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運命の糸。(6)
いったい何が起こっているんだろう。
そっと目を開けてみると、そこには象牙色の肌に、襟足まである長めの綺麗な茶色い髪。それと流れるような目を覆う長いまつげ毛。吸いこまれそうな色をした赤茶の瞳が、見窄らしい僕を写していた。
「バッカヤロー! 危ねぇだろうが、気をつけろ!!」
トラックの運転手は放心状態の僕に怒鳴り声をまき散らしながら通り過ぎて行った。
「大丈夫? 怪我はない?」
その人は薄い唇を動かし、放心状態になっている僕を気遣う。心地好い中性的な声をしていた。
容姿は長いまつ毛に綺麗な目をした女性のようにも見えるけれど男性だ。だって僕を横抱きにしている腕はたくましいし、肩幅だって広い。年齢はたぶん二十六歳くらい。……とても綺麗な男の人。
僕は身体を気遣ってくれる男の人に返事をしないまま、その綺麗な容姿に見惚 れてしまう。すると男の人は口角を上げてクスリと笑った。
その笑顔は華やかで、それでいて優しいものだった。
男の人の微笑みを見た僕の胸が意味もなく高鳴る。
こんな感情ははじめてで、少し戸惑っている反面とても心地好く感じる。
……久しぶりだった。
僕を見ても怖がらない人がいることが……。
そして人の体温を感じることも……。
父さんにはなかった甘い香りが僕を包む。それはとても優しくて、とても穏やかだ……。
父さんがいなくなった数日間は、だけど僕にとってとてもつもなく長く、とても辛い日々だった。
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