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失った光(4)

 父さんは山道に捨てられていた僕を哀れに思い、見て見ぬふりができなかったと、そう言っていた。今となっては遠い過去のあの頃が、とても懐かしい。 「父さん……」  父さんと過ごした日々のことを思い出し、涙していた時だった。ふいに誰かの気配がして、身体が凍りつく。まさか『彼ら』だろうか。  嫌な考えが頭に過ぎる。  ううん、でも『彼ら』は僕の恐怖を煽(あお)るために、人数が少ない時にしか狙ってこないはずだ。だからきっと『彼ら』ではない、はず――。  僕は、縁側を挟んだところにある明るい光の見える部屋をチラリと見た。  みんながいる明るい部屋と、僕がいるこの庭は、見えない壁で隔離されているように感じる。  ――ああ僕は今ひとりで薄暗い庭にいる……。  そう実感すると、言い知れない孤独感が僕を襲った。  背筋に寒気が走る。すると突然、僕の右肩に生温かい何かが乗った。 「っひ!!」  反射的に身体が跳ねる。 「ひとりでいると危ないよ?」  上から降ってきたこの声は知っている。父さんの知り合い、倉橋 千歳(くらはし ちとせ)さんだ。  だけど、本当に彼は倉橋さんなのかな?  違うモノが化けているんじゃないかな?  なにせ『彼ら』は、成り済ますのがとても得意だ。もし、今僕が見ている倉橋さんが偽物だったとしたら……。僕を恐怖へと突き落とそうとしている『彼ら』だったとしたら……。  すごく怖いけれど、本人かどうかを確かめるため、涙でゆがんだ視界のまま顔を上げた。  すると眼鏡の奥から覗く優しい目が僕を見ていた。

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