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薔薇の香りは誰のもの?(5)

 倒れ込んでしまった身体をゆっくり起こせば、目と鼻の先に月夜に照らされた一匹のほっそりとした大きな狐がいた。  その狐は、今まで見たこともないくらいとても綺麗だた。狼くらいの大きい白銀色の毛をした身体は月光を浴び、濡れたような雫を思わせる。瞳は……綺麗な真紅。  どこからか匂ってくる、薔薇のように赤いその瞳の色はまるで――。 「くれない……」  僕がぽつりとつぶやくと、狐はこっちを向いた。 「……っつ!!」  なにこれ。目が合っただけなのに、身体が熱い。だけどそれは焼かれるような熱さじゃない。身体の芯からとろけてしまいそうな、そんな熱さだ。 「あ、あの……」  たかが狐。動物に人間の言葉なんてわからないと思うのに、どうしてかな? 僕は口をひらき、さっきまでの恐ろしい出来事も忘れて狐に話しかけた。すると、狐は紅の瞳をスッとすぼめると、すぐに去ってしまった。  ……この時、僕はこれまでにない、何かが起こるのを感じた。

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