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運命の糸。(1)

 望んでいても、いなくても朝は必ずやって来る。僕は父さんに買い与えてもらった勉強机と向かい合って、白じむ空を眺めていた。  ……眠ってはいけない。僕が眠れば、『彼ら』は身体を乗っ取り、僕の魂を汚そうと誰かを傷つける。  一時は消えたと思った体質が――。  また、こうやって一睡もしない時間を過ごさなくちゃいけない日が来るなんて……。  僕が甘かった。父さんに甘えていた。倉橋(くらはし)さんに相談した時、もう大丈夫だと安心してしまった。霊体が僕を襲わなくなったことに、何の疑問ももたなかった。だけど本当は……。  僕は自分の運命から逃げていたんだ。大切な人たちを不幸にしているのは僕じゃないって思いたくて、ずっと逃げていた。  その結果、父さんはこの世から去った。  僕が父さんを殺したんだ。 「…………」  あれからどれくらい経ったのっただろう。昨夜の通夜からこの家に戻ってきてからの記憶はほとんど無い。着替えもしないでそのまま空っぽになった時間を過ごしていた。 「お父さん……っ……っくぅ……」  涙は溢れ、絶えず頬を伝って流れていく……。  人間って不思議だ。食事をしなくても、寝ていなくても、こうやって体内にある水は絶えず流れていくのだから……。  涙が頬を伝う。この涙の意味は父さんを死なせてしまったという懺悔(ざんげ)と――再び繰り返されるだろう苦しい生活を思って……。  今までは父さんがいたけれど、今日からはいない。孤独な日々がはじまる。そう思うと気が遠くなる。

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