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薔薇の香りは誰のもの?(4)
(誰か、助けて!!)
「……っつ!!」
誰かに助けを求めたい。
だけど恐怖で掠 れて声も出せない。
それに人がいない山奥へと向かって走っている。たとえ声が出たとしても、誰も僕には気づかない。
急に走ったせいで、乱れる呼吸は心臓に負担をかけ、足の速度が落ちる。
『おいついた』
僕の両足が真っ赤に染まっている女の子の手に捕まった。同時に、身体は反転し、激痛に襲われる。
骨ばかりが目立つ僕の身体が女の子によって地面に倒されてしまったんだ。
女の子は僕の足元から、ゆっくりと這い、目の前に、血だらけの顔が見えた。
(たす……けて……。だれか)
「助けて!!」
僕は声をしぼり出し、助けを求めた。
だけどここは人気がない山奥だ。助けを呼んでも、誰も来ないのは知っている。だけど……それは少し違った。
(……なんだろう)
ふわりと、絹のような柔らかい何かが、僕と女の子の間に流れたんだ。すると女の子は何かに脅えたように僕から身体を離し、消えていった……。
(な……に?)
どうやっても振り払えない恐怖は太陽が昇る朝まで続く……ハズだった。それなのに、どうしてあの子は消えていったの?
僕の身に、いったい何が起こっているの?
「…………」
しばらく呆然としていると、不意に何かの匂いがした。その匂いはとても甘い薔薇の香りだ。優しくて、それでいて僕を包み込むような、そんな匂いだった。
(これ、どこから匂ってきているんだろう?)
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