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優しい手のぬくもり。(9)
「どうして謝るんだい?」
男の人は首を傾げて僕を見つめてくる。
あまりにも優しい笑顔だったから、僕は恥ずかしくなって、視線はまたカーペットの上――。
僕は頭を振って、何でもないと態度でそう告げた。
「どうしたのかな? やはり、さっき階段から落ちそうになった時、どこか打ったかな?」
俯く僕を心配そうに覗き込んでくる。
「……っつ!! ぼくっ……」
「どこか痛む?」
心臓は、バクバクと音を立てて、体内に流れる血液が暴れているのがわかる。
僕は村のみんなから拒絶され続けていた。それなのに、僕は今、父さん以外の人と一緒にいるなんて……。
――説明しなきゃ。
僕が本当に男の人を襲っていないのかっていうことを確かめなきゃ!!
僕がどんなに危険な存在なのかを、この人に教えなきゃ!!
「あ、あの……。僕、寝ている間に……貴方に何かしませんでしたか?」
僕はズキズキと痛む胸を無視して尋ねた。
「何か、というと?」
チラリと視線を上げれば、重なる視線。朝露に濡れたような長いまつ毛が、綺麗な赤茶色の目を覆っている。
(男の人だけどとても綺麗……)
「えっと……あなたを……襲ったりとか……」
何をどう言えばいいのかわからず、口をモゴつかせて喋ると、男の人は口角を上げた。
「君に襲われるのは本望だね」
にっこり微笑まれてしまった。
「――ふぇっ?」
どうしてだろう? 僕の、『襲う』と、男の人の、『襲う』の意味が違うような気がする……。
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