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幻実。(2)

 和夫さんが所有している広い家から出ると、街灯はほとんどなく、夜道は暗い。  ここは高い山々に囲まれた場所――。  地面はコンクリートで覆われている都会とは違い、小石が砂道を覆っている。それに、一歩脇道に()れれば山の中。この道に慣れた人間でなければ、たちまち道に迷ってしまうくらい、道は拓けていない。  僕は暗いところが嫌いだ。『自分』がわからなくなってしまうから……。  だけど僕が恐れるのはこんな闇じゃない。もっと深い。もっと暗い、闇。  僕は自分を守るようにして両手を腕に巻き付け、ひとり、夜の中を歩く。十二年ぶりに再会した家族と別れ、夜の道なき道をしばらく歩くと、見えてくるのは大きな庭がある、あたたかな家だ。ここは僕が父さんと暮らしていた場所。  だけど、父さんが亡くなった今、この家には僕以外誰もいない。父さんが僕を拾ってくれた当初は、和夫さんも奏美さんも美紗緒さんも、誰も僕を邪険にはしなかった。生まれつき色素が薄い髪や白い肌をした僕を気味が悪いとも言わなかった。容姿は誰だって違うものだし、個性があって素敵だと、受け入れてくれた。それに、家にもよく泊りに来てくれた。  当時は僕を悩ます兆候は何もなく、だから父さんも、僕の体質がどういうモノかを知らなかった。それが、いけなかったんだ。まだ幼い僕を両親が捨てたという事実さえ追求すれば、あんな事態にはならなかったのに……。  僕の体質がわかったのは、まもなく幼稚園に入ろうとしていたある日の夜のことだった。その日は奏美さんたち一家が泊まることになっていた。

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