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好きだったよ/2

「水無瀬?」 「…」 無言で振り返った水無瀬の顔に息を飲む… 初めてみる顔… 涙で濡れた瞳。赤く腫れた瞼…あぁ…なんて…綺麗なんだろう…きっとずっと泣いていたのだろう… 抱き締めてやりたい…何があったの? 抱き締めてキスをして笑顔にしてあげられたらどれだけ良いのだろう… 「お前こんなとこで何してるの?すっげぇ酷い顔…」 「お前かよ…隼人…」 やっと発した水無瀬の声はいつものようにきつく…でもいつもよりも…無理してる… 手元に大切そうに抱えられた箱…キラリと光る何か…指輪だ…でも女性のものとは違う…あぁ…そうなんだ…察してしまった 「何それ?指輪?お前付き合ってるやついたの?」 ピクリと肩を揺らす水無瀬。 「…」 「おーい」 「いたよ」 はっきり…でもとても苦しそうに答える 「はあー通りで誰にもなびかないわけだ。別れたの?」 「そうだけど」 でも…諦められないんだね?… 「そ。取り敢えずさ家に来いよ。こんなとこいたら風邪引くぞ?」 最後だから独り占めさせて… 「…」 「ほら」 初めて握る手は少し冷たくて思っていた以上に小さくてこのままどこかへ連れ去ってしまいたい…なんて…叶うはずもないけれど… 自宅に到着するとそわそわと落ち着かない様子の水無瀬が何だか可愛く見えて… 閉じ込めてしまいたい…怖い妄想をしてみたり… 「ご両親は?」 「あれ?いってなかったっけ?俺独り暮らし。親も兄弟も仕事で海外」 あんなにも一緒にいたのに俺のことをほとんど話していないことに気付き苦笑する。 「意外に綺麗にしてるんだな」 本当に意外そうに呟く水無瀬にもう一度苦笑して… 「まぁね。物もあんまないし…で?これどうするつもりだったの?」 聞きたかったことを聞いてみる 「あそこで出会ったから元の場所に帰そうと…」 あぁ…もっと早く俺がそこに行っていたら… 君を早く見つけられたかもしれないのに… そうしたら隣にいたのは俺だったかもしれないのに… 「ふーん…相手って…男?サイズがさ…」 わかってるくせに意地悪な質問を投げ掛ける 「あぁ」 「へぇ…お前元々そっちの人?」 どうなの? 「気付けばな」 そうだったんだね… 「あんなにモテるのに…」 「嬉しくはない」 「なら…俺も気持ち伝えとけば良かった…」 言うつもりもなかった言葉が気持ちより先に出てしまう。少し焦る… 「は?」 戸惑う水無瀬も初めて見た。いつも飄々としている水無瀬のそんな姿はやっぱり可愛くて 「俺はずっとお前が好きだった」 もっと…見ていたくて… 「あ…」 「お前がそんなに苦しい顔させられるのなら俺がお前欲しかった。俺ならそんな顔させないのに」 ふふっ…戸惑いすぎ…本当に気付いてなかったんだ…複雑な気持ち… 「ごめん」 「ねぇ。もうさ俺にしない?」 「…」 「なぁんてな…お前まだ整理ついてないだろ?その顔みたら解る」 大好きなんだね?その人のこと…直ぐに忘れるなんて無理だよね?だったら…待ってるから…君が笑えるまで待ってるから…側に俺がいること忘れないで?俺に縋って? 「ごめん…」 「あれ?水無瀬…この箱…リングの下…何かあるぞ。手紙?」 「え?…あ…っ…」 少しだけ見えた手紙の内容に気づかなければ良かったと思った。 あぁ…禁断の恋だったんだね?でも…まだ終わりじゃない… あの人は少しだけ抜けているからこんなに泣かせて… 俺の出る幕なんてないみたい… 幸せになって…俺の大切な人… 好きだったよ。 走り去る君を見送りながら静かに空へ願った… 完

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