだけどかわいいから。でもね、わたしだとね、小さいから、ふーちゃんのこと、だいじにだいじにできない」
そうだね、なっちゃん。
でも、大丈夫だよ。
「なっちゃん、俺がふーちゃんのこと大事に大事にするから、心配しないで」
閉じ込めはしないから。
「うん。さっくんが、いつもふーちゃんと、いてくれてるの知ってる。ふーちゃん、さっくんのはなししかしないから」
「そうなの?」
「うん。わたしが今日のおはなしして、って言ったら、いつもさっくんのコトばっかりはなすの」
藤がなっちゃんに俺の事話しているのは想像がついていたが、実際になっちゃんの口から聞くと、なんか恥ずかしいな、オイ。
「でもね、たまにね、ふーちゃん、さっくんのはなししてるとね、とつぜん『アレはもりやすクンがワルい!』とか言うの」
オイ、藤、オマエなっちゃんに、俺のどんな話をしてるんだ。
「さっくんは"ヘンな虫"じゃないよね?」
「…」
…女の勘、侮れねー。
「じゃぁ、もし俺が"変な虫"だったら、どうするの?」
そんななっちゃんには、ズルい質問で返させていただくよ。
「んーそうだねー…さっくんがヘンな虫でもね、ふーちゃんさっくんといると思う。だから、わたしもさっくんがヘンな虫でも気にしなーい」
「何でそう思うの?」
「きっと、ふーちゃんはさっくんのこと好きだから」
「……」
俺も、そう思っているよ。
「さっくんのはなしのときだけだよ。あんなにかわいいふーちゃん」
ニコッと笑って言うなっちゃん。
俺も、その"かわいいふーちゃん"見てみたいな。
「ねーねー、さっくん」
「ん?」
「さっくんは、ふーちゃんのことすきー?」
「…」
ド直球の質問。
ジーッと俺を見つめるなっちゃんの顔は、どこか大人びていた。
嘘や誤魔化しはできない。
真摯に答えなければ。
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