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幻実。(1)

「この化け物!! お前がお父さまを殺したのよ!!」 「っつ……」  通夜が終わり、今は家族の姿しかない閑散(かんさん)とした部屋で、僕を非難する冷たい言葉と同時に渇いた音が鳴り響いた。  目の前では父さんが棺の中で安らかな表情で横たわっている。  僕は、凍えるような痛みを訴える頬を押さえていた。  奏美(かなみ)さんは恐ろしい形相でこちらを(にら)んでいる。  今となっては唯一の家族である奏美さんの笑顔を、僕はここ数年、見たことがない。彼女の隣に立っている旦那さんの和夫(かずお)さんと娘さんの美紗緒(みさお)さんにしたってそうだ。彼女たちは今、顔を真っ青にして、僕と向かい合う。 「何とか言いなさいよ、化け物!! だから、私はあれほどお前を養子に迎えるっていう父の発言に反対したのに!!」  …………寒い。  身体も、心も、凍えそうなくらい寒い。  もう、誰も僕を必要としてはくれない。そう思うと、胸が苦しくなる。だけどこれは今さらだ。だって僕は捨て子だ。実の両親からもいらないと言われた子供。はじめから、誰にも必要とされていないことを、僕は知っている。  僕は冷たい視線と言葉を浴びせかけてくる父さんの家族たちに否定も肯定もせず、背を向けた。 「人殺しの顔も見たくない。とっとと消え失せろ!!」  和夫さんの冷たく凍った刃のような言葉が、僕の胸を深く突き刺す。僕は無言でその場を後にした。

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