「今日はからあげ？」 「う、うん」 唐揚げを揚げてる俺とその様子を見にキッチンに入ってきた佐久間。 「つ・ま・み・ぐ・い！」 そう言って、俺の横からヒョイっと大きめの唐揚げをとって、頬張った。 ただ、熱かったのか、口をハフハフさせている。 只今、午後6時38分。 お父さんのよれっとスエットでも、何故か格好良く見えるイケメン同級生。 何でイケメンって、そんな服でも似合うんだ！ ってか、おかーさん！そんなよれっとした服、佐久間に渡すなよ！ 恥ずかしいじゃないか！！ 「うん、旨い！」 なんとかつまみ食いした唐揚げを食べ た佐久間。 「あ、揚げたてだから熱かったでしょ。火傷してない？」 結構大きめサイズの唐揚げをひと口でいったからなぁ。 「大丈夫。見て」 「！」 そう言ってべーっと舌を出した佐久間。 真っ赤な舌が目に入る。 「火傷してないだろ？」 「う、うん…」 舌を口に戻し、にっこり笑って言う。 かきあげられていた、濡れた前髪のひと束が、佐久間の顔にかかる。 そして、さっき見た真っ赤な舌が、ぺろりと指先を舐める。 その姿からは、唐揚げのつまみ食いが想像できない。 …違うつまみ食いをしたような雰囲気。 な、何かエロいよ、佐久間。 そ、それに、何か近いし。 俺の肩に腕を置き、唐揚げを揚げている鍋を覗き込む。 俺より背の高い佐久間の顔が、真横にある。 顔が一気に赤くなったのが自分でも分かる。 「あ、油がはねて危ないから、向こうで待ってて！」 「なっちゃんじゃないんだから、そんな心配しなくていーよ」 と言って俺から離れる様子はない。 「あ、な、なっちゃんは？」 そうだ、なっちゃんの相手をしてくれ！ 「なっちゃんは夕飯までに宿題終わらすって言って部屋にいった」 なっちゃ〜〜〜ん！ 「さ、佐久間、俺、か、唐揚げ、揚げにくいなぁー…」 どうにかして佐久間との距離をとらないと、俺が茹で上がってしまう。 「あー、ゴメンゴメン！」 パッと離れた佐久間。 あ、アレ？ 「皿とか何か用意するもんある？出しとくわ」 「う、うん。じゃあ、テーブル拭いて、そこの棚からお皿とコップ出してくれる」 「了解」 あれだけベッタリくっついていたのに、簡単に離れていった。 それはそれで、何か寂しい…。 「あとは？」 テーブルセットが終わった佐久間が、まだ手伝える事がないか聞いてきた。 「アッ！ッッッ！」 ボーッと佐久間の事を考えていたら、揚げる前の唐揚げをボチャンと油に落としてしまった。 はねた油が右手にかかる。 「ちょ！藤、大丈夫か！」 佐久間が慌てて俺の手をとって、蛇口をひねり流水にあてる。 「しばらくそうしとけ。残りは俺がやるから」 そう言って、残りの唐揚げを揚げ始めた。 「コレ、サラダ用？」 「う、うん。冷蔵庫の中にあるポテトサラダも一緒に出そうと思って…」 「分かった。冷蔵庫、開けてもいいか？」 「うん」 テキパキと動く佐久間。 慣れた様子で、盛り付けていく。 さながら、某料理コーナーのタレントのようだ。 「さ、佐久間は、よく料理するの？」 「ウチも親が共働きだからな。割とする方だと思う。スープ、もうついどいてい？」 「うん。器はさっきの棚の右上にあるから」 「おいよ」 我が家のキッチンに、佐久間がいる。 しかも、料理してる。 「へへっ」 「なーに、笑ってんだよ」 佐久間がこっちを向いて、呆れ気味の笑顔で言う。 電話だったら見れなかった顔。 その顔を今見れてる、それがすっごく嬉しい。 「ありがと、佐久間」 締まりのない顔してんだろーな、俺。 でも、いっか。 佐久間も嬉しいそうだし。 「手はもう大丈夫か？」 夕飯の用意が終わって、火傷した手を確認する為、佐久間が再び俺の腕を握る。 突然握られ、ビクッとしてしまった俺。 「やっぱ、まだ痛むか？熱いか？」 ち、違うよ！ 火傷じゃなくて、佐久間が握ってる部分が熱いんです！ ついでに、その心配そうな顔も熱さの原因です！ 「んー跡残るか？」 「く、薬塗っとけば大丈夫だよ。それに、なっちゃんじゃないんだから、そんな心配しなくていーよ」 俺、男だし、これぐらい全然気にしない。 「ソレ、さっき俺が言ったセリフ」 「あ、あれ？そっだけ？」 少し怒った顔でいう佐久間。 ちょっと、怖い。 「薬どこ？」 「で、電話台の扉の中に救急箱があるから」 救急箱をとってきて、俺の火傷に薬を塗る佐久間。 だから、そんな怖い顔しないでよ。 「藤、自分の身体をゾンザイにするな」 火傷した俺の手をさすりながら、鋭い目で俺を見る佐久間。 そんな佐久間から目が離せない。 「いいな」 有無を言わせない声と、エモーショナルな瞳に、俺はただ頷くことしか出来なかった。