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幻実。(5)

 今までは何事もなかったと思っていた光景――それが実は地獄だったことが判明した。昼間の静かな部屋はラップ音が鳴っていて、誰かが走る足音にも聞こえた。そしてひとつの恐怖に気がつけば、もっと大きな恐怖がやって来た。夜になると、霊体たちは恐ろしい姿で僕の目の前にやって来るようになったんだ。  ……僕を、より恐怖へと引きずりおろすために……。  僕は夜が来るたびに怯えた。霊体たちがあらわれる夜が怖くなった。  だったら眠ってしまえばいい。眠りさえすれば、『彼ら』を見ることはなくなるし、怖くもない。そう、考えた時もあった。だけど僕が眠ってしまえば、また奏美さんの時みたいに今度は僕を拾ってくれた父さんを襲うかもしれない……。  そう思うと、夜も眠れなくなった。  そして眠ることを拒絶した僕の身体は、みるみるうちに衰弱していった。ついには食べることさえもできなくなり、太陽が昇っている間も霊体たちは僕を襲うようになった。傍に、誰がいようとおかまいなしに……。  ある日、眠ることも食べることも拒絶した僕を見かねた父さんは、かねてからの知り合いだった、霊媒師の倉橋 千歳(くらはし ちとせ)さんに相談した。倉橋さんは僕の顔を見ると深くうなずいた。どうやら彼は僕の体質を一目で見抜いたらしい。  そんな彼が言うには、僕の魂はとても綺麗で力が強固なのだそうだ。あの世のモノはこの世界に実体化するため、僕の魂を欲しがるのだと――。

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