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幻実。(6)
だけど僕の魂は汚れていないから、霊体たちは魂を奪うことが出来ないらしい。だから彼らは僕に恐怖を植え付け、魂を汚れさせるのだと言う。どうやら僕はそういう運命の星に生まれてきたらしい。
事実を知ったところで、どうすることもできない。僕は途方に暮れた。だけど霊媒師のところへ行ったその日から、あれほど怖かった毎日はまるで何事もなかったかのようにすっかり消えた……。
きっと倉橋さんが何か対処をしてくれたんだとそう思った。だけど本当は――。
奏美さんが言うとおり、父さんを殺したのは僕だ。思い返せば、倉橋さんと会ったその日から父さんはおかしくなった。おかしくなったというのは、気が狂ったとかそういうことじゃない。以前よりも食欲が落ちたんだ。
倉橋さんのところに行く前までの父さんはたくさんとは言えなくても食事は毎日三食、しっかり摂っていた。それが、二食に減った。そしてけっして太っているとは言い難かったけれど、痩 せすぎてもいない体系だった彼は食事を摂取しないことで日に日に頬は擦り切れ、皮膚だって健康的な赤みがかった肌をしていたのに、茶色くささくれていっていたように思う。
僕が愚かだったんだ……。
自分の体質は倉橋さんのおかげで治ったとばかり思って、有頂天になっていた。でも、本当は違った。倉橋さんが言った『身代わり』っていう言葉。
たしか、霊媒師には『写し身』っていう、誰かの苦痛を別の人に渡すことができる方法があると聞いたことがある。
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