28 / 253
優しい手のぬくもり。(1)
僕が完全に目を覚ましたのは、夕方になってからだった。
ふと目を開けると、赤色の、眩しい太陽の光が部屋全体を照らしていた。
(ここはどこ?)
身体を起こして辺りを見渡すけれど、ここは父さんの家じゃない。だって父さんの家は和室で、ここは洋室。クリーム色をした壁に包まれた部屋はあたたかい空間をつくり出し、窓からは夏の生ぬるい風が時折ふく。そのたびに、真っ白いレースのカーテンがなびく。すぐ隣には木目調のナイトテーブルがあって、下の棚には、洋書が三冊ほど並んであった。床は畳じゃなくって、モコモコしたカーペット。
(……えっと、今まで何をしていたんだっけ?)
視線を戻し、僕自身を見下ろせば……。
僕がずっと着ている喪服の黒が目に入った。その瞬間、僕の全身が凍りつく。ゆったりとした気分はあっという間に跡形もなく消え失せた。
だって、だって僕は今、ベッドの上にいる。それは、眠ってしまったことを意味するんだ。
(ここはどこ? そして意識を失った僕はいったい何をしたの?)
(わからない)
(わからない)
(もしかして、トラックに轢 かれそうになった時、僕を助けてくれた男の人の部屋なのかな?)
眠ってしまえば意識を失う。眠りは、僕にとって許されないこと。だって、霊体たちは意識を失った僕に乗り移り、魂を汚すため、誰かを傷つけるはずだ。
まさか、僕はあの優しそうな男の人を手にかけてしまったのだろうか。
奏美 さんのように、首を絞めたのかもしれない。
(また、やってしまった!!)
ともだちにシェアしよう!