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13-S
「今日はからあげ?」
「う、うん」
からあげを揚げてる三島とその様子を見にキッチンに行ってみた俺。
「つ・ま・み・ぐ・い!」
そう言って、三島の横からヒョイっと大きめのからあげをとって、頬張った。
…思ったより熱かった。
只今、午後6時38分。
家着を腕まくりして、ちゃんとエプロンしてるのが藤らしい。
…エプロンはポイント高いな。
「うん、旨い!」
なんとかつまみ食いしたからあげを食べ
た俺。
「あ、揚げたてだから熱かったでしょ。火傷してない?」
少し心配そうに見てきた藤。
そういうのいいな。
なので、
「大丈夫。見て」
「!」
べーっと舌を出した。
「火傷してないだろ?」
「う、うん…」
舌を口に戻し、にっこり笑って言う。
そして、油のついた指先をぺろり。
慌てて鍋に目線を戻した藤が目に入る。
ふーん、そういう態度とるんだ。
俺は藤の肩に腕を置き、からあげを揚げている鍋を覗き込む。
顔は、俺より背の低い藤の顔の真横にもっていく。
普段は入らない、藤のパーソナルスペースにズカズカと入ってみた。
藤を横目でチラリと見ると、顔が真っ赤だ。明らか、料理の熱ではない赤み。
何度も長い睫毛をパタパタさせて瞬きをしている。
「あ、油がはねて危ないから、向こうで待ってて!」
「なっちゃんじゃないんだから、そんな心配しなくていーよ」
おおっ、意識してるね藤君。
「あ、な、なっちゃんは?」
「なっちゃんは夕飯までに宿題終わらすって言って部屋にいった」
やっぱり近いのは嫌?
「さ、佐久間、俺、か、唐揚げ、揚げにくいなぁー…」
どうにかして俺との距離をとろうとしているのが、ありありと伝わる。
「あー、ゴメンゴメン!」
じゃあ、ご希望通り離れますよ。
「皿とか何か用意するもんある?出しとくわ」
「う、うん。じゃあ、テーブル拭いて、そこの棚からお皿とコップ出してくれる」
「了解」
そのくせ、離れたらそんな哀しそうな顔するからなー。
「あとは?」
素直になれよ。
「アッ!ッッッ!」
揚げる前のからあげをボチャンと油に落としてた藤。
はねた油が、藤の右手にかかる。
「ちょ!藤、大丈夫か!」
何してんだ!結構、油かかったぞ!
今すぐ水で冷やさないと、跡になる。
「しばらくそうしとけ。残りは俺がやるから」
流水に手をかける藤を気にしつつ、夕飯の用意をさせてもらう。
「コレ、サラダ用?」
「う、うん。冷蔵庫の中にあるポテトサラダも一緒に出そうと思って…」
「分かった。冷蔵庫、開けてもいいか?」
「うん」
俺が大人しく座ってれば、藤は火傷しなかったんだよな。
「さ、佐久間は、よく料理するの?」
「ウチも親が共働きだからな。割とする方だと思う。スープ、もうついどいてい?」
「うん。器はさっきの棚の右上にあるから」
「おいよ」
藤が、いまだに俺に緊張するの分かってたのに、料理中に近づいた。
本当、ごめん、藤。火傷させて。
「へへっ」
…って、
「なーに、笑ってんだよ」
こっちは、自分の所為でオマエに火傷させたって、すげー反省してるのによう。
「ありがと、佐久間」
俺、オマエに火傷させたんだぞ。
"ありがと"ってなんだ。
そんで、その顔はなんだ。
オマエのそんな笑顔、初めてみた。
「手はもう大丈夫か?」
火傷した手を確認する為、再度藤の腕を握ったら、ビクッとした藤。
「やっぱ、まだ痛むか?熱いか?」
あぁ、あの綺麗な手に赤い火傷が…。
「んー跡残るか?」
「く、薬塗っとけば大丈夫だよ。それに、なっちゃんじゃないんだから、そんな心配しなくていーよ」
ハァーッ!?
「ソレ、さっき俺が言ったセリフ」
「あ、あれ?そっだけ?」
藤、オマエ何言ってだ!
「薬どこ?」
「で、電話台の扉の中に救急箱があるから」
どうかこの火傷の跡が、完全に消えてくれるように…。
「藤、自分の身体をゾンザイにするな」
特に、この綺麗な手には傷ひとつつけるな。
「いいな」
この綺麗な手に痕をつけていいのは俺だけだ。
それ以外は、藤、オマエ自身でも許さない。
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