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15-F
「…さくま、なっちゃん、ねた?」
「あぁ、ねてる」
なっちゃんが寝てるかどうか小声で確認する俺とそれに小声で返答する佐久間。
只今、午後10時31分。
できれば、佐久間も寝落ちしててほしかったなぁ。
ふすまを少し開けると、右膝をついて寝そべり、左手でなっちゃんをトントンと優しく叩く佐久間が目に入った。
「水、持ってきた」
なっちゃんを起こさないように、そーっと客間に入り、そーっと佐久間にペットボトルを渡す。
「あぁ、ありがとう」
なっちゃんの寝顔を確認した佐久間。
左手のトントンを止めて起き上がり、俺が差し出したペットボトルを受け取る。
「ありがとう、なっちゃん寝かしつけてくれて」
そう言いながら、なっちゃんの左側に敷かれていた布団に入るった。
冷んやりしたシーツが、お風呂での熱を落ち着かせてくれる。
「いやいや、こちらこそだよ。急な泊まりだったのに。ホント、ありがと」
豆電球の明かりが佐久間を照らす。
柔らかい顔でこっちをジッと見る佐久間に、すぐに熱がぶり返す。
ふと、佐久間の視線がなっちゃんに落ちた。
「それにしても、なっちゃん天使だな。藤がシスコンになるのも分かるわ」
遊び疲れてぐっすり寝ているなっちゃんを見ながらクスリと笑った佐久間。
「そ、そうだろ」
やっぱり…。
なっちゃんの事褒めてくれてるのに、あんまり嬉しくないっていう…。
「俺んトコは姉貴だからな。小学校ぐらいまでこき使われてたわ」
小さかった頃を思いだしたのか、少し苦い顔をした佐久間。
そういえば、佐久間の家の事あんま知らない。
いつも俺の事ばっか話してる。
「佐久間は、おねーちゃんがいるんだ?」
「ああ。4つ離れた姉貴がいる」
「へぇー。佐久間に似てる?」
「そうだな。よく似てるって言われるな」
「じゃあ、美人なおねーちゃんだ」
「まぁ、弟が言うのもだけど、美人だな」
「なーんだ、佐久間もシスコンじゃん」
「俺はオマエみたいに、ベッタリじゃねーよ」
あ、この声のとき、佐久間こんな顔してたんだ。
電話じゃ見れなかった佐久間の顔。
「何ニヤニヤしてんだ」
「へへっ、別に」
嬉しいのが顔に出ていたようだ。
「なぁ、また藤の家、遊びに来てもいいか?」
え、また来てくれる?!
「も、もちろん!」
すっげー嬉しいけど…、
「なっちゃんも喜ぶよ」
なっちゃんの名前を出して誤魔化す俺。
だってさ、なんだか分かんないんだよ。
今日もすっげー緊張して疲れたのに、それ以上に佐久間がいるのが嬉しいとか。
「なぁ、なっちゃんだけ?」
「えっ?」
「藤は喜んでくれないの、俺のお泊まり?」
玄関で見せたイタズラに笑う顔。
ゔぅ…可愛いすぐる。
佐久間の必殺《美少年の悪戯な微笑》にマゴマゴしてると、
「そうだ、今度は藤が俺ん家に泊まりに来れば?」
パッと閃いたような顔で佐久間が言ってきた。
「そしたら、もっと藤と話せるだろ?」
今度は《きらりん☆アイドルスマイル》キター!
そ、そして、佐久間ん家にお泊まり!?
「なっちゃんと遊ぶのも楽しかったけど、藤ともっと遊びたいなー」
ま、まさかの裏技《甘えたさっくん》…。
さ、佐久間、お主は俺をどーしたいんだーーー!
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