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優しい手のぬくもり。(1)

 僕が完全に目を覚ましたのは、夕方になってからだった。  ふと目を開けると、赤色の、眩しい太陽の光が部屋全体を照らしていた。 (ここはどこ?)  身体を起こして辺りを見渡すけれど、ここは父さんの家じゃない。だって父さんの家は和室で、ここは洋室。クリーム色をした壁に包まれた部屋はあたたかい空間をつくり出し、窓からは夏の生ぬるい風が時折ふく。そのたびに、真っ白いレースのカーテンがなびく。すぐ隣には木目調のナイトテーブルがあって、下の棚には、洋書が三冊ほど並んであった。床は畳じゃなくって、モコモコしたカーペット。 (……えっと、今まで何をしていたんだっけ?)  視線を戻し、僕自身を見下ろせば……。  僕がずっと着ている喪服の黒が目に入った。その瞬間、僕の全身が凍りつく。ゆったりとした気分はあっという間に跡形もなく消え失せた。  だって、だって僕は今、ベッドの上にいる。それは、眠ってしまったことを意味するんだ。 (ここはどこ? そして意識を失った僕はいったい何をしたの?) (わからない) (わからない) (もしかして、トラックに()かれそうになった時、僕を助けてくれた男の人の部屋なのかな?)  眠ってしまえば意識を失う。眠りは、僕にとって許されないこと。だって、霊体たちは意識を失った僕に乗り移り、魂を汚すため、誰かを傷つけるはずだ。  まさか、僕はあの優しそうな男の人を手にかけてしまったのだろうか。  奏美(かなみ)さんのように、首を絞めたのかもしれない。 (また、やってしまった!!)

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