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優しい手のぬくもり。(6)
戸惑う僕をよそに、男の人はつらつらと言葉を連ねていく。その言葉は僕がまったく想像していなかったもので……。
目の前の男の人を見ると、男の人はにっこり微笑んだ。
優しい微笑みを向けられて、僕の心臓がトクンとまた跳ねた。
まるで男の人を称賛しているかのようにオレンジ色の夕陽が男の人の背後を包み込んでいる。
「それに、君の肌は純白の真珠のようだ。とても美しい……」
骨張った手の甲が僕の頬を撫でる。瞬間、背中に電流が走った。
でも、幽霊と向き合うような、そんなゾクゾクした怖いものじゃない。
僕の身体はまるで金縛りにあったようだ。動けない。
……ううん、違う。動けないんじゃなくって、動かないんだ。
今、僕が男の人の瞳に写っている。その目があまりにも優しくて――さっきまで確かにあった恥ずかしい気持ちも、罪悪感も消えていく……。頭は真っ白になって、何も考えられなくなる。
ボーッとしていると、かすかに薔薇の香りが漂ってくる。
(香水……かな?)
この香り、前にも嗅いだことあったような気がする。
(……どこだっけ?)
村のみんなは、そんなお洒落なものはつけてないし……。
それに、僕ってばいつ霊体が襲ってくるのかがわからないから、外出なんてしない。
薔薇の香りを嗅いだことがあるような気がしたのは気のせいかな?
「綺麗だね……」
そうこう考えている間に男の人との顔の距離がどんどん縮まる。
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